学位論文要旨



No 112544
著者(漢字) 出原,至道
著者(英字)
著者(カナ) イデハラ,ノリミチ
標題(和) リモートセンシングによる都市域の土地被覆解析
標題(洋)
報告番号 112544
報告番号 甲12544
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3822号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小出,治
 東京大学 教授 大西,隆
 東京大学 教授 花木,啓祐
 東京大学 助教授 城所,哲夫
 東京大学 講師 貞廣,幸雄
内容要旨

 都市域の土地被覆情報は、その地域の都市構造を反映していると考えられる。広域の土地被覆を統計的に観察することで、特徴のある地域を半自動的に抽出することが可能となる。さらに、継続して土地被覆の変化を追うことにより、その地域の持つ方向性、問題点を探ることができる。

 しかし、地図上で土地利用から土地被覆を推定する手法では、たとえば戸建住宅地における庭の状態のような小規模で地図上に明記されない情報を得ることはできない。このような情報も含めて、精密な土地被覆情報を得るためには、航空写真と地図情報の突き合わせによる推定作業が必要であるが、その作業に必要な労力は膨大なものとなる。このため、現在、詳細な土地被覆情報が継続的かつ広範囲に得られる地域は限定されている。

 そこで、本論文ではリモートセンシングによる土地被覆解析手法の検討と緑被率の算出への応用を行った。

 都市域では、土地被覆推定は混合ピクセルを前提としなければならない。混合されているピクセルを一つのカテゴリーをして捉えるならば、最尤法に代表される分類手法は有効である。しかし、たとえば庭や街路樹のような小規模な構造を分析の対象としようとするときには、カテゴリー解析の手法を用いるべきである。

 リモートセンシングによって得られた1画素内に混在している表面要素の割合を算出するために、カテゴリー解析の手法が用いられる。この手法では、ピュアスペクトルパターンをあらかじめ与えなければならない。

 しかし、観測されるスペクトルパターンは、同一の画素に対しても季節、大気状況等によって変動するため、これをアプリオリに与えることは困難である。この問題は、観測されたデータ集合からピュアピクセルと考えられる画素を自動的に抽出することで解決することができる。

 本論文では、まず、与えられたデータの集合の凸包が代表点の資格を持つことを示した。実際に抽出された代表点は、総体として、対応する特徴的な土地被覆のデータ点を抽出しており、その集合の代表点として有効である。

 しかし、厳密な凸包を作成することによる代表点の抽出は、実用が困難である。許容される誤差を考慮すれば、簡略化された演算によって、ほとんどの点が包まれるような立体の端点を少数与える手法が必要である。

 本論文では、与えられたデータ集合に対して、完全な凸包のよい近似を与える端点の導出法が示された。この端点の集合は、与えられたデータ集合に対して一意に決定される。また、この過程で、データ集合の持つ主成分軸が経時変化に対して普遍的な性質を抽出していること、6次元の特徴空間が5次元の主成分軸で記述されることが示された。

 近似された凸包により、カテゴリー解析を行うことが可能である。緑被率についてグランドトゥルースデータと比較することにより、この手法がピクセル内の緑被率について、よい推定値を与えることが示された。

 以上の結果から、衛星リモートセンシングを用いることによって、現在行われている土地被覆調査と異なる特徴をもつ、定期的な土地被覆変動監視システムの可能性が示された。

審査要旨

 本論文は、「リモートセンシングによる都市域の土地被覆推定手法」と題し、リモートセンシングデータからピュアピクセルを抽出するという新しい手法を開発し、具体的に東京の多摩地域に適応し、緑被率を算出することにより、既存手法との比較により、その優位性を証明したものである。本論文は5章から構成されている。序章では、研究動機として、既存のリモートセンシングデータによる解析は地球規模の分析が主であり、その分解能の限界からも、都市の地域を対象とした精度の高い分析はなく、他方都市の緑被率など都市の熱環境を分析する要請が高まっており、これに対応する解析手法の開発が急務であることをあげている。また、既存研究のレヴューをはじめ、リモートセンシングデータの特性や使用データの属性についての説明をしている。

 第1章では、既存手法における問題点として、(1)表示の限界性と(2)代表点の選択の恣意性を挙げ、この解決法として代表点の自動抽出の必要性を述べている。また、実際の地表面のデータはピクセル単位で考えるならば、土地被覆の分類上の単一カテゴリーでは説明できない中間に分布する混合ピクセルとなっており、従来の土地被覆解析手法は都市域での分析には有効ではないことを示した。この解決手法として、データのなかからピュアーなピクセルを取り出しデーターのすべてのピクセルがこの得られたピュアピクセルによる線形結合として説明でき、その自動抽出手法の提案を行っている。ピュアピクセルの満たすべき条件として、与えられたデータ集合をバンド数次元の空間内の点の集合として捉えた時に、そのデータ集合の凸包の端点の性質を持つことに着目し、端点抽出アルゴリズムの開発を行っている。

 第2章では、前章で提案した厳密な凸包を作成することによる代表点の抽出は、実用の上では、演算量が膨大になること、抽出された点の代表性に問題が残ること、カテゴリー解析に困難が伴うなどの問題点が発見され、より実用的な手法の提案を行っている。そのため、与えられたデータに主成分分析を行い、求められた主成分軸上で端点を求める方法を試み、その結果の検証を行っている。その結果、この手法によって一意に決定される擬似凸包は、都市域のランドサットデータ空間について、少数のデータ点によって、真の凸包のよい近似が可能となった。実際のデータ空間は季節変動の影響を受けにくい5軸で特徴づけられ、そのうち2軸により緑地とそれ以外の代表点が、5軸により、緑地、草地、裸地、市街地の代表点が抽出されることが分かった。3章では、2章で提案した手法が従来のカテゴリー分類型の解析手法に比べ、より細かい土地被覆の変化を抽出可能なことを論証している。更に、継続的な土地被覆変動の追跡や小規模な土地被覆の評価が可能となることが明らかにされている。このことを具体的に東京都の多摩地区のランドサットデータを利用し、具体的に代表点を抽出するとともに、代表点の実際の被覆を現場踏査による結果と照らしあわせ、その有効性を検証している。4章は以上のまとめと、この手法の応用としての将来的な展望をまとめている。

 以上が本論文の構成とその概要である。本論文はランドサットデータをより細かい精度で解析を必要とする都市域での土地被覆の分析に耐えうる手法の開発を代表点の自動抽出という点に着目し開発した結果、厳密な凸包を作成することによる代表点の抽出は実用上困難であることから、主成分分析による軸から構成される擬似凸包の代表点の自動抽出という手法を開発し、具体的なデータを使用し、その有効性を実証したものである。この結果、従来の方法の限界であった、都市域という小規模な範囲でのより詳細な分析が可能となった。このことは、都市における緑地の量と熱環境との関係の分析をはじめ、以前のような緑被率といった割合だけでなく、その分布や配置といった詳細な分析、具体的な都市での環境改善施策の提案などが可能となった。本論文はその手法開発の点では優れて独創的であり、この分野の応用性には有用である。また、具体的な都市政策への応用においては社会的要請は強く、これに十分応えうる手法を開発したものと思われる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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