渦巻銀河は中心部にありほぼ球状の構造を持つバルジ成分と薄く円盤状の構造を持つディスク成分の2つの大きな構造を持っている。このうちのバルジ成分に関してはその測光学的特徴が楕円銀河と類似していることから、バルジ構造の形成および時間進化に関して楕円銀河との関連性が議論されてきた。バルジの形成に関して理論的にはバルジが先に形成された後にディスク成分が形成されたとする説とディスク成分の方がバルジ成分よりも先に形成されたとする説の2つがある。どちらの説がより実際の銀河の状況に合っているか判断する方法として、バルジおよびディスクの各成分のカラーを比較する方法がある。これまで1つの観測バンドでバルジとディスクを分離する研究は行われているが多色でバルジ/ディスク分離を行い、多数の銀河に対しバルジ/ディスクのカラーを直接比較した研究はほとんどない。本研究では楕円銀河からSb型銀河までを観測し、渦巻銀河に対してはバルジ/ディスク分離を行って、各成分のカラーの比較、および構造パラメータとカラーの比較を行った。 観測は木曽観測所の105cmシュミット望遠鏡に可視CCDカメラと近赤外線カメラを取り付けて、楕円銀河およびS0型からSb型までの銀河の計22銀河に対して行った。観測バンドはBVRCIJHの7バンドである(ただし近赤外線での観測は一部の銀河についてのみである)。近赤外線の観測に於いては、それまでに我々の観測に適した広視野の赤外線カメラが無かったことから、新たにカメラを開発し、赤外線カメラには無い18分角四方の非常に大きな視野さを持つ赤外線カメラを製作した。 まずは銀河をバルジとディスクの2成分に分解し、それぞれの測光パラメータを比較する。この成分分解に関してこれまで用いられてきた手法は、銀河の表面輝度分布を等輝度楕円の組み合わせでフィットし2次元から1次元へ表面輝度を変換した後、この1次元の表面輝度分布をバルジとディスクに分解する方法であった。一般的にバルジの表面輝度はde Voucoukeurs則と呼ばれる輝度分布を示し、ディスク成分は指数関数則に従うことが知られているので、この分布の違いから2成分分離ができる。しかしこの方法では我々の観測銀河の様に非常に傾いたサンプルの場合には、バルジの影響が銀河面に対して垂直な方向で大きく、等楕円楕円フィットの際の形状パラメータに大きく影響する。その結果、最終的に得られる結果には系統的なバイアスがかかってしまうことが指摘されている。そこで我々は2次元の表面輝度分布を1次元に変換せず、直接2次元画像を成分分解する方法を採用した。この方法は計算が大量になることと、最適値の判断が難しいためこれまであまり行われていなかった。 2次元データを用いる際のパラメータはバルジの有効半径(eff),有効表面輝度(eff),軸比(b/abulge),ディスクのスケール長(o),中心表面輝度(o),軸比(b/adisk)の6パラメータである。最終的に出来上がったプログラムに対しては、その性能を次の様な方法で評価した。まず各パラメータを実際の銀河で考えられるような範囲でランダムに選んでモデル銀河画像を作成する。その画像にはできるだけ実際の観測画像に近づくようにCCDの読みだし雑音やPoisson雑音成分を加え、その画像に対して成分分解を行う。このような方法を30のモデル銀河に対して行い、その結果、バルジの軸比を除く5パラメータに対しては入力値に対して系統的なずれはなく2%以内の精度で入力値と出力値は一致した。しかしバルジの軸比については系統的なずれはないものの、出力値は12%の精度にとどまた。 以上のようにして作った成分分解プログラムを用い、銀河の成分分解を行い、そのパラメータを比較した。ディスクパラメータに関してはS0からSbまでのすべてのタイプに対しパラメータは連続的に分布し、タイプの間に有意な相違がないことを示している。またサンプル数は少ないものの弱いディスク成分が観測されている楕円銀河(disky E)のディスクパラメータもS0-Sb型のパラメータ分布とほとんど同じ位置を占めている。このことはdisky EからSbまでディスクは同じ形成過程をたどったことを示唆し、S0とSa以下の渦巻銀河、さらにはdisk E型までの連続性を示すものである。 またバルジ成分のパラメータについてもS0からSbまで値は連続的に分布し、渦巻銀河のバルジ成分に銀河タイプの違いは無いことがわかる。またこの分布は楕円銀河のパラメータとも連続的につながっており、楕円銀河とバルジ成分の形成がほぼ同じ過程であることを示唆するものとなっている。 次にバルジのカラーと他のパラメータとの関連を調べた。その結果、バルジのカラーは渦巻銀河のタイプに依らずほぼ一定であり、銀河の中心領域のバルジ/ディスク比にも依らないことがわかった。その一方で銀河の絶対等級あるいはバルジ自体の絶対等級との関連が明らかになった。バルジのカラーはバルジの絶対等級が小さくなるほど(バルジの質量が大きくなるほど)赤くなる傾向を示し、この傾向は(B-V)のような青いカラーで顕著である。これは楕円銀河で既に知られているカラー-等級関係と同一のものである。このからー-等級関係は銀河の形成過程に大きく関与しており、バルジでこの関係が確認されたことはバルジがディスク成分の不安定性から形成されたものではなく、楕円銀河と同じ過程(dissipative collapse model)で形成されたことを強く示唆するものである。さらに詳しくみると、バルジの等級に対するカラーの傾きは楕円銀河の場合に比べて急であり、Mv〜-16.5magに相当する明るさでは、同じ明るさの楕円銀河とほぼ同じカラーを示すが、Mv〜20.5magに相当する明るさでは同じ明るさの楕円銀河より(B-V)からーで0.1mag赤くなっている。これはダストによる赤化の効果ではない。この現象は年齢の違いによるものとも解釈できるが、そのような仮定に立つと軽いバルジは楕円銀河とほぼ同じ年齢であるが重いバルジは楕円銀河よりも年齢が古いことになる。また銀河の進化モデルによればカラーの変化は年齢が10Gyrを越えるとほとんど一定となることから、0.1magのカラーの違いを説明する為には(標準的な進化モデルを用いる限り)宇宙年齢以上の時間が必要となり実際とはあわない。したがって、金属量の違いによりバルジと楕円銀河の間の差異が生じたものと解釈できる。 次にディスク成分のカラーと他のパラメータの関連を調べた。渦巻銀河はそのタイプにより顕著なカラーの違いを示す。このカラーの違いがディスクの構造と関連があるか、ディスクのスケール長、中心表面輝度、バルジ/ディスク比、銀河全体の絶対等級、ディスクのみの絶対等級の5パラメータに対してカラーとの比較を行った。その結果、ディスクのカラーはそれらのパラメータとほとんど相関が無いことがわかった。一方でこれまで知られているようにディスクのカラーは銀河タイプとは明らかな相関がある。一般に銀河のタイプはバルジ/ディスク比が1つの分類の指標となっているが、このバルジ/ディスク比がカラーと相関が無く、また同じ銀河タイプに分類されている銀河間でもばらつきが大きいことから、銀河全体のカラーが同じ銀河タイプであっても相当のばらつきを示す要因であることはバルジ/ディスク比のばらつきに依るものであることは明らかで、その点では構造的特徴による渦巻銀河の分類は適当ではない。また本研究のデータだけからはディスクのカラーの違いの原因と考えられる星生成率の違いの要因は分からない。 最後に理論モデルと観測されたカラーの比較を行った。理論モデルは銀河進化の研究のみでなく観測的宇宙論の分野でも広く使われている。これらのモデルは近傍の銀河の観測結果をもとにして作られているが、これまではの観測はほとんどが銀河全体のカラーに関するものであった。本研究では各成分ごとに近赤外までのカラーが求まっているので、それぞれのカラーを2つのモデル(Arimoto and Jablonkaモデル,Wortheyモデル)と比較した。比較の結果、2モデルとも観測結果と誤差の範囲で一致した。ただし後者のモデルに関しては銀河のカラーを再現する際のパラメータを一意に決定出来ないことが、観測結果の比較の上からも示された。 以上をまとめると、渦巻銀河のバルジは楕円銀河と強い関連を示し、両者がほぼ同じ形成過程をたどったことを強く示唆する結果が得られた。一方で、ディスクのカラーは構造パラメータとはほとんど相関がないことがわかった。また理論モデルとの比較ではバルジ/ディスクの各成分とも誤差の範囲で観測と理論は一致した。 |