内容要旨 | | ROTV(Reentry Orbital Transfer Vehicle)などの再突入体が地球軌道から離脱して再突入する過程中では,空力加熱が非常に厳しく,周りの流れの状態も著しく変わっている。その空力加熱などの推定は再突入物体の構造設計及び防熱設計にとって極めて重要である。そのような物性量を得るために,実験或いは飛行試験によろうとすると,コストが非常に高くなるので,数値解析によらざるを得ない。 従来より,連続流に対してナビア・ストークス(Navier-Stoke)方程式を適用するNS解析法と,希薄流にボルツマン(Boltzmann)方程式を確率方法を用いて評価するDSMC(Direct Simulation Monte-Carlo)解析法がよく用いられる。最近の研究結果[1]によると,連続流と希薄流の間にある遷移流に対して,NS法解析の結果がDSMC法解析の結果とよく一致することが分かる。ただし,高層空間(90kmぐらいの高度)で,流れの状態は,一様流が遷移流であるが,周りの流れでは場所によって異なっている。一様流が極超音速流であるため,衝撃波が物体の前に形成され,衝撃波の後ろの流れは,強く圧縮されるため連続流になる。また,物体の最大直径のところに急膨張が発生することによって,ウェイクの領域で希薄流になる区域も存在する。このような流れ場に対して,単なるNS解析法或いはDSMC解析法を用いると,計算の精度と効率の面には不利の点があると指摘されている。この難点を解決し遷移流の問題を解析するため,ハイブリッド(Hybrid)解析法はMoss[2]により提案された。 Mossの提案によれば,ハイブリッド法は,流れ場を連続流領域と希薄流領域の二つの領域に分けて,それぞれNS解析法とDSMC解析法を用いて数値解析し,最後に全領域の結果をもたらすという方法である。具体に言うと,最大直径の所に分割境界を置くことによって,流れ場を二つの部分に分ける。分割境界より上流側の領域には,衝撃波があり,物体正面の流れが連続流になるので,NS解析法が用いられる。下流側の領域には,急膨脹で流れが希薄流になるため,DSMC解析法が用いられる。手順としては,まずNS法解析の結果を得る。次に,NS法解析の結果を下流側の流入条件として,下流側の領域に対してDSMC法解析を行う。このように,流れ場の全体の結果を得ることができる。説明の便宜のため,Mossのハイブリッド法をHibrid-1法と称する。 ハイブリッド法が有効かつ効率的な方法であることはすでに証明されている[2]。しかし,新しい方法のため,分割境界の境界条件がどのように与えられるか,すなわち境界の両側の結果がどのように互いに影響するかという問題は依然として存在する。擾乱の伝播理論[3]によると,分離境界上の亜音速領域に対して,下流側(DSMC法解析の領域)からの影響を無視すると,正しい結果を得られないことが分かる。Hybrid-1法解析では,単純に流れ場を分けそれぞれNS法とDSMC法を用いて解析するので,分離境界による影響を評価する機能が入っていない。このような実状に鑑み,その影響を評価できるハイブリッド法の研究と開発が本論文の目的になると考える。本論文においては,次のような研究により,その目的が達成できた。本論文のハイブリッド法をHybrid-2法と称すると,Hybrid-1法と異なる点は以下の通りになる。 (1)NS法解析の格子の形成とDSMC法解析のセル分割を工夫し,図-1のようなオーバーラップ(Overlap)を構築し,分離境界で両解析法のインターアクション(interaction)の場所を作り上げる。 (2)NS法解析の領域の下流端境界条件として,次のように与えられる。 超音速流のところ:すべての物理量は外挿によって決まる; 亜音速流のところ:密度と速度は外挿によって決まるが,圧力は分離境界より下流側のDSMC法解析の結果から決まる。 (3)図-2のような計算フローに従って,NS法解析とDSMC法解析を循環させて,インターアクションを評価しながら,流れ場の定常解を求める。 予備計算の結果に対する考察によって,Hybrid-2法解析の結果が単なるDSMC法解析の結果と良く一致することが分かり(図-3と図-4),つまり,Hybrid-2法の有効性が確認された。また,Hybrid-1法解析の結果との差(図-5)が見られることは,分割境界による影響を評価できるHybrid-2法解析の効果であると考えられる。 本論文は,7章から構成されており,第1章は問題の背景と研究の現況を述べながら本研究の目的を明らかにする導入部である。 第2章には,ボルツマン方程式とDSMC解析法などをまとめている。流れ場の設定を簡単にするため,実在気体効果を省略し,剛体球の単原子分子モデルを計算に用いている。また,分割しやすい構造セル系に対応できる新しく開発した仮想参照点法のアルゴリズムも説明している。 第3章には,本研究のNS法解析に用いられる連続流のナビア・ストークス方程式や差分解析法のNND(Not-containing free parameters,Non-oscillatory Dissipative)スキーム及び壁の条件について説明をまとめている。 第4章には,分割境界でオーバーラップの構築方法や計算の境界条件や計算フローなどを工夫し,分割境界の両側の計算結果が互いにインターアクションできるHybrid-2法解析を述べている。 第5章には,Hybrid-2法及び計算コードを検証するため,予備計算を行い,幾つかの問題について計算結果を考察している。計算対象とされる流れ場では,VLC(Viking Launder Capsule)の周りの流れを取り込み,風洞実験のパラメータを一様流条件として用いている。実際の分子モデルと違うため,近似的な比較を行う。 第6章には,応用の例としてOREXの飛行軌道による96.77kmと101.1kmの高度での一様流条件を取り込み,Hybrid-2法を用いてOREXの周りの流れを数値解析する。解析の結果により,物体表面のパラメータと流れ場のパターンを得ることができた。 第7章では,本研究をまとめ,Hybrid-2法が領域の分割による解析の結果への影響を評価できるという結論を導出しながら,今後の展望を示唆している。 参考文献1. J.N.Moss,R.A.Mitcheltree,and R.G.Wilmoth, Hypersonic Blunt Body Wake Computations Using DSMC and Navier-Stokes Solvers,AIAA 93-2807,1993.2. J.N.Moss,etal,Zonally-Decoupled DSMC Solutions of Hypersonic Blunt Body Wake Flows,AIAA 93-2808,1993.3. 河村龍馬,高速空気力学,日刊工業新聞社,1958,2.図-1 Hybrid-2法のオーバーラップ図-2 Hybrid-2法の計算フロー図-3 VLC物体表面の熱伝達係数(Kn∞=0.011)図-4 VLC周りの密度等高線分布(Kn∞=0.011)図-5 Hybrid-2法とHybrid-1法による密度の差の等高線(Kn∞=0.011)図-6 Hybrid-2法によるOREX物体表面の熱伝達係数 |