学位論文要旨



No 112260
著者(漢字) ニコム,ラムサック
著者(英字)
著者(カナ) ニコム,ラムサック
標題(和) オイルパームの葉柄を原料とするボードの製造と材質
標題(洋) Development of Boards Made from Oil Palm Frond
報告番号 112260
報告番号 甲12260
学位授与日 1996.11.11
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第1727号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 生物材料科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大熊,幹章
 東京大学 教授 岡野,健
 東京大学 教授 有馬,孝禮
 東京大学 助教授 小野,擴邦
 東京大学 助教授 飯山,賢治
内容要旨

 Oil Palm(Elaeis guineensis Jacq.)は果肉よりパーム油を採る目的で熱帯地域、特に半島マレーシァを中心に広く栽培されており、地域の重要な産業になっている。統計によれば全世界でPlantation面積は500万haに上るという。植えてから3年ほどで結実を始め、約25年間果実を採取した後、伐倒され、若木に代えられる。この間、樹体を活性化して結実を促進するため、またPlantation地区内の作業を容易にするために適宜葉柄(Frond)を切断して落枝させる。通常一樹体について10日に1本、年間40本程度切断するが、これを林地内に放置すれば病原菌や害虫の格好の標的になってしまうため、その処理が大きな問題になっている。

 一方、見方を変えればこの廃棄されるOil Palm Frondは、貴重なリグノセルロース資源と言える。調査結果によれば、Frondは年間1ha当たり3.5ton得られるので全世界で約1,800万ton/年の資源量となり、しかもパーム油生産の副産物として生きた木から連続して持続的に得られることは大変興味深い。

 Oil Palm Frondの利用については、現状では燃料が主であり、材料としての本格的な利用は実現されていない。このような状況を踏まえて、ここではこのFrondをチップ化してエレメントとするパーティクルボードの製造を試み、材質を測定し新しい材料開発の可能性を考察した。以下に論文内容の要旨を示す。

1.ボードの製造と材質試験

 タイ国南部の10-15年生のPlantationから採取したFrondをバンコクのカセサート大学において長さ5-40mmの大きさの(原料)チップにし、これを含水率12%程度に乾燥した。この時点での比重は0.19-0.22であった。このチップを日本(東大農学部)へ運び、実験室のハンマーミルにかけて砕いたのち、スクリーンによってに示すような5つの大きさのグループにふるい分けした。これらの各グループから一定の重量割合でチップを取り、混合してA、B、2種類のチップ群を準備した。細かいAチップは表層用、粗いBチップはコァー層用チップと考えてよい。

 全乾状態に乾燥したチップにユリヤ樹脂接着剤(UF)、フェノール樹脂接着剤(PF)およびイソシアネート樹脂接着剤(IC)を含脂率がそれぞれ12%、6%、3%になるようにスプレイ塗布した。これらのチップを厚さ12mm、寸法300mm×400mmの板になるよう手でもってフォーミングするが、AチップとBチップを以下の組み合わせで散布してチップ構成に関して4種類のボード(C1、C2、C3、C4)を製造した。

 C1:全てBチップ、 C2:Aチップ1/6-Bチップ2/3-Aチップ1/6、

 C3:Aチップ1/3-Bチップ1/3-Aチップ1/3、C4:全てAチップ

 目標密度0.5g/cm3、0.7g/cm3、0.9g/cm3に調整して通常の方法でボードを熱圧成板した。各種類3枚ずつ、合計108枚のボードを作成した。

 これらの供試板を20℃、65%RHの恒温恒湿室に2週間以上放置したのち、JISA5908に準じて曲げ試験、剥離試験、厚さ膨張試験等を行った。

2.製造されたボードの材質

 製造されたボードの外観は通常のパーティクルボードと変りらなかった

(1)曲げ強さ(MOR)

 ボードの密度が上昇するとともにMORは直線的に増大して行くが、この傾向は通常のパーティクルボードと同様である。等厚構成の3層ボードであるC3ボードが最も大きな強度を示し、粗いチップのみを用いた単層ボードであるC1ボードが最も低いMORを示すことは、曲げに効く表層密度の差、表層におけるチップ間接合力の差から十分に理解できる。ボード構成を3層構成(C3構成)にした場合における接着剤の種類を変えたときのMORとボード密度の関係を見ると、同じくMORはボード密度と直線関係にあるが、IC、UFボードに比べてPFボードのMORは低い。この原因は、Oil Palm Frondを構成する(含有)化学成分のうちのある部分がフェノール樹脂の縮合反応を阻害していると考えられる。いずれにせよ、ボード密度を高めれば通常のパーティクルボードの18、13、8タイプに対するJAS基準値を満足するボードが得られることが認められた。

(2)剥離強さ(IB)

 MORと同様に密度の上昇とともにIBは直線的に増加するが、やはりPFボードの値が小さい。しかし、JAS基準値は十分にクリアーしており、通常のパーティクルボードに比べてもIC、UFボードでは勝るとも劣らない性能を保持している。

(3)厚さ膨張率(TS)

 全体的にJASにより規定されている限界値12%を満足していない。構造的用途に供するためには、何らかの方法による耐水性の向上が求められる。

3.Oil Palm Frond Strandを用いた配向性ボードの材質

 長さ75mmの細長いエレメント、即ちStrandを用いて、3層ボード(層構成1:2:1、コァー層の配向方向は表層に直交)を製造した。曲げ試験の結果、縦横の性質のバランスが良いことが認められたが、通常のランダムボードに比べて、性能が落ちる。この理由は、厚い大きなチップで構成される本ボードにおいて、チップ間に空隙が多く存在するために接合力が低下するためであろう。そこで細かいチップを混入せしめたところ、曲げ性能は格段に上昇した。細かいチップが空隙に入り込み、チップ間接合力を増加させたものと考える。

4.Oil Palm Frondの化学組成と接着剤無添加ボード製造の可能性

 Oil Palm Frond化学組成を分析した結果、Oil Palm Frondは広葉樹、針葉樹等通常の木材に比べてアルコール-ベンゼン抽出物およびヘミセルロースが多いことが判明した。特にヘミセルロースが木材の1.5-3倍存在することは大変興味深い。また、リグニン抽出の歩留まりが極めて高いことも認められた。そこで、これらの化学成分が接着剤として機能するのではないかと考え、原料チップを高温高圧水蒸気による爆砕処理を施し、そのまま乾燥してフォーミングしてボードを製造した。黒い色をした固いボードが得られたが、24時間吸水させても厚さ膨張率は6%程度でありかなりの耐水性能を示す。ヘミセルロースの一部が水蒸気爆砕処理によって活性化して接着機能が生じたものと考える。また、リグニンが繊維の外部に露出してきて熱圧締時に塑性化して接着作用を行なうものと判断した。ここにOil Palm Frondのチップを原料とすれば接着剤を使用せずに耐水性の高いボードの製造が可能であると考える。

5.結 論

 以上の実験結果から、Plantationの副産物として持続的に大量に得られるOil Palm Frondを原料として、通常のパーティクルボードに材質的に劣らない新しいボード材料が得られることが認められた。さらに、本原料が特殊な化学成分組成を持っていることから、蒸煮爆砕処理によって接着剤を用いずに十分使用に耐えるボードの製造が可能であることが分かった。

審査要旨

 Oil Palm(Elaeis guineensis Jacq.)は果肉よりパーム油を採る目的で熱帯地域、特に半島マレーシァを中心に広く栽培されており、地域の重要な産業になっている。統計によれば全世界でPlantation面積は500万haに上るという。植えてから3年ほどで結実を始め、約25年間果実を採取した後、伐倒され、若木に代えられる。この間、樹体を活性化して結実を促進するため、またPlantation地区内の作業を容易にするために適宜葉柄(Frond)を切断して落枝させる。Oil Palm Frondの利用については、現状では燃料が主であり、材料としての本格的な利用は実現されていない。このような状況を踏まえて、本論文ではこのFrondを原料とするボードの製造を試み、材質を測定し新しい材料開発の可能性を考察した。論文は6章から構成されるが以下に論文内容の要旨を示す。

1.Oil Palm Frondから切削したチップをエレメントとするボードの製造と材質試験(第3章、第4章)

 タイ国南部の10-15年生のPlantationから採取したFrondをチップに切削し、さらにハンマーミルにかけて砕いたのち、ふるい分けしてA、B、2種類のチップを準備した。細かいAチップは表層用、粗いBチップはコァー層用チップである。全乾状態に乾燥したチップにユリヤ樹脂接着剤(UF)、フェノール樹脂接着剤(PF)およびイソシアネート樹脂接着剤(IC)を含脂率がそれぞれ12%、6%、3%になるようにスプレイ塗布した。これらのチップを厚さ12mm、寸法300×400(mm)の板になるよう手でもってフォーミングするが、単層およびAチップとBチップを組み合わせた3層ボードを製造した。目標密度0.5g/cm3、0.7g/cm3、0.9g/cm3に調整して通常の方法でボードを熱圧成板した。

 製造されたボードの外観は通常のパーティクルボードと変らなかった。曲げ強さ(MOR)はボードの密度が上昇するとともに直線的に増大して行くが、この傾向は通常のパーティクルボードと同様である。等厚構成の3層ボードが最も大きな強度を示した。接着剤の種類を変えたときのMORとボード密度の関係を見ると、同じくMORはボード密度と直線関係にあるが、IC、UFボードに比べてPFボードのMORは低い。この原因は、Oil Palm Frondを構成するヘミセルロースの一部がフェノール樹脂の縮合反応を阻害していると考えられる。いずれにせよ、ボード密度を高めれば通常のパーティクルボードの18、13、8タイプに対するJAS基準値を満足するボードが得られることが認められた。

2.Oil Palm Frond Strandを用いた配向性ボードの材質(第5章)

 長さ75mmの細長いエレメント、即ちStrandを用いて、3層ボード(層構成1:2:1、コァー層の配向方向は表層に直交)を製造した。曲げ試験の結果、縦横の性質のバランスが良いことが認められたが、通常のランダムボードに比べて、性能が落ちる。この理由は、厚い大きなチップで構成される本ボードにおいて、チップ間に空隙が多く存在するために接合力が低下するためであろう。そこで細かいチップを混入せしめたところ、曲げ性能は格段に上昇した。細かいチップが空隙に入り込み、チップ間接合力を増加させたものと考えられる。

3.Oil Palm Frondの化学組成と接着剤無添加ボード製造の可能性(第6章)

 Oil Palm Frondの化学組成を分析した結果、Oil Palm Frondは通常の木材に比べてアルコール-ベンゼン抽出物およびヘミセルロースが多いことが判明した。特にヘミセルロースが木材の1.5-3倍存在することは大変興味深い。また、リグニン抽出の歩留まりが極めて高いことも認められた。そこで、これらの化学成分が接着剤として機能するのではないかと考え、原料チップに高温高圧水蒸気による爆砕処理を施し、そのまま乾燥してフォーミングしてボードを製造した。黒色の固いボードが得られたが、24時間吸水による厚さ膨張率は6%程度でありかなりの耐水性能を示す。強度性能についても密度を高めればJAS基準値に適合するボードが得られる。水蒸気爆砕処理によってリグニンが繊維の外部に露出してきて熱圧締時に塑性化して接着作用を行なうものと判断した。本実験結果からOil Palm Frondのチップを原料とすれば接着剤を使用せずに高い性能を持つボードの製造が可能であることが認められた。

 以上本論文は、Plantationの副産物として持続的に産出されるが従来廃棄されてきたOil Palm Frondの有効利用に関するもので、原料の特性を十分に生かした新規性の高い技術開発を行なっており、学術上、応用上貢献するところが少なくない。よって、審査員一同は本論文が博士(農学)の学位を授与されるに値するものと認めた。

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