学位論文要旨



No 112542
著者(漢字) フェルナンデス,マイケル
著者(英字) Fernandez Michael
著者(カナ) フェルナンデス,マイケル
標題(和) 逆固有値問題および遺伝的アルゴリズム最適化問題としての搭状型回転シェルの動的形態解析
標題(洋) Form Finding Analysis of Vibrating Towered Shells of Revolution as an Inverse Eigen Problem and as a Genetic Algorithm Optimization Problem
報告番号 112542
報告番号 甲12542
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3820号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 半谷,裕彦
 東京大学 教授 高梨,晃一
 東京大学 教授 神田,順
 東京大学 助教授 大井,謙一
 東京大学 助教授 川口,健一
内容要旨

 コンピュータによる数値処理能力の飛躍的発達は,構造工学の分野においては有限要素法を代表とする構造解析法やCAD(コンピュータ支援設計)等による設計技術を発展させている。

 構造解析は,主に,設計された構造物の形態を基点にそこからの変位や応答など,設計された構造物の性質を把握するために用いられている。しかし,最近,工学や理学等の分野において形態に関する研究が盛んに行われ,形態を生成するための解析法が開拓されつつある。そのなかで,構造物の設計における分野では,設計の効率化や高精度化を図るための最適化法の設計への応用が進出とともに,感度解析法や構造同定法が研究され,その一部は設計に利用されている。

 構造物の形態が指定され,この形態を用いて負荷時の応答や振動数等を解析することを順解析という。一方,構造物の性能を指定し,この性能を満足する構造物の形態を生成することを逆解析という。例えば,バネマス系において質量と剛性を指定し,固有振動数と固有振動モードを求めることを固有値解析という。一方,固有振動数や固有振動モード(の一部)を指定し,質量や剛性を求めることを逆固有値解析という。本論文の第1部では逆固有値問題を扱っている。

 地震動の性質を表すひとつの方法として地震応答スペクトルがある。構造系を固定し,種々の地震動に対応する応答スペクトルを描き,その相異によって地震動の性質を把握するものである。この方法は順問題に属する。地震動の性質を把握する他の方法として構造物の形態を利用する方法が考えられる。応答を指定し,種々の地震動に対応する構造物の形態を描き,その相異によって地震動の性質を調べるものである。この方法は逆問題に属する。

 逆問題の解析は通常高度な非線形挙動を対象とする。そのため,最近では,非線形挙動の解析に有用である遺伝的アルゴリズム(GA)やニューラルネットワークを使用した最適設計法が試みられている。本論文の第2部では,種々の地震動に対して応答変位を最小とする構造形態の生成を遺伝的アルゴリズムを利用して行っている。

 本論文で提案する解析法の有効性を調査するため,塔状型回転シェルを具体的な構造として採用し,数値解析を行っている。

 本論文は序論と結論を含む8章から構成されている。第2章〜第4章は第1部を,第5章〜第7章は第2部を構成している。

 第1章では本論文の研究目的とその達成のために採用した研究方法を述べている。

 第2章は「振動系の形態解析」と題し,支承部運動に伴う構造物の応答を振動系の形態を変化することで制御可能であるかどうかを調査している。応答をゼロ又は最小とするような構造パラメータの解析法を述べ,この解析法を利用して調和波の作用する減衰及び非減衰構造物の数値解析をおこなっている。

 第3章は「固有振動数指定下における塔状型回転シェルの形態解析」と題し,固有振動数を指定する場合の逆固有値解析を述べている。Gantmakher and Krein,Hald,de Boor and Golub,Boley and Golub,Gladwellの解析法を紹介し,塔状型回転シェルへ適用するための改良法を提案している。塔状型円筒シェルを基本とし,1次固有振動数及び2次固有振動数を変化したときの形態を解析している。

 第4章は「固有振動モード指定下における塔状型回転シェルの形態解析」のタイトルで,固有振動モードを指定する場合の逆固有値解析を扱っている。Gladwell,Porter,Hibbert等によって提案されている解析法をレヴューし,Gladwell法を改良した方法を提案している。塔状型円筒シェルを基本とし,種々の固有振動モードを指定した場合の形態を解析している。

 第5章は「遺伝的アルゴリズムによる構造最適化」と題し,構造最適化,応答解析法,遺伝的アルゴリズムを紹介し,本論文で扱う形態解析のための準備を行っている。特に,5.4節では制約条件下における構造最適化問題において,遺伝的アルゴリズムのはたす役割を定式化とともにまとめている。

 第6章は「遺伝的アルゴリズムによる最小応答を目標とする質量と剛性の決定法」を述べている。塔状型回転シェルをバネマス系へ置換する解析法を述べ,2自由度系を具体例として採用し,遺伝的アルゴリズムを利用した最適化法の有用性を調査している。最小化問題では解の唯一性が保障されておらず解が多数存在する場合がある。振動における遺伝的アルゴズムの最適化法では解が得られない場合があることを示す。

 第7章では「遺伝的アルゴリズムによる最小応答を目標とする塔状型回転シェルの形態解析」を述べる。本章では第5章と第6章で提案した方法の応用として,エルセントロ地震波,タフト地震波,八戸地震波,神戸地震波に対し,最小変位を生かす塔状型回転シェルの形態を解析している。各地震波に対応した唯一の形態を示し,その相異を検討している。

 第8章は論文全体を総括し,結論を述べている。

審査要旨

 本論文はForm Finding Analysis of Vibrating Towered Shells of Revolution as an Inverse Eigen Problem and as a Genetic Algorithm Optimization Problem(逆固有値問題および遺伝的アルゴリズム最適化問題としての塔状型回転シェルの動的問題における形態解析)と題し,構造物の形態解析法を提案したもので,序論(1章),第I部(2章〜4章),第II部(5章〜7章),結論(8章)から構成されている。

 構造物の形態を指定し,この形態を用いて負荷時の応答や振動数等を解析することを順解析という。一方,構造物の性能を指定し,この性能を満足する構造物の形態を生成することを逆解析という。例えば,バネマス系において質量と剛性を指定し,固有振動数と固有振動モードを求めることを固有値解析という。一方,固有振動数や固有振動モードを指定し,質量と剛性を求めることを逆固有値解析という。第I部では逆固有値問題を扱っている。

 地震動を表すひとつの方法として地震応答スペクトルがある。構造系を指定し,種々の地震動に対応する応答スペクトルを描き,その相異によって地震動の性質を把握するものであり,この方法は順問題に属する。本論文の第II部では,地震動の性質を把握する他の方法として,構造物の形態を利用する方法を提案している。

 第1章では本論文の研究目的と研究方法を述べている。

 第2章は「Theoretical Form Finding Analysis of Vibrating Systems」と題し,応答をゼロ,又は,最小とするパラメータの解析法を述べ,この解析法を利用して調和波の作用する構造物の数値解析をおこなっている。

 第3章は「Form Finding Analysis of Towered Shells of Revolution with Prescribed Vibration Natural Frequencies」と題し,固有振動数を指定する場合の逆固有値解析を述べている。塔状型回転シェルを具体的な構造として採用し,固有振動数を指定したときの形態を解析している。

 第4章は「Form Finding Analysis of Towered Shells of Revolution with Prescribed Vibration Mode Shape」と題し,固有振動モードを指定する場合の逆固有値解析を扱っている。塔状型円筒シェルを基本とし,種々の固有振動モードを指定した場合の形態を解析している。

 第5章は「Introduction to Structural Optimization by Genetic Algorithms」と題し,構造最適化法,応答解析法,遺伝的アルゴリズムのレヴューをおこなっている。逆問題の解析は高度な非線形挙動を対象とする。そこで,非線形挙動の解析に有用である遺伝的アルゴリズム(GA)を利用する根拠とその役割を述べている。

 第6章は「Determination of Lumped Mass and Spring Parameters Distribution by Genetic Algorithms for Minimum Structural Response」と題し,遺伝的アルゴリズムを利用した最適化法を確立するとともに,バネマス系を用いてこの方法の長所と短所を調べている。

 第7章は「Form Finding Analysis of Towered Shells of Revolution by Genetic Algorithms for Minimum Structural Response」と題し,前章で提案した方法を用いて応答変位を最小とする塔状型回転シェルの形態解析をおこなっている。エルセントロ地震波,タフト地震波,八戸地震波,神戸地震波に対して,興味ある形態の回転シェルが得られている。

 第8章は論文全体の結論を述べている。

 以上のように,本論文では,動的問題において,高度な非線形性を持つ逆解析に対して新しい研究法を提案するとともに,有用な数値解析例を提供している。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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