本研究は、慢性関節リウマチ(RA)による障害の程度と患者の健康感・疾病受容との間の関係を明らかにするため、関節炎患者の標準的QOL調査票とされる改訂版AIMS調査票を用いて本邦RA患者691名の機能障害を測定し、それらと患者の健康感・疾病受容・生活の満足度等との間の関係を多変量解析により検討したものである。解析の結果、以下の結果を得ている。 (1)RAによる障害が患者自身の自己健康評価・満足度に及ぼす影響は、重症度により異同が見られた。痛みは、重症度を問わず患者の健康感・満足度を損ない、疾病障害感を増すが、身体機能障害は軽症群に限ってこれらの項目に有意な影響が認められた。この群では、歩行の障害が健康感・満足度を低下させ、疾病障害感を増すと共に、移動能力の障害が生活満足度を低下させると考えられた。 (2)心理的側面としての緊張・気分の障害は、軽症群・重症群患者の健康感・満足度・疾病受容を低下させる事が示され、RA患者管理に於ける心理面の重要性が認められた。しかし、軽症群では気分、重症群では緊張が各々有意な関連を示し、精神的側面が患者健康感に及ぼす影響にも、重症度により差が見られた。 (3)軽症群の疾病受容・生活満足度低下には社会的支援の欠如や非就業が、重症群の生活満足度低下には社交の障害が有意な関連を示した。これら社会的側面は、健康感・健康満足度など患者の健康自己評価に対する影響は認められなかったが、疾病受容・生活満足度の向上には重要な因子である事が示され、患者を取り巻く社会環境の整備が重要であると考えられた。 以上、本論文は、多岐にわたるRAによる障害が、患者の主観的健康感や疾病受容に多様な影響を及ぼしている事、またその影響にはRAの重症度によって差がある事を明らかにした。本研究は、我が国のRA患者を対象にしたQOL研究としては、初の大規模多施設調査であり、現在のところ科学的知見の乏しい、疾病による障害と患者の主観的健康状態との間の関係を解明していく上で重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |