磁気圏と言えば太陽風との相互作用によって歪められるダイポール地球磁場の支配する領域を指す。この地球磁気圏において、最も重要なプロセスは磁気圏と電離圏との連結過程であろう。中でも、磁気嵐、或いは磁気圏嵐とも言うべき自然現象はこの連結過程において最も基本的且つ活動的な表われである。磁気嵐が起こると磁気圏尾部或いはプラズマシートよりエネルギーを持つ荷電粒子は地球に向いて注入することによって東西向きの赤道環電流が形成する。特に大きな磁気嵐が起こるときに地球電離層から大量のプラズマ粒子(主に酸素イオン)は直接に赤道域に流入し、強い対流電場に輸送されることによって環電流のエネルギーを担いながら地球に最も近い所まで浸入できる。この傾向は特に太陽活動の激しい時期に著しくなる。 一方、このような領域において、荷電粒子の輸送に伴い、さまざまなプラズマ波動が発生できる。磁気圏におけるプラズマ波動に関する研究は人工衛星及び地上での観測を通じて、長年にわたり、成果を挙げ続かれている。それに伴い、例えば、ホイスラー波動の研究によって、プラズマポーズの位置を確定することができたと言うような見事な出来事も少なくない。これは、プラズマ波動がその伝播に欠かせない媒体に対して、沢山の情報を持っているからである。我々は波動現象の研究を行うと同時にその媒体となるプラズマ粒子を診断するということを常に狙っている。 磁気赤道付近に現れる電磁的なイオンハーモニクバーンスタインモード波動が、OGO3、IMP6、Hawkeye1、GEOS1,2、EXOS-Dなど多くの人工衛星によって観測された[Russell et al.,1970,Gurnett,1976,Perraut et al.,1982,Kokubun et al.,1991,Liu et al.,1994]。このような波動が、磁気赤道領域にトラップされているプラズマ粒子のピッチ角分布やエネルギー分布の異常などの不安定によって発生したと考えられている。そのうち、特に注目したいのはEXOS-D衛星により初めて観測された磁気嵐の時の酸素イオンによるジャイロハーモニク波動である[Liu et al.,1994]。なぜなら、EXOS-D以前の人工衛星による波動観測では、多くの場合に観測領域が遠い場所に限られた為(3〜8倍の地球半径の間)、現象の磁気活動との関連や、水素イオンの他にある地球電離層起源の重イオン(例えばO+.He+)による現象などを明確に示せることができなかった。 1989年に日本が打ち上げた科学衛星EXOS-Dは比較的低高度(1.5〜2.5倍の地球半径の間)なので、電離層起源のプラズマ粒子が比較的に集中すると思われる領域での波動観測ができるようになった。従って、我々はこの領域において特に酸素イオンによるジャイロハーモニク波動を研究するために、そして、磁気嵐の時の赤道域のプラズマ(主に酸素イオン)を診断するために、最も良いチャンスに恵まれていると言えよう。本研究はこう言った目的を念頭に置きながら、衛星の波動データを解析するとともに理論的なモデル計算を行なうという形で進めてきたものである。 以下に述べるのは、以上の方針で現在までに進められてきた研究の概要である。 磁気嵐の時にEXOS-D衛星に観測された酸素イオンによるジャイロハーモニク波動はイオンサイクロトロン周波数の高調成分を持ち、磁力線に対して斜めに伝播するものである。約五年間の波動データを解析した結果、次のことが分かった。 (1)現象は磁気嵐の主相に当たる時間帯、そして、高度6000キロから10000キロまで、赤道面を挾む磁気緯度の正負10度以内の場所に観測された; (2)現象は磁気地方時の朝方から昼側まで(0600-1000LT)の間に集中的に観測された; (3)現象は太陽活動の激しい時期に限って観測された; (4)現象は局在的に励起されたものであり、背景磁場に対し70度から80度までの間に伝播角を持つものである; (5)現象に当たる波の高調波数はLarge storm(-250nT<Dst<-150nT)の場合に最大8から10まで、Great storm(Dst<-250nT)の場合に最大12まで上がる。 このような特徴を持つ波動現象について、次の通りに理論的なモデル計算を行った。 先ず、冷たい水素イオンと酸素イオンが入っている背景プラズマの中にリング状分布を持つenergetic酸素イオンによる垂直伝播の波動モードを仮定して、その分散関係と非共鳴不安定性(k‖=0)によるハーモニク周波数(no+)の所の成長率を計算した。次に、背景プラズマの中にある水素イオンや酸素イオンなどを有限温度を持つMaxwellian分布の粒子集団とし、そして、自由エネルギーを持つ酸素イオンを温度異方性を持つloss-cone分布のものと仮定して、より現実的な斜め伝播の波動分散関係と成長率の計算を行った。 背景プラズマ粒子の組成比と酸素イオンの熱速度、そして、自由エネルギーを持つ酸素イオンの熱速度、異方性の強さ及び分布関数の形などは波動成長率に決定的な影響があるということがモデル計算で分かった。 以上の計算で得られた結果は、観測された波動現象をよく説明できた他に、以下の結論を付けた。 (1)斜め伝播の酸素イオンジャイロハーモニク波動が強い温度異方性を持つloss-cone分布のenergetic酸素イオンの不安定によって、発生可能である; (2)このような酸素イオンジャイロハーモニク波動を立てるために、a)背景プラズマについては、酸素イオンがLarge stormの時に粒子全体の10¥%以上、Great stormの時に粒子全体の半分近く占めることが必要である;b)自由エネルギーを持つ酸素イオンについては、粒子分布が大きな温度異方性を持ちながら、磁場に垂直方向の熱速度が毎秒200キロから300キロまでの間に波を成長させる最適値がある。 最後、波動データ解析結果とモデル計算結果を踏まえて、また、磁気嵐の時の赤道域のプラズマ粒子の観測結果と、その源と見られる地球電離層から流出していく粒子の観測結果を用いて、磁気嵐の時の磁気圏と電離圏との連結過程について物理的解釈をした。つまり、夜側オーロラ帯(60°〜65°)から出てきた数百evの温度を持つ酸素イオンの流れが赤道域に着く後、更に強い対流電場によって地球近傍(L〜2-3)まで運ばれ、同時に十数kevまで加速されるというふうに考えている。そのうち、エネルギーの低いものは地球corotation電場の働きを受け東向きに磁気地方時の朝方から昼側までの間に入るのに対し、エネルギーの高いものは地球磁場の働きを受け西向きに同じ場所に到達する。従って、他の磁気地方時に比べて、朝方から昼側までの間に波を成長させる自由エネルギーを持つ最も不安定な粒子分布が形成できる。この分布は観測されたような酸素ジャイロハーモニク波動を立てることができる。 |