強い相互作用によって支配されるハドロンの記述には、量子色力学(QCD)が基本的な理論的枠組みと考えられている。十分高いエネルギーで起こる、深部非弾性散乱などの解析には、漸近自由性のために、結合定数の摂動展開が有効であることがわかっていて、これらの解析からQCDはハドロンの基礎理論として確立されたものと考えられる。 一方、クォークの閉じ込めや核子の構造などに関係した、低エネルギー領域では、繰り込み群の援用で導かれた有効結合定数が大きくなるため、摂動的手法は有用性を失い、非摂動的な取扱いが必要と広く認められている。 t’HooftとWittenらは、カラーの自由度NCを実際には3であるが、十分大きくした場合を想定して、この自由度NCの逆数による展開理論を提案した。その極限では、ハドロンの世界がクォークの自由度があらわに見えないで、クォーク・反クォーク対からなる中間子だけで構成されるスカーム模型のものになる。そこではバリオン数Bは中間子のトポロジカルな量子数として対応している。 彼らのスカーム模型の復活から、ハドロンに対しこの線に沿って、核子や粒子のスペクトルや構造の研究が盛んに行われた。中でも、核子を特徴づけるアイソスピンだけでなく、∧粒子などを特徴づけるストレンジネスを含めフレーバを3にしたSU(3)対称性までの、ハドロンの構造が、藪・安藤などによってなされ、スカーム模型の研究対象が拡大された。 スカーム模型でハドロン間の相互作用を導出する場合、B=2の配位を作らなければならない。もっとも、簡単な近似は、product ansatzで、2つの中心の異なるB=1のスカーミオンの配位の積で表すもので、そのバリオン数は2になる。つぎに簡単な近似は、Atiyah-Mantonが提唱した、ゲージ場のトポロジカルなインスタントン配位から、B=2の配位を決めるもので、2つの中心が十分離れているときは、それぞれの解が2つのB=1の解と同じになるが、近づいてきたときには、product ansatzのときとは違って、それそれの配位が変わるので、product anzatzの近似よりよくなる。 これまでは、product andsatzやAtiya-Mantonの近似は、SU(2)フレーバのときのみに限られていて、ハイペロンと核子の相互作用を調べるには、SU(3)フレーバでB=2の配位を決めなければならない。申請論文の主要部分はこのことを実行し、それぞれの近似でポテンシャルを計算し、両者を比較し、評価したことである。それは単にSU(2)をSU(3)に拡張したというのでなく、SU(2)にはないSU(3)固有の問題があり、申請者はうまく工夫してそれらを解決している。 実験に対応するものとして、1ボゾン交換相互作用の結果と比較している。-N相互作用、-N相互作用のそれぞれのチャネルについて解析しているが、例えば、-N相互作用の中心力部分は、1ボソン交換相互作用に見られる中間距離領域での引力は両者とも斥力になっている。全般的に、Atiya-Mantonの近似はより優れているということが、明らかに示しており、単なるproduct ansatzは近似がよくないこと、また、B=2の場合も、藪・安藤がやったように、数値的に解を求めるとより改善されることを示唆している。 SU(2)のとき中間状態としてとの結合やカラー自由度の有限性であることによる補正が中間領域の引力を再現するのに重要であった。この論文でもSU(3)でそれらのことを考察しており、とくに、∧-Nと-Nとの混合の寄与が大きく、*-Nチャネルとの結合はエネルギー的にたかいため寄与は大きくなかったことを明らかにした。 本論文においてはじめて、SU(3)スカーム模型による、ハイペロン-核子相互作用を解析し、B=1のスカーミオンのproducut ansatzよりもAtiya-Manton模型で示したように、SU(3)フレバーでのB=2でのより精確な解がよりよくなること、中間状態のチャンネル結合と有限カラー自由度によるクォーク模型の補正が重要であることを明確に示し、申請者はQCDの有効理論において重要な貢献をしたと考える。 よって、当審査委員会全員、本論文が博士(理学)の学位の授与に値するものと認める。 |