学位論文要旨



No 112340
著者(漢字) 北崎,充晃
著者(英字) Kitazaki,Michiteru
著者(カナ) キタザキ,ミチテル
標題(和) 移動する観察者における視知覚 : 一般的視点の原理の三次元運動知覚への適用
標題(洋) Mobile Observer’s Visual Perception : Application of the Generic-view Principle to Three-dimensional Motion Perception
報告番号 112340
報告番号 甲12340
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(学術)
学位記番号 博総合第97号
研究科 総合文化研究科
専攻 広域科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 河内,十郎
 東京大学 教授 大築,立志
 東京大学 教授 佐藤,隆夫
 東京大学 助教授 長谷川,寿一
 東京大学 助教授 下條,信輔
内容要旨

 人間は本来,運動し,また移動しながら情報を得る生物である.その住まう世界は三次元空間であり,ほぼすべての物体対象は奥行き構造を有し,それら自身も運動している.人間の視知覚過程に視覚体験のこのような動的側面が本質的な意味で反映されていることを示し,「移動する観察者」としての視知覚を,全体的・統合的に解明することが本研究の目的である.

 三次元世界における対象の構造および対象の運動は,観察者の網膜に投影され,網膜運動画像となる.また,観察者自身が移動すれば,それも網膜運動画像の変化に反映される.つまり,三次元世界における対象運動,対象構造および自己運動は,非選択的に二次元網膜運動画像に変換される.この過程は順光学過程と呼ばれる.一方,観察者は,その網膜運動画像のみからであっても,対象運動,対象構造および自己運動を,多くの場合は正確に即座に知覚している.つまり,視知覚は,二次元網膜運動画像から三次元世界の対象運動,対象構造および自己運動を区別し復元する過程と考えられる.これは,逆光学過程と呼ばれる.視知覚処理系は,自然界において妥当な何らかの付加情報を制約条件として用いて,本来は解が一意に定まらない逆問題(曖昧性解決問題)を解くと考えられている.本研究では,このような理論的枠組みに沿い,計算理論の構築と心理物理実験によるその検証を行った.

 「移動する観察者の視知覚経験の確率分布(尤度)」に依拠する「一般的視点の原理」は,視覚の一般計算理論として期待されている.これを静止観察者における三次元構造・運動の知覚に適用し,その適用可能性を視覚実験により検証した(実験群1,2,3).また,実際に運動している観察者における相対運動・奥行き順序間の曖昧性解決においてこの原理がどのように貢献しているか調べた(実験群4).一般的視点の原理は以下のように定義される.ある物体をあらゆる視点から見るという経験を仮定するとき,三次元光景から二次元見えへの順光学過程において,非常に高い確率で遭遇する見えのカテゴリーが「一般的見え」であり,その確率が低いものは「偶然的見え」である.視知覚系は,ある見えを与えられたとき,その見えを三次元光景における特定の物体の一般的見えとして解釈しそれと知覚する(逆光学過程)が,別の物体の偶然的見えであるとは解釈しない.

 針金細工などの規則的構造を有しない三次元物体の二次元投影像は,物体が静止している場合,ほとんど三次元構造を知覚させないが,一旦運動を始めると,避けがたい奥行き印象を生じる.これは,運動からの構造復元問題として定式化され,剛体性の制約条件(復元されるべき構造は剛体であると仮定する制約)および漸増的剛体性アルゴリズムが視知覚のふるまいを説明するのに適していることが示されている.しかし,この仮説は,単純な刺激布置や手がかりが不十分な場合等には,適切ではない.そこで,そのような問題に一般的視点の原理を適用した.

 実験群1:単純線分を対象として用い,その回転・並進・伸縮の定性的組合せについて順光学分析を行い,各三次元運動についての見えの一般性を決定した.次に,逆光学分析として,各見えに対応可能な三次元運動を列挙し,見えの一般性の高いものを予想される知覚として抜粋した.端的にいえば,二次元運動画像が伸縮と回転を同時に含むときに奥行き回転が知覚され,伸縮と並進を含むときに奥行き並進が知覚され,伸縮のみの場合には物体としての伸縮が知覚される等と予想された.被験者は,単純線分の二次元運動画像(回転・並進・伸縮の定性的組合せ8通り)を観察し,奥行き回転,奥行き並進,物体としての伸縮のそれぞれの有無を知覚的に判断した.結果は,概ね一般的視点の原理からの予想と一致した.また,交差する二線分の奥行き回転に関する実験を行い,この場合には二線分の成す角の見えの一般性の考慮が必要であることが判明した.

 実験群2:実験群1においては,刺激の過単純化が問題であったため,容積のある物体への理論の適用を試みた.無作為な点から成る球表面を垂直軸周りに回転させ,その二次元投影像を作成した.その際,各点は奥行き位置のみが異なる(球表面の反対側の)点と対にされた.視点と回転軸の関係について,見えの一般性を分析し,共通軸,共通点出現,直線上分離,オフセット,および分離オフセットの4つの見えに分類した.共通軸条件と共通点出現が最も偶然的,直線上分離とオフセットが一般的,分離オフセットが最も一般的であると考えられた.最初の実験において,被験者は,共通点出現,直線上分離,およびオフセットの3条件から無作為に2条件を継時呈示され,より奥行き知覚印象のある方を判断した.結果は,最も偶然的な共通点出現条件では奥行き知覚が生じにくく,一般的視点の原理と一致した.次に,水平線から垂直方向2.5度に視点をもつオフセット条件を共通の標準刺激として,共通軸条件を除く4条件で視点の位置を0度から16度まで定量的に操作し,奥行き知覚印象の対比較実験を行った.16度までの視点に関しては,定量的に見えの一般性の効果が増大すること,および分離オフセット条件はオフセット条件に対して差がないことが示された.さらに,オフセット条件に限って,0度(共通点出現)から90度(共通軸)まで視点の位置を操作し,奥行き量の知覚的推定を課したところ,15度から30度あたりで,最も大きな奥行きが知覚された.偶然的見えである0度および90度では,ほとんど奥行きは知覚されなかった.また,点を対にせず生成した球表面において,視点と回転軸の関係を操作し実験したところ,視線が水平線に対して20度の場合に0度の場合よりも球表面の知覚印象が明らかであった.これらのことから,一般的視点の原理が球表面にも適用可能なことが示された.また,この原理から予測された効果以外に,剛体性制約条件から予想された効果も同時に存在することが示唆された.

 実験群3:一般的見えと偶然的見えの空間的相互作用に焦点をあてた.立方体のワイヤーフレーム・モデルとその中に充填する要素の見えをそれぞれ操作し,充填された要素が外側の立方体の三次元構造知覚に及ぼす影響を調べた.まず,回転する立方体の周囲に可能なすべての視点を仮定し,得られる見えを分類した.回転軸上の視点からは,正方形が回転するだけの最も偶然的な見えが得られた.また,回転軸と直交する周上からは,複数の矩形の伸縮運動からなる偶然的見え(矩形の見え)が得られた.それ以外の視点からは,複数の平行四辺形が変形運動する一般的見え(平行四辺形の見え)が得られた.最初の実験では,立方体について矩形の見えと平行四辺形の見えを用意し,それぞれの内部に無作為な点を充填する条件と充填しない条件を設定し,全部で4つの刺激条件とした.被験者は,無作為に選ばれた2つを提示され,外側の立方体がより奥行きがあるように知覚された方を判断した.その結果,点のあるなしに関わらず,一般的見えである平行四辺形の見えから奥行きがより知覚された.点が充填された場合には,偶然的見えの矩形の見えからであっても,点がない場合より立方体の奥行きがより知覚された.よって,曖昧性なく三次元運動を知覚させる点の運動が,立方体の偶然的見えの奥行きを捕捉し,その知覚される奥行きを増加させたと考えられた.次の実験では,立方体として偶然的見えである矩形の見えのみを用い,充填する要素として複数の線分を用いた.刺激条件は,線分がない場合,線分の偶然的見え(すべて水平な線分の回転)およびその一般的見え(無作為な方位に傾いた線分の回転)の3つであった.なお,線分の一般的見え・偶然的見えは実験群1によって分かっている.手続きは,前の実験と同様であった.その結果,線分なし条件よりその偶然的見え,それよりさらに一般的見えの条件で,外側の立方体の奥行きが増加されて知覚された.つまり,充填された線分の一般的見えが,外側の立方体の偶然的見えを捕捉し,奥行きを知覚させた.したがって,見えの一般性の効果は,局所的に働くのみならず,空間的に相互作用し大局的に伝播することが示された.一般的視点の原理がより複雑な物体あるいは光景に働くときに,すべての物体の見えの確率分布を必要とするのではなく,局所的な要素の見えの一般性のみを必要とし,その相互作用から全体の知覚が決定されている可能性が示唆された.

 実験群4:観察者が実際に運動しているときの網膜上の相対運動(運動視差)は,それ単独で奥行き知覚の手がかりとなることが知られている.そこで,観察者の頭部運動方向の逆転時に,刺激の相対運動が通常の運動視差と逆になる実験刺激を生成し,その際に知覚される奥行き順序の反転と前額平行面での相対運動との間の曖昧性解決の規定要因を調べた.結果として,刺激に速度の不連続がある場合に奥行き反転は抑制され相対運動が知覚された.また,なめらかな速度勾配のある場合には奥行き反転が促進された.この現象において,一般的視点の原理が以下のように貢献していることが示唆された.見えにおける速度不連続が表面の複数性(物体の分離)の一般的見えであり,また複数の物体の間の奥行き順序反転のコストが高いことが,その奥行き反転の抑制という実験結果を説明する.

 このように本研究は,一般的視点の原理が三次元運動知覚に適用可能なことを示した.しかし,実験群2の結果を見ても,この原理だけですべてを理解するのは不可能であるだろう.むしろ,最近提唱されている「ベイズ推定としての視知覚」のフレームワークにおいて,この一般的視点の原理(尤度)と従来の自然制約条件(事前確率)は統合されるのではないだろうか.

審査要旨

 本論文は、運動視知覚、特に運動からの三次元構造知覚について、「一般的視点の原理」に基づく理論的枠組みを示すとともに、その結果を心理物理学的実験によって検証した結果をまとめたものである。

 まず導入部(Chapter1)では,観察者自身の移動によって,三次元の環境世界における(1)対象の運動,(2)対象の構造および(3)自己運動が,非選択的に二次元網膜運動画像に変換されること(すなわち網膜運動画像がこれらの間の曖昧性を不可避的に含むこと)が指摘される.しかしその網膜運動画像のみから,観察者は対象運動,対象構造および自己運動を,多くの場合は正確に即座に知覚している.つまり視知覚は,二次元の網膜運動画像から三次元世界のこの三つのコンポーネントを区別し,復元する過程と考えられる.これは逆光学過程と呼ばれる.視知覚処理系は,自然界において妥当な何らかの付加情報を制約条件として用いて,この本来は解が一意に定まらない逆問題(曖昧性解決問題)を解くと考えられている.この曖昧性解決が具体的にはいかにしてなされているかという点をめぐって,計算論的に問題が整理され,「一般的視点の原理」に基づく心理物理学的分析が提唱された.「一般的視点の原理」は,移動する観察者の視知覚経験の確率分布(尤度)」に依拠する視覚の一般計算理論として期待されるもので,次のように定式化され得る。すなわち,ある物体をあらゆる視点から見るという経験を仮定するとき,三次元光景から二次元見えへの順光学過程において,非常に高い確率で遭遇する見えのカテゴリーが「一般的見え」であり,その確率が低いものは「偶然的見え」である.視知覚系は,ある見えを与えられたとき,その見えを三次元光景における特定の物体の一般的見えとして解釈しそれと知覚する(逆光学過程)が,別の物体の偶然的見えであるとは解釈しない.

 次の実験群1(Chapter2)では,単純線分を対象として用い,その回転・並進・伸縮の定性的組合せについて順光学分析を行い,各三次元運動についての見えの一般性を決定している.次に,逆光学分析として,各見えに対応可能な三次元運動を列挙し,見えの一般性の高いものを予想される知覚として抜粋している.端的にいえば,二次元運動画像が伸縮と回転を同時に含むときに奥行き回転が知覚され,伸縮と並進を含むときに奥行き並進が知覚され,伸縮のみの場合には物体としての伸縮が知覚される等と予想された.被験者は,単純線分の二次元運動画像(回転・並進・伸縮の定性的組合せ8通り)を観察し,奥行き回転,奥行き並進,物体としての伸縮のそれぞれの有無を知覚的に判断することを求められた.結果は,概ね一般的視点の原理からの予想と一致した.また,交差する二線分の奥行き回転に関する実験を行い,この場合には二線分の成す角の見えの一般性の考慮が必要であると報告している.

 実験群1においては刺激の過単純化が問題であった.そこで続く実論群2(Chapter3)では,一般的視点の原理の適用範囲を,より複雑な刺激にまで拡げることを試みている.多数の点運動情報だけから,球やシリンダーなどの三次元剛体構造が知覚的に復元されることは,従来から知られている(運動からの構造復元).ここでは無作為な点から成る球表面を垂直軸周りに回転させ,その二次元投影像を作成している.その際,各点は奥行き位置のみが異なる(球表面の反対側の)点と対にされた.視点と回転軸の関係について,見えの一般性を分析し,共通軸,共通点出現,直線上分離,オフセット,および分離オフセットの5つの見えに分類した.共通軸条件と共通点出現が最も偶然的,直線上分離とオフセットが一般的,分離オフセットが最も一般的であると考えられた.最初の実験において,被験者は,共通点出現,直線上分離,およびオフセットの3条件から無作為に2条件を継時呈示され,より奥行き知覚印象のある方を判断した.結果は,最も偶然的な共通点出現条件では奥行き知覚が生じにくく,一般的視点の原理と一致した.次に,特定のオフセット条件を共通の標準刺激として,共通軸条件を除く4条件で視点の位置を0度から16度まで定量的に操作し,奥行き知覚印象の対比較実験を行った.その結果,水平線(0度)から16度までの視点に関しては,定量的に見えの一般性の効果が増大すること,および分離オフセット条件はオフセット条件に対して差がないことが示された.さらに,オフセット条件に限って,0度(共通点出現)から90度(共通軸)まで視点の位置を操作し,奥行き量の知覚的推定を課したところ,15度から30度あたりで,最も大きな奥行きが知覚された.偶然的見えである0度および90度では,ほとんど奥行きは知覚されなかった.これらの結果から,一般的視点の原理が球表面にも適用可能なことが示された.また,この原理から予測された効果以外に,剛体性制約条件から予想された効果も同時に存在するこが示唆された.

 実験群3(Chapter4)では,さらに複雑で現実的な刺激状況へと分析を発展させ,一般的見えと偶然的見えの空間的相互作用に焦点をあてている.立方体のワイヤーフレーム・モデルとその中に充填する要素の見えをそれぞれ操作し,充填された要素が外側の立方体の三次元構造知覚に及ぼす影響を調べた.まず,回転する立方体の周囲に可能なすべての視点を仮定し,得られる見えを分類した.回転軸上の視点からは,正方形が回転するだけの最も偶然的な見えが得られた.また,回転軸と直交する周上からは,複数の矩形の伸縮運動からなる偶然的見え(矩形の見え)が得られた.それ以外の視点からは,複数の平行四辺形が変形運動する一般的見え(平行四辺形の見え)が得られた.最初の実験では,立方体について矩形の見えと平行四辺形の見えを用意し,それぞれの内部に無作為な点を充填する条件と充填しない条件を設定し,全部で4つの刺激条件とした.被験者は,無作為に選ばれた2つを提示され,外側の立方体がより奥行きがあるように知覚された方を判断した.その結果,点のあるなしに関わらず,一般的見えである平行四辺形の見えから奥行きがより知覚された.点が充填された場合には,偶然的見えの矩形の見えからであっても,点がない場合より立方体の奥行きがより知覚された.よって,曖昧性なく三次元運動を知覚させる点の運動が,立方体の偶然的見えの奥行きを捕捉し,その知覚される奥行きを増加させたと考えられた.次の実験では,立方体として偶然的見えである矩形の見えのみを用い,充填する要素として複数の線分を用いた.刺激条件は,線分がない場合,線分の偶然的見え(すべて水平な線分の回転)およびその一般的見え(無作為な方位に傾いた線分の回転)の3つであった.なお,線分の一般的見え・偶然的見えは実験群1によって分かっている.手続きは,前の実験と同様であった.その結果,線分なし条件よりその偶然的見え,それよりさらに一般的見えの条件で,外側の立方体の奥行きが増加されて知覚された.つまり,充填された線分の一般的見えが,外側の立方体の偶然的見えを捕捉し,奥行きを知覚させた.したがって,見えの一般性の効果は,局所的に働くのみならず,空間的に相互作用し大局的に伝播することが示された.一般的視点の原理がより複雑な物体あるいは光景に働くためには,すべての物体の見えの確率分布が必要なのではなく,局所的な要素の見えの一般性のみを必要とし,その相互作用から全体の知覚が決定されている可能性が示唆された.

 最後の実験群4(Chapter5)は,観察者が実際に運動している条件での実験である点で,それまでの実験群とは大きく異なっている.観察者が運動しているときの網膜上の相対運動(運動視差)は,それ単独で奥行き知覚の手がかりとなることが知られている.そこで,観察者の頭部運動方向の逆転時に,刺激の相対運動が通常の運動視差と逆になる実験刺激を生成し,その際に知覚される奥行き順序の反転と前額平行面での相対運動との間の曖昧性について,その解決の規定要因を調べた.結果として,刺激に速度の不連続がある場合に奥行き反転は抑制され相対運動が知覚された.また,なめらかな速度勾配のある場合には奥行き反転が促進された.この現象において,一般的視点の原理が以下のように貢献していることが示唆された.見えにおける速度不連続が表面の複数性(物体の分離)の一般的見えであり,また複数の物体の間の奥行き順序反転のコストが高いことが,その奥行き反転の抑制という実験結果を説明する.

 以上の実験結果を受けて,全体考察(Chapter6)ではまず結果を要約し,既成の諸理論と「一般的視点の原理」とを比較している.そして,たとえば「ゲシュタルト原理」が主観的で定性的な傾向を免れ得ないのに対して,「一般的視点の原理」では刺激およびその知覚解釈の数量的評価が可能であり,より一般的であると述べる.また「運動からの構造復元」問題に対する計算論的アプローチで主流となっている,いわゆる「剛体性」の制約条件については、本データ群の解釈上その部分的な役割を認めている.そして全体を理解するさらに包括的なアプローチとして,「ベイズ推定としての視知覚」の理論的枠組みを提唱し,この一般的視点の原理(尤度)と従来の自然制約条件(事前確率)は統合されるのではないかという見通しを述べている.

 本論文においては特に,次の諸点が高く評価された.

 (1)「順光学の分析を踏まえて逆光学=知覚の結果を予測する」という計算理論の枠組みを採り入れており,条件分析に終始する旧来の知覚心理学や心理物理学の方法を乗り越えていること,

 (2)視知覚の外界適応性や学習可能性などの大きな問題意識から出発し,視知覚全体のメタ理論,あるいはgrand theoryとしての「一般的視点の原理」の可能性に着目していること,

 (3)その原理を「運動からの構造復元」という,重要な初期視知覚過程にはじめて適用し,かなりの成功を納めたこと.

 これらの成果により,本論文は博士(学術)の学位に値するものであると,審査員全員が判定した.

 なお実験群1は学術雑誌上にて公表済み,実験群4は同じく公表予定である.また実験群2および3については現在公表を準備してる.

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