学位論文要旨



No 112285
著者(漢字) 黒川,久幸
著者(英字)
著者(カナ) クロカワ,ヒサユキ
標題(和) 物流システムの設計手法に関する研究
標題(洋)
報告番号 112285
報告番号 甲12285
学位授与日 1997.02.13
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3787号
研究科 工学系研究科
専攻 船舶海洋工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小山,健夫
 東京大学 教授 伏見,彬
 東京大学 教授 不破,健
 東京大学 教授 宮田,秀明
 東京大学 教授 家田,仁
 東京大学 助教授 大和,裕幸
内容要旨 1はじめに

 現在、交通渋滞や物流費用の高騰等からトラックから他の大量輸送機関へのモーダルシフト、あるいは共同配送が注目され、新たな物流システムの構築、あるいは既存のシステムの改善が必要となっている。しかし、物流システムは大規模かつ複雑なシステムであり、その設計は困難となっている。

 そこで、本研究ではこの複雑な物流システムを簡単に捉えたモデルを用いて設計の検討を行い、ここで得られた知見から現実のシステムの理解、あるいは設計問題に対しての見通しを得ることを試みる。従来、このような観点からの研究は少なく、設計に結び付くような整理は十分になされていない。そのため、本研究では設計に利用できるように留意して検討結果を整理し、これを用いた設計手法を考案することを目的とする。

2マクロモデル

 対象とする小口貨物を混載して輸送する物流システムとして、最も基本的な物流拠点の構成である一段階の集荷・配送となるモデルを考える(図1を参照)。このモデルでは、物流システムの対象範囲を長方形とし、物流需要を需要点間のO/D表で表現する。そして、物流拠点間の幹線輸送を直送とし、また、物流拠点からの集荷・配送といった巡回輸送も物流拠点と需要点間の直送として表現する。なお、このモデルをマクロモデルと呼ぶこととする。

 また、目的変数として物流費用を考える。物流費用の内の輸送費用を輸送距離に比例するとし、物流拠点費用を拠点における取扱貨物量に比例するとして定式化を行う。

 

 ここで、FB-Bは幹線輸送費用、FB-Uは域内輸送費用、FBase物流拠点費用である。そして、Bは物流拠点、Uは需要点、Nは二地点間の輸送回数、dは輸送距離、CB-B,CB-Uは輸送費用係数である。また、Wは貨物量、CBは拠点費用係数である。

 以上の式によって求められる費用の合計が、物流費用である。物流費用を目的変数としたときの説明変数を次に示す。

 まず、物流拠点の配置等に関する設計における設計項目として、

 ・物流拠点の数

 ・物流拠点の位置がある。

 そして、前提条件として、

 ・物流需要(密度、分布)

 ・物流システムの対象範囲(面積、形状)がある。

 その他、

 ・トラックの最大積載量

 ・輸送及び拠点費用係数がある。

図1 物流システムの構成

 そして、物流費用が最小となるときの設計項目について、上記の各項目の変化が及ぼす影響を調べ、これを整理する。

3検討結果のまとめ

 マクロモデルを用いた設計の検討より、次のことが判った。

 (1)物流拠点の最適数に関する指標として下記の式を得た。この式において、GNの値が1以上となるように拠点数を決定すればよい。

 

 ここで、Touiは幹線輸送における輸送貨物量、nは物流拠点の数、Vはトラックの最大積載量である。(2)物流拠点の最適数(n*)と物流需要の密度()、物流システムの対象範囲の面積(A)の間に下記の関係を得た。

 

 ここで、cは係数である。

 (3)物流拠点の最適配置に関して、物流システムの対象範囲をm個の領域に分割した場合、個々の領域における拠点数について下記の関係を得た。

 

 ここで、niは領域iにおける拠点数、Aiは面積、iは密度で、nは物流システムの対象範囲全体における拠点数である。また、mは領域の数である。

4設計手法の考案

 検討結果のまとめにおける(1)及び(3)より、物流拠点の配置等に関する設計を図2の設計の流れに従って行う。なお、このマクロモデルにおける物流拠点の配置等に関する設計を基本設計と呼ぶこととする。

 この物流拠点の配置等に関する基本設計手法は、前提条件として与えられた物流需要のO/D表をもとに、まず物流システムの対象範囲全体における最適な拠点数を式4によって求めた後、これを物流需要の密度等の違いを参考に物流システムの対象範囲を数個の領域に分割し、個々の領域に式6によって物流拠点を配分する方法である。

図2 基本設計の流れ

 次に、この基本設計手法を用いて現実の物流システムの設計を行う場合について説明する。

 基本設計手法により物流拠点の配置等に関する設計を行った結果、対象範囲が広すぎて現実的な集荷・配送が行えないような場合と狭い範囲に物流拠点が隣接するような場合が生じる。これは、本研究で考慮されていない、例えば、物流拠点の規模の違いによる拠点費用の逓減効果の影響と考えられる。

 そこで、前者の場合については、もっと狭い範囲を対象とする物流拠点を再配置し、多段階の集荷・配送となるようにする。このときの設計は、問題となっている物流抛点の対象範囲を対象として基本設計手法を用い、再配置する物流拠点の設計を行う。また、後者の場合については、物流拠点の統合を行う。

 そして、上記の設計結果より、各物流拠点において取り扱われる貨物量が求められ、必要な物流拠点の規模が求められるようになる。そして、具体的な用地の広さ等を考慮した設計が行えるようになる。また、輸送では、例えば、集荷・配送では具体的な巡回輸送の経路について設計が行えるようになる。

 以上のことから、本研究では、基本設計手法を用いて物流拠点の配置等に関する設計を行い、この結果を基に物流システムの設計を行っていけばよいと考える。

5設計手法を用いた宅配便システムの設計例

 物流拠点の配置等に関する設計手法の検証として、宅配便システムを例に設計を行った結果を表1に示す。

 表より、物流拠点の総数及び各地域における拠点数の傾向がよく一致していることが判る。また、計算では全ての地域において物流拠点の再配置が必要であることが判り、実際の場合と同じく二段階の拠点構成となった。このことから、本研究における設計手法は妥当と考えられる。

 これより、宅配便システムにおいて物流拠点の構成が階層的となっていることについて、マクロモデルを用いた検討結果より、次のように理解することができる。式5に示すように、物流拠点の最適数は面積の平方根に比例する。従って、宅配便システムでは日本という広い範囲を対象とするため個々の物流拠点の対象範囲が広範囲となる。このため、適切な集荷・配送を行うためにはもっと狭い範囲を対象とする物流拠点を再配置する必要があり、物流拠点の構成が階層的となる。

表1 実際と設計結果の比較
6結論

 物流システムをマクロ的に捉えたマクロモデルをもとに、物流需要等の説明変数と目的変数である物流費用の間の関係を調べ、その特徴を整理した(式4、5、6を参照)。このマクロモデルを用いた設計の検討は、現実の複雑な物流システムの理解、あるいは新たな物流システムの設計に対する見通しを得る上で有効な方法である。

 例えば、上記の宅配便システムの例では、集荷・配送が多段階になる理由が明らかとなり、また、日本を対象とした場合、二段階でよいことが判った。

 また、検討結果を用いた物流拠点の配置等に関する設計手法を考案し、現実の宅配便システムに適用して、その妥当性を確認した。

審査要旨

 物流システムは資源ならびに製品の運搬に必要不可欠で、人間社会の重要なインフラストラクチャーである。物流は陸海空すべての交通手段を用いて効率的に行われるべきで、そこで用いられる車両、船舶、航空機等の交通用具ばかりでなく、全体システムそのものを設計することは工学の重要な課題で今後の発展の期待される分野である。

 本研究は、そのなかで宅配便のような集配と混載幹線輸送からなる物流システムに焦点を絞り、論文提出者が考案したマクロモデルを用いてシステムの基本的な特性を検討把握し、これにより物流システム設計法を提案している。更に実際に日本国内の宅配便システムの設計を行い、その設計法の立証をおこなったものである。

 本論文は序論から結論まで全部で8章からなり、参考文献、謝辞が添付されている。

 第1章 「序論」では、物流の現状から、設計的観点の研究の僅少であることを述べ、本研究の意義付けを行っている。発地から着地まで、集貨、幹線輸送、配送と多段にわたる小口混載物流システムをその研究対象とすることとし、過去の文献の調査を基礎に、その目的と論文の構成が的確に述べられている。

 第2章 「物流システムの設計」では、アプローチの仕方として、OD表からターミナル等の物流拠点の配置、物流拠点の設備設計、輸送方法に関する設計に分割して取り扱い、その中で必要な設計項目が整理して述べられている。

 第3章 「物流拠点の配置等に関する設計の検討」は、本研究の核心的部分である。ここでは論文提出者の独創であるマクロモデルが提案されている。これは、集荷配送と幹線輸送からなる一段のモデルであり、その評価の指標として、幹線輸送、拠点、集配に関する費用を合計した物流費用を用いている。これを方形領域に適用して、需要密度、面積、対象領域の形状、需要の均質性について変化させ、最急降下法など他の手法を援用して検討している。その結果、物流拠点の配置は、主として幹線輸送の積載効率をもって決定すればよく、その際に密度、面積、形状は影響を与えないことを明らかにしている。これから物流拠点数を与える式を得ている。また幹線輸送が費用の太宗を占める場合、多段階モデルに拡張することもできるとしている。

 第4章 「物流拠点の配置等に関する設計手法の考案」では、第3章の結論を受けて、需要密度不均一な場合、密度が低い地域と逆に高い地域では、それぞれ再配置を行う必要のあることを指摘し、その際にも局所的に本モデルを適用すれば良いことが述べられている。これにより本マクロモデルの現実の多段モデルへの対応が示されている。

 第5章 「物流拠点の規模と輸送に関する設計」では、原単位による物流拠点の規模の設計、また道路ネットワーク上の最適な輸送手法に関する考察を行っている。これをもって本論文で提案する設計法の記述をおえている。

 第6章 「物流拠点の配置等に関する設計手法の検証」では、宅配便一社に関してその実状を調査し、本論文で提案した設計を適用することで、その有効性を立証している。拠点の数、基本的に2段になること、また北海道のように需要密度が低い場合には3段になり、これが本設計法から得られ、実際と一致していることが示されている。また、本設計法は物流費用のみの観点から設計を行ってよい結果を得たが、サービス水準等さらに別な観点が必要であることも付記している。

 第7章 「物流の共同化に対する検討結果からの考察」では、本設計法のベースとなったマクロモデルから、共同化の効用について検討できることを示している。

 第8章 「結論と今後の課題」では、本論文の取り纏めを行い、設計法を提案立証したこと、さらに詳細なOD表による設計が望まれること、輸送機関の特性を考慮したり、本設計法で用いた指標に入らないサービス水準等の評価が必要であること等、今後の展望について述べている。

 物流システムの現状評価や部分的設計法に関する研究は従来行われてきているが、本研究ではモデルを設定し、その基本的な性質を抽出しグローバルな物流システム設計法を提案している。着想は独創的であり、またその実用性についても十分検討を加え、将来への展望も的確に述べられ、多くの知見が得られている。今後の詳細な設計法開発の基盤をなす研究と評価できる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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