本論文は全体として2部から構成されている.第1部は三波川変成帯の主要な分布地域である四国中央部の汗見川地域における変成岩の構造についての詳細な解析とその記載である.第2部は一般に変成岩の構造形成のメカニズムについて従来とは異なるモデルを提出し、これを計算物理学的に解析をおこなった. 第1部では沈み込み帯で起こる高圧中間型変成作用の典型地として西南日本外帯の三波川変成帯に分布する低変成度から高変成度の変成作用を受けた様々な化学組成の変成岩について、従来とはまったく異なる視点、すなわち変成岩を構成する鉱物の粒径、形状、分布、体積比などからなる構造量を変成作用の温度や圧力および、歪み速度などとの関係で研究する方法を採った.補完するデータとして変成岩を構成する各種鉱物の化学組成とその累帯構造を測定した.その結果、アルバイト結晶の組織構造が顕著に変化することを明らかにした.その変化とは、 1、変成帯の中で、変成作用の温度が高い地域ほど、平均的なアルバイトの粒径は大きい. 2、粒径分布については、低変成度の緑泥石帯の岩石では構成する鉱物が変化しても、対数正規分布をしめす. 3、ざくろ石帯よりも高温で変成作用を受けた石英質の変成岩ではアルバイトの粒径分布はべき分布を示す. 4、ざくろ石帯よりも高温で変成作用を受けた玄武岩や泥質変成岩では、粒径分布は対数正規分布からべき分布までの多様性がある. 5、アルバイトの粒径がべき分布を示す岩石では、アルバイト粒子の空間分布はクラスターをつくる分布パターンとなる.一方、対数正規分布の粒径分布を示す岩石ではアルバイト粒子の空間分布はランダムな分布を示している. 6、粒子がクラスターを持って空間分布しているときには粒子相互の位置は全くのランダムなクラスターではなく、偏った分布を示すことが多い.しかし、方位についての2体相関関数は顕著ではない. 7、ランダムな空間分布を示すアルバイト粒子の方位相関関数は岩石中でも全体としては顕著ではない. 8、アルバイトはほとんど純粋であるが、黒雲母帯の高温部ではオリゴクレースが不規則にアルバイト変晶に入っている. 以上の事実を明らかにしたうえで、変成作用におけるアルバイト粒子の挙動を以下のように定式化した. 1、石英片岩では基本的な構成鉱物は低温度で形成された変成岩では、石英、アルバイト、雲母、緑泥石、であり、高温の変成岩では、石英、アルバイト、雲母、緑泥石、ざくろ石である.したがって、変成作用の過程でのアルバイト粒子の挙動は、元来低温の変成岩にも高温の変成岩にもアルバイト粒子が多数含まれていて、その後に現在のような構造をつくったと考えられる.その変成作用を受ける前の構造は低温度変成作用で見られるものと一致する.きわめて低温でできる構造はランダムな空間分布であり、対数正規分布に近い粒径分布を示すことがしめされる. 2、変成温度が上昇するにつれて、歪み速度が著しく大きくなることが判明している.高温下では石英とアルバイトから構成されると近似される石英片岩では、塑性流動と粒子成長過程が協同する.このとき、実験構造地質学的な結果では明らかにアルバイト粒子は石英に比べて十分に流動応力が大きいので、岩石の塑性変形はほとんど石英の流動により、アルバイト粒子は変形しない.したがって、塑性流動の結果、粒子と粒子は互いに近接し、かつ衝突する.この過程はアルバイト粒子の合体成長がオストワルド成長と同時に起こることを意味している.その起こり方は両者のプロセスの強弱によっている.つまり、変形による移流と拡散の流束比がこの系を支配していると結論した. そこで、実際に妥当な拡散係数と歪み速度を用いて、3次元での一万体の多体系での粒子ダイナミックス法とスモルコフスキーダイナミックス系での数値シミュレーションをおこなった.その結果、つぎのことが明らかにされた. 1、衝突による粒子成長はべき分布の粒径分布関数を与え、粒成長の時間のべきは1/3である. 2、オストワルド成長による粒子成長はLSW型の粒径分布関数を与え、粒成長の時間のべきは1/3であり、いままでの研究結果と一致する. 3、剪断変形速度を与えての衝突による粒子成長とオストワルド則による粒子成長を協同させた数値実験はべき乗則と対数正規則の中間的な粒径分布則を与え、粒子成長の時間則はきわめて注目するべきことには0.6を与えた. 4、また3、項の実験では粒子の空間分布が明らかに初期のランダム分布からクラスター分布を示すように変化することが示された. 以上の結果は天然のプレート境界における変成作用にともなる石英-長石系の構造形成をきわめてよく再現したものと評価される.また、この研究の結果、天然の変成帯において、アルバイトの構造、つまり、粒径分布、粒子分布、および変成作用の温度が変化するにつれて、細粒のアルバイトからアルバイト変晶へと構造変化することをしめしたこと、さらに数値実験による研究の結果、一般的な重要事実として、粒子成長の時間則のべき指数が剪断凝集とオストワルド成長両者を協同した場合には0.33から急激に増大して、0.6となることをはじめて明らかにした.これらのことはきわめて独創性が高く、また、世界でもはじめての結果であることが評価された.そこで、審査会は本論文が博士(理学)に適合した論文であることを認めた. |