本研究は、今日欧米で用いられるようになった新たな建設プロジェクトの発注方式を主たる対象として、日韓両国における既存の発注方式との比較及び両国での新たな発注方式導入の可能性の検討を行うことで、最終的には日韓両国の建設プロジェクトにおいてそうした新たな発注方式を導入することの得失と導入する上で必要な条件を明らかにすることを目的にしたもので、6章から構成される。 第1章では、研究の背景、目的、範囲、そして方法について論じている。 第2章では、新たな発注方式の中心的な存在であるCM方式について、広範な文献調査により、それがアメリカにおいて発生し、今日アメリカの建設市場の約50%の建設プロジェクトに関与するに至った経緯を明らかにした上で、その経緯の中で多様な変形が生じていることを指摘している。具体的には、多様な変形を持つCM方式の定義が関連機関により異なることを示し、その相互の違いを明解に整理した上で、本研究におけるCM方式の包括的な定義を、「建設プロセスの企画から維持保全までをコンサルタントとしての第3者が発注者側に立ってマネジメント業務を遂行すること」とし、多様な変形を理解する基本形として、Pure CM型、CM at Risk型、Project Management型の3分類を採用することの妥当性を明示している。 第3章では、先ず本研究の対象地域である日本と韓国について、既存の発注方式が成立してきた過程と今日現れてきているその限界を、文献調査及び法制度関連資料調査等により明らかにし、新しい発注方式を導入する上での環境条件として位置付けている。具体的には、発注方式を根拠づけるものとしての入札制度に着目し、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスとの比較によって、日韓両国の特殊性を明確化した上で、今日現れてきている既存発注方式の限界を、「発注者側の問題」と「受注者側の問題」とに分けて明解に整理している。次に諸外国の発注方式に関する文献調査を通じて明らかになった多様な発注方式の特徴の整理を行い、これらが伝統的な設計・施工分離方式、設計・施工一括方式、CM方式、Design-Build方式、Design-Management方式、Bridging方式に分類できることを指摘している。その上で、このそれぞれの発注方式における各主体間の関係、各主体の業務内容と責任範囲、各主体別の得失等を比較分析し、各発注方式を相互に位置付けている。 第4章では、日韓両国の発注者、設計者、建設会社を対象とした調査とその分析を通して、CM方式に対する認識と将来の導入についての意識を明らかにしている。具体的には、既にCM方式の経験を有する、或いはCM方式の導入を検討している日本の発注者、設計者、建設会社を対象としたヒアリング調査によって、日本においてCM方式を導入する上での障害として、全ての専門工事業種に分離発注を行うことが困難であること、CM業務を担う人材を育成する教育機関が存在していないこと等を指摘している。次いで日韓両国の発注者設計者、建設会社計730社を対象としたアンケート調査によって、いずれの主体においてCM方式の利点についての正しい認識の上にその将来の導入の必要性を認めている企業が少なくないこと、しかし一方でCMrの機能として想定した関連35機能毎に見れば一定の明な傾向は見られず、CMrに期待される機能にはかなりの幅があること等を明らかにしてい 第5章では、前章の中でCM方式導入上の障害として指摘された人材教育について、既に独立性の高い高等教育を行っているアメリカ、イギリスの10大学の建設マネジメント関連学科のカリキュラム分析を行い、CMrが持つべき知識に関する先進二国の考え方を明確把握している。具体的には、これらの大学における教育内容はマネジメント系、エンジニアリング系、コンピュータ系の3つに大別して捉えることができることを指摘し、また4章でも用いたCMr関連35機能との関係を詳細に分析することで、各大学がCMrとして知識修得の必要性を認めている機能の共通点と相違点を明解に整理している。 最終章では、研究全体の成果を統括し、結論としている。 以上、本論文では、今日欧米で用いられるようになった新たな建設プロジェクトの発注方式について、その成立過程を明らかにした上で、多様な変形の分類法を提示するとともに、それらの日韓両国での導入の得失と必要性、更には導入する上で必要な条件を、広範な実態調査によって明らかにし、多くの新たな知見を示している。この成果は、日韓両国における今後の建設プロジェクト・マネジメントに関わる政策の展開や高等教育の実施に直接的で有効な示唆を与えるものとして評価でき、建築学の発展に寄与するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |