近年、飛行機、船、自動車、建物等の様々な構造物において軽量化、高効率化、低コスト化及び騒音・振動対策費用低減のために、設計段階での振動・騒音予測と対策方法の検討が定着してきた。さらに、構造物の軽量化を目的をしたフレーム構造においては騒音・振動の問題が生じやすい。これらの問題について、振動・騒音の発生源から伝達経路を含む構造系及び周辺音場系までの全体系の振動・騒音の予測が重要な課題となる。構造物における振動・騒音挙動の解析方法として時間、費用を節約し、対策を効率化することを考えると振動・騒音挙動をモーダルと周波数平均エネルギーにより表現する方法が望ましい。このような解析法の一つがSEA(Statistical Energy Analysis)である。 本論文ではSEAに基づいてフレーム構造における振動伝播解析をテーマとすることにした。その内容は、 1.一般化した梁材の接合部における波の全種類を含めたパワー伝達率を予測する方法の定式化及び実験的に結合損失係数を求める方法 2.波の変換に伴うパワーバランス式の定式化 3.構造物の部材寸法、素材の変更による振動・騒音の特性の解析(センシティビティ) 4.複雑な構造内でのエネルギーの流れとパワーの流れに関する解析の手法を開発することにある。 以下に、本論文の概要を示す。 第1章においては、本研究の背景、目的及び既往の研究について説明し、SEAに基づいてフレーム構造における振動伝播解析が必要なことを述べた。既往の研究では、梁材への適用を中心として、それぞれの方法のもつ特徴について述べた。さらに、本論文の構成について説明している。 第2章においては、SEAのパワー平衡に基づいた基礎概念とパラメータを説明している。特に、パワー平衡式のパラメータが持つ意味とSEAの概念を熱伝達と比べて説明しており、SEA全般における意味について述べた。 第3章においては、SEA全般に必要な基礎式について説明している。まず、波の種類によるパワー伝達率と結合損失係数との関係を表すパワーフロー式の定式化について述べた。 次に、モーダル密度と結合損失係数との間に関係するReciprocityについて、パワー平衡式を用いて証明した。 最後に、入力パワーの定式化と曲げ波・縦波・ねじれ波のエネルギーの計算について述べた。実際の実験の場合には、入力パワーと曲げ波・縦波・ねじれ波のエネルギーの計算は、特に重要となる。 第4章においては、接合部における波の全種類を含めたパワー伝達率を予測する方法の定式化と実験的検討について述べた。梁材は板材と異なり、振動の伝播に伴う振動の自由度が多いために、面内振動要素及び非面内振動要素がある。先ず、結合損失係数をウェーブ伝達解析方法及びBernoulli-Euler Beam理論を用いて、平面的な構造物、立体的な構造物の接合部における振動波の反射率及び伝達率について述べた。 次に、SEA法に基づく逆SEA法を用いて実験的検討を行った。特に、波の種類別の変換に伴うパワー伝達率の予測手法を定式化し、実験結果と計算結果とを比較した。両者の間にはよい対応が見られ定式化の妥当性が確かめられた。 また、このような解析の結果から、 1.接合部を通過する波によって生じる様々な境界条件のうち、力の平衡条件と変位の連続条件、モーメントの平衡条件と勾配の連続条件との間に高い相関がある 2.ねじれ波への伝達率とねじれ波の加振による他の波への伝達率が他の波よりも小さいことも確認できた。 さらに、実験的に結合損失係数を求める方法について述べた。先ず、パワー平衡式のうち、モーダル重複マトリクスの対角要素には、隣接している全ての要素との結合情報が含まれていることに着目し、いくつかの仮定から、入力パワーを測定せずに構造損失係数、内部損失係数、モーダル密度を利用して結合損失係数を求める方法を提案、定式化した。実験との比較を行った結果、提案した方法の有効性を確かめた。 また、提案した定式化に一つの仮定を導入して、その式を簡素化することにより内部損失係数と結合損失係数から総合損失係数を求める方法を定式化し、計算値と実験値との比較・検討を行った結果について述べた。 第5章においては、内部損失係数について述べた。先ず、内部損失係数について、定式化の過程がSEAと関係のない残響法、及びSEAと関係がある逆SEA法とを用いて、同じ材料で寸法が違う二つの試料を対象として、実験的検討を行った。その結果、測定方法による差が材料による差より大きいこと、両測定方法共に、寸法の違いの影響が高い周波数より低い周波数で大きいことが分かった。全体的に周波数が増大していくと、内部損失は減少していくことが分かった。 第6章においては、モーダル密度の解析結果の場合に無次元周波数(Q)を導入して解析した結果 1.ねじれ波のモーダル密度が縦波のモーダル密度の1.6倍であること 2.ねじれ波と縦波共に、モーダル密度は断面の形態には関係ないこと 3.曲げ波の場合には無次元周波数(Q)が増大していくと、無次元周波数のモーダル密度は減少していくことが分かった。 第7章においては、複雑な構造内でのエネルギーの分布・エネルギーの流れ及び構造物の部材寸法、素材の変更による振動・騒音の特性の解析(センシティビティ)に関する解析の手法を定式化と解析結果について述べた。エネルギーの分布については提案式を用いて、三つのモデルに適用して計算と実験的検討を行った。 構造物の中の振動波の変換・伝達について定式化し検討を行った結果、妥当性を確認することができた。この解析結果に基づいて寄与度の解析の定式化及びエネルギーの流れの可視化とセンシティビティ解析が可能であることを確認した。 このような解析結果から 1.ねじれ波のエネルギー分布が他の波のエネルギー分布よりはるかに小さい 2.振動の伝達が最短距離を通して伝達されることが計算上でも確認できる 3.最短距離が複数の場合には最終部材の一つ前の部材のモーダル密度が小さい方が寄与度が高い 4.センシティビティ解析を通して、限られた条件から最適な条件を選ぶことが可能であることを確かめた。 第8章においては、各章における検討結果をとりまとめた。また、今後の研究の方向性や適用の拡大について述べた。 付録においては、フレーム構造ではなく、板材の構造に対してSEAを適用する時のパラメータ、特に、板材が2つ、3つ、4つで構成されている接合部のパワー伝達率の定式化について述べた。 本論文では、SEAに基づいてフレーム構造における振動伝播解析の検討を行い、以上のような知見を得た。本論文で用いた定式化は様々な制約条件や問題点がある。これらの問題点について一つずつ解明して行きたい。 |