高齢社会の到来、生涯学習の必要性あるいは、余暇時間の増加など現代社会の動向は、都市の地域施設の一タイプとしてつくられてきた社会教育の諸施設の重要性を高め、かつ計画の見直しをせまりつつある。そこで、従来の研究に基づいた段階構成で計画された足立区と世田谷区の社会教育施設を研究対象として以下の考察を行う。 1)適切な利用を阻害する一般的な制限要因と利用しやすさの考察 2)施設の物的環境による利用しやすさの考察 3)様々な生活パターンや社会交流意識など都市に生活する人々の社会的・心理的属性に対応した施設の利用しやすさに関わる諸要因の考察 の3つの次元に分けて研究を進める。 【1章序論】では、既往の地域施設研究と本研究の位置付け及び、研究の背景、本研究に使われる用語の定義を記述した。 住宅の外延的機能を担う目的でつくられてきた地域施設を、生活の質の向上に資することのできる都市の中の人々の居場所にしていくための基礎的調査として本研究は位置付けられる。更に、本研究では利用者の生活環境の時間的変化による施設利用の変化の様子や社会的な交流意向による施設利用仕方をケーススタディーとして明らかにした。 【2章地域施設の変遷と施設整備状況】では、現行の地域施設の設置基準及び状況と、調査地域の地域施設体系を記述した。 【3章地域施設における制限要因】では、現行制度化に計画された地域施設の利用圏及び利用の実態の調査を行った。さらに地域施設の適切な利用を阻害する制限要因(accessibility factors)を把握した。施設環境の未整備や運営上の欠陥によって適切な施設利用を妨げる施設運営側の要因を外的制限要因、施設利用者側の事情による利用を制約している要因を内的制限要因と呼び、この二つの側面から施設利用に関わる制限要因を論じた。その結果、次のようなことが明らかになった。意識やプライバシーなどの個人の利用意識に基づいた施設利用パターンを究明した。 ここでは (1)各居場所での交流意向度合い (2)利用者が望んだプライバシーの状態 の二つの条件によって場の分類を行った。その結果、居場所の分類は下記の3つにまとめられた。 1)交流型居場所-利用者が積極的な交流の場として意識し、個人的なことも気兼ねなく話すなど積極的な交際行動が多く見られる場である。 2)限定交流型居場所-人と心理的距離(mental distance)をおきながら、交際行動が行われる場として、望まない自分の情報が知られる心配がなく、匿名性を保ちながら、長期間にわたる交際を続ける場である。 3)一人型居場所-人との交流をさけ匿名による、あるいは、孤立(solitude)された個人の領域(プライバシー)を守りながら利用できる場である。 そして、人々の施設利用パターンは交流意向によって、「交流志向パターン」と「非交流志向パターン」の二つに分類できた。そして、施設利用パターンのは様々な環境変化と共に変わることが分かった。特にライフステージによる変化に合わせた利用者の施設選択パターンの変化が多くみられた。 【6章地域施設利用の実態調査】 韓国において地域施設は広がりつつあるが、まだ普及率は低い。そして、地域施設利用タイプに関しても短期間による講座が多く、地域施設本来の地域住民の交流を促す役割には及んでいない。施設平面構成の分析を通し、一部地域施設を除いたソウルの地域は人々が自由に利用できる機能や空間が不充分であることが指摘できた。 【7章公共施設環境による施設利用パターン】では、韓国における人々の生活様式による日常生活の居場所の種類、交流意識、行動内容、そして行動範囲の実態を通じ、交流意識と居場所の種類と、交流意識による利用施設のパターンを類型化する。なお、環境変化による施設利用の変化やある集団のなかにおける交流意識による参加行動について論じた。 韓国における人々の日常生活の重要な施設及び利用意識を考察した。その結果、次のようなことが明らかになった。 利用者属性にみると、10・20代の利用者は近隣圏の施設より都市圏の施設利用が多く、60代の利用者は近隣圏の施設利用が多い。職業別では学生と会社員の都市圏の施設利用が多く見られたが、近隣圏施設利用は主婦の方が多かった。地域特性別では松坡地域の回答者は近隣圏の施設利用の割合が高く、東大門地域は都市圏の施設利用の割合が高い。さらに、松坡地域の近隣圏の公共施設の充実は都市圏の施設利用が困難な主婦、無職、60代以上の人々に大いに施設利用の機会を与えた。そして、行動内容をみると、近隣圏での家族生活行動や社会的・文化的行動の機会を多くもたらしたと (1)現在の地域施設において利用タイプ(講座・自主サークル・図書館)別利用者の属性をみると、講座・自主サークルの場合、女性中心の主婦と高齢者の利用者が多く、図書館は年齢別、性別で均等な分布が見られた。利用目的は学習目的が一般的であったが、講座や自主サークルの利用者の中には最初から人との交際を目的としている人がいるなど利用タイプによる交際意識が異なった。 (2)講座・自主サークル利用者の利用圏は都市計画や施設配置計画において予想された計画単位内だけではなく、ほぼ全区を利用圏としていることが明らかになった。利用圏は利用内容及び利用距離によって大きく左右されるが、利用内容と関係なく、そこで得られるある種類の交流意識、匿名性を求めて意図的に距離の離れた施設を利用することがあることが分かった。 (3)施設の利用においてその適切な利用を妨げる制限要因を内的制限要因と外的制限要因に分けて調査・分析を行った。その結果、各調査施設の運営や立地などにより、外的制限要因はそれぞれ異なるものとなった。一方、内的制限要因としては「仕事・家事が忙しくて時間がない」という要因をあげる利用者が多い。このように外的・内的制限要因に分けて調査することにより、各施設環境と利用タイプ別によって発生する制限要因のより適切な把握及び対応が図られると考えられる。 【4章居場所としての使われ方とアクセス度】では、地域の居場所として使われている地域施設の共有空間の使われ方を調査し、その共有空間の類型と、アクセス度による地域施設の空間分析を行う。これにより居場所として使われる地域施設の計画上の問題点や必要な計画上の要因を明らかにすることが目的である。 調査の分析の結果、屋外空間として湘南台文化センターでは、人との視線や領域占有意識の度合いによって座る・たたずむなどの行動を支える様々な物的空間の柔軟な対応がうむ多様な行動内容・滞在時間・利用者属性・トリップの利用者がみられた。すなわち、屋内・屋外共用空間における多様な行動を誘発させるためには、人々のニーズに対応できる様々な空間分離・仕切方法による適合な空間デザインが行われている。そして、アクセス度合いによる地域施設の空間分析をしてみると、居場所としての共用空間はアクセスしやすい所に配置されなければならないことがわかる。 【5章日常生活上の公共施設の使われ方のパターン】の目的は、人々の生活様式による日常生活の居場所の種類、交流意識、行動内容、そして行動範囲の実態を通じ、交流意識と居場所の種類と、交流意識による利用施設のパターンを類型化することである。また環境変化による施設利用の変化やある集団のなかにおける交流意識による交際行動と、個人が地域像を捉える際の手がかりを探ることでもある。 第二に、前述したように、都市生活者の生活構造の理解のために、生活行動内容及び行動圏域の調査を通じ、人々の生活実状の記述を行った。そして、生態学や社会心理学の視点を導入し、施設利用者のインタビュー調査を通して、他の利用者との交流いえる。 儒教社会の特徴として、父母の世話のための施設利用と、年長者の親戚や隣同士の家の結婚式への参加などの家族生活行動内容があげられる。デパートなどの購買施設はレストラン、文化施設、映画館などのアミューズメント施設を施設を複合することにより、単純な行動目的以外の社会的・文化的行動を充足する場所ともなっていることも指摘できる。 人々にとって重要な場所として取り上げられた施設は、個人的生理行動と家族生活行動に関しては基本的なレベルの施設であり、社会的文化的行動に関してはより選択的で自由度が高い施設であった。 施設整備状況は地域によって大きく異なるが、家族生活行動や社会的文化行動の割合は全地域ほぼ同一である。しかし、近隣圏、都市圏の施設利用の割合に関しては差が見られた。これは、施設整備水準の物的環境に満足できない場合、人々が自分の生活行動圏を都市スケールに広げて再構築している為であるといえる。ただし、都市スケールでの施設利用は時間の制約や移動能力によって大きく制限され、主婦・高齢者にとって望ましい施設利用形態に大きな影響を及ぼしていることが明らかになった。 |