物流システムは資源ならびに製品の運搬に必要不可欠で、人間社会の重要なインフラストラクチャーである。物流は陸海空すべての交通手段を用いて効率的に行われるべきで、そこで用いられる車両、船舶、航空機等の交通用具ばかりでなく、全体システムそのものを設計することは工学の重要な課題で今後の発展の期待される分野である。 本研究は、そのなかで宅配便のような集配と混載幹線輸送からなる物流システムに焦点を絞り、論文提出者が考案したマクロモデルを用いてシステムの基本的な特性を検討把握し、これにより物流システム設計法を提案している。更に実際に日本国内の宅配便システムの設計を行い、その設計法の立証をおこなったものである。 本論文は序論から結論まで全部で8章からなり、参考文献、謝辞が添付されている。 第1章 「序論」では、物流の現状から、設計的観点の研究の僅少であることを述べ、本研究の意義付けを行っている。発地から着地まで、集貨、幹線輸送、配送と多段にわたる小口混載物流システムをその研究対象とすることとし、過去の文献の調査を基礎に、その目的と論文の構成が的確に述べられている。 第2章 「物流システムの設計」では、アプローチの仕方として、OD表からターミナル等の物流拠点の配置、物流拠点の設備設計、輸送方法に関する設計に分割して取り扱い、その中で必要な設計項目が整理して述べられている。 第3章 「物流拠点の配置等に関する設計の検討」は、本研究の核心的部分である。ここでは論文提出者の独創であるマクロモデルが提案されている。これは、集荷配送と幹線輸送からなる一段のモデルであり、その評価の指標として、幹線輸送、拠点、集配に関する費用を合計した物流費用を用いている。これを方形領域に適用して、需要密度、面積、対象領域の形状、需要の均質性について変化させ、最急降下法など他の手法を援用して検討している。その結果、物流拠点の配置は、主として幹線輸送の積載効率をもって決定すればよく、その際に密度、面積、形状は影響を与えないことを明らかにしている。これから物流拠点数を与える式を得ている。また幹線輸送が費用の太宗を占める場合、多段階モデルに拡張することもできるとしている。 第4章 「物流拠点の配置等に関する設計手法の考案」では、第3章の結論を受けて、需要密度不均一な場合、密度が低い地域と逆に高い地域では、それぞれ再配置を行う必要のあることを指摘し、その際にも局所的に本モデルを適用すれば良いことが述べられている。これにより本マクロモデルの現実の多段モデルへの対応が示されている。 第5章 「物流拠点の規模と輸送に関する設計」では、原単位による物流拠点の規模の設計、また道路ネットワーク上の最適な輸送手法に関する考察を行っている。これをもって本論文で提案する設計法の記述をおえている。 第6章 「物流拠点の配置等に関する設計手法の検証」では、宅配便一社に関してその実状を調査し、本論文で提案した設計を適用することで、その有効性を立証している。拠点の数、基本的に2段になること、また北海道のように需要密度が低い場合には3段になり、これが本設計法から得られ、実際と一致していることが示されている。また、本設計法は物流費用のみの観点から設計を行ってよい結果を得たが、サービス水準等さらに別な観点が必要であることも付記している。 第7章 「物流の共同化に対する検討結果からの考察」では、本設計法のベースとなったマクロモデルから、共同化の効用について検討できることを示している。 第8章 「結論と今後の課題」では、本論文の取り纏めを行い、設計法を提案立証したこと、さらに詳細なOD表による設計が望まれること、輸送機関の特性を考慮したり、本設計法で用いた指標に入らないサービス水準等の評価が必要であること等、今後の展望について述べている。 物流システムの現状評価や部分的設計法に関する研究は従来行われてきているが、本研究ではモデルを設定し、その基本的な性質を抽出しグローバルな物流システム設計法を提案している。着想は独創的であり、またその実用性についても十分検討を加え、将来への展望も的確に述べられ、多くの知見が得られている。今後の詳細な設計法開発の基盤をなす研究と評価できる。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |