学位論文要旨



No 112281
著者(漢字) 羽鳥,友彦
著者(英字)
著者(カナ) ハトリ,トモヒコ
標題(和) 解析試験関数を用いたDSMによる理論地震波形計算とその波形インバージョンへの応用
標題(洋) DSM synthetic seismograms using analytic trial functions and their application to waveform inversion
報告番号 112281
報告番号 甲12281
学位授与日 1997.01.31
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第3131号
研究科 理学系研究科
専攻 地球惑星物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 纐纈,一起
 東京大学 教授 吉井,敏尅
 東京大学 助教授 岩崎,貴哉
 東京大学 助教授 武尾,実
 東京大学 助教授 ゲラー,ロバート
内容要旨 1.本研究の目的

 本研究の目的は,解析的な試験関数を用いた場合のDirect Solution Method(DSM)の定式化を行ない,水平成層構造に対する理論波形計算に応用することである.これまでのDSMではリニア・スプライン関数等の数値的な試験関数を用いてきた.解析試験関数を用いることにより,例えばリニア・スプライン関数などにくらべ,短周期でも領域の分割数を増やさなくてよいので水平成層構造に対する理論波形計算を効率化できる.

2.解析試験関数を用いた理論地震波形計算

 DSMは重み付き残差法のガラーキン法により弱形式弾性運動方程式を解き理論波形やその内部構造パラメーターに対する偏微分係数を計算する手法である.DSMでは変位を試験関数の線形結合で表現する.本研究では試験関数として区分的に均質な領域における運動方程式の解析解(解析試験関数)を用いる.有限要素法の試験関数として相応しい条件から,隣り合う2つの領域[<],[<]でのみ値を持ち,中のノードで(zn)=1,両端のノードで(zn-1)=(zn+1)=0となる解析試験関数を導出した(図1).また,それらを運動方程式に代入し,行列演算子の定式化を行なった.

3.偏微分係数の定式化

 本研究の手法を波形インバージョンに応用するため,偏微分係数計算の定式化も行なった.本研究で導出した解析試験関数は内部構造パラメーターに依存するので,展開係数の偏微分係数だけでなく,解析試験関数についても偏微分係数を計算する必要がある.

4.テスト・インバージョン

 テストインバージョンは2つの問題について行なった(ひとつは震源深さ12km,もう一つは震源深さ1km). どちらも数回のイテレーションでほぼ真のモデルに収束した.

5.まとめ

 (a)解析的な試験関数を用いた弱形式定式化を行なった.

 (b)偏微分係数計算の定式化を行なった.

 (c)波形インバージョンの数値実験を行なった.

6.考察

 本研究とこれまでの強形式のglobal solution method(Chin et al.,1984;Schmidt&Tango,1986等)との関係を明らかにした.

 (a)本研究は弱形式定式化であるが,試験関数が部分積分可能であるために,これまでの強形式のglobal solution method の定式化と等価になる.

 (b)本研究のansatzを用いることにより,強形式の行列演算子の次数・帯幅を約半分にできる.

審査要旨

 地球は第一次近似として基本的に成層構造を成していると考えることができるから,成層構造における理論地震波形を計算することは,地震学における重要な基礎事項である.この問題に関して従来は,弾性体の運動方程式をそのままの形で解く方式が取られていたが,これでは波形記録から地下構造を求める逆問題(インバージョン)に応用することは難しかった.本論文は,運動方程式に部分積分を施した弱形式を用いることにより,理論地震波形の計算だけでなく,地下構造パラメータに関する地震波形の偏微分係数を同時に計算する手法を開発し,さらにそれらを波形インバージョンへ適用する試みを行なったものである.

 本論文は5章からなり、以下のような構成になっている。第1章では、成層構造における理論地震波形計算の重要性,なかでも波形インバージョンへの適用可能性の重要性を述べ,本論文の研究目的が示されている。また、弱形式の運動方程式を用いた既往の研究について概観を行ない,それらの問題点を指摘して、本論文の方向性を示した。

 その後まず第2章では、与えられた地下構造に対する弱形式の運動方程式から理論地震波形を求める順方向の定式化(forward modeling)が述べられ,併せてその物理的意味合いが論じられている.さらに,既往の弱形式を用いた研究では,波動場の試験関数として線形スプラインなど単純な関数が利用されてきたが,成層構造問題では波動方程式の調和解という解析関数を用いることが提案され,その利点が詳細に述べられている.また,種々の成層構造における理論的な困難,たとえば境界面上の震源,放射境界条件,流体層などを克服する方法も触れられている.

 続いて第3章では、forward modelingにおける定式化に摂動を与えて,地震波形から地下構造パラメータをインバージョンする際の偏微分係数を定式化している.成層構造を規定するすべての構造パラメータ,つまり弾性定数・密度・境界面深さに対して偏微分係数が導出されており,特に震源を含む層での導出には特別の配慮が必要なことが指摘されている.

 第4章では、第2,3章で得られた理論波形や偏微分係数を用いて,典型的な2例に対して波形インバージョンを実際に行ない,それらの妥当性の検証が行なわれた.ひとつは4層構造,他方は5層構造であり,それぞれ自由表面上に置かれた4点の観測点での,真の地下構造に対する理論波形を仮想的な観測波形とする.さらに真の地下構造からはずれた初期モデルを想定し,それに対して計算された理論波形とこの観測波形を逐次的にフィッティングさせながら,真の地下構造を再現する実験が行なわれ,どちらも良好な結果が得られている.

 最後に第5章では、本研究で得られた結果をまとめるとともに、この種の研究に関する将来の展望が述べられている。

 以上のように本論文は、成層構造における地震波形のforward modeling,波形インバージョンを,弱形式の運動方程式と解析的な試験関数を用いて新たに定式化を行ない,計算例を示しながらその妥当性を検証した.成層構造の波形インバージョンに初めて陽な定式化を与えるなど,これらは大きな業績であり,地球惑星物理学にもたらす意義は大きい。

 なお、本論文第2章はRobert Geller氏との,第3章はRobert Geller氏と原辰彦氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって理論構築及び検証を行なったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 よって本審査委員会は全員一致で、本論文に博士(理学)の学位を授与できるものと認める。

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