No | 112566 | |
著者(漢字) | 大橋,俊介 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オオハシ,シュンスケ | |
標題(和) | 超電導磁気浮上車両の走行運動に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 112566 | |
報告番号 | 甲12566 | |
学位授与日 | 1997.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第3844号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電気工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 現在都市間交通機関は主に航空機、軌道交通機関、自動車が用いられている。日本ではその定時性、輸送性から鉄道が主流である。そして都市間をより高速で結ぶことが求められており、速度の向上が図られている。高速鉄道の中で代表的なものが新幹線である。現在最高時速270km/h付近で営業運転を行っているが、従来の鉄車輪型の鉄道の高速化には、粘着の限界や接触集電、騒音などの問題から限界がある。そこでこれらの問題点を解決する新しい方式の都市間超高速軌道交通機関として、磁気浮上技術を用いて非接触で車両を支持し、リニアモータを用いたダイレクトドライブにより超高速で走行するシステムがJRグループにより開発中である。走行速度は500km/h以上を目指しており、東京-大阪間500kmを約1時間で結ぶことを目標としている。本システムの特徴は以下のとおりである。 ・推進系に超電導リニア同期モータを用いており、ダイレクトドライブにより500km/h以上での超高速走行が可能である。 ・浮上案内系に側壁式電磁誘導方式を用いており、ギャップ制御なしで走行が可能である。また浮上マグネットに超電導マグネットを用いることで、大きなギャップをとることが可能であり、地上設備に高い建設精度を必要としない。 本方式はこのような利点を持つが、解決すべき問題も依然として残されている。既設の宮崎県での実験線では全長7kmの直線走行のみであり、この浮上系の走行特性を解明するのに十分な結果が得られていない。そこでこの磁気浮上台車の走行特性を明らかにするため、様々な研究が行われている。この系は非線形系であるため、理論的な解析解を得ることができず、数値解析による検討が行われている。そして、浮上コイルと超電導コイルのみの系を考えた場合には浮上走行可能領域においてダンピングが小さく、負になることが示されている。このためカーブ走行時の安定性や、超電導コイルへの振動、乗り心地への影響が危惧されており、安定性を向上させるために、十分なダンピングを得る方法が求められている。またこのシステムでは推進系と浮上系の相互作用が大きい。従来の研究ではこの両者を総合的に解析するものは少なく、推進系、浮上系間の相互作用を解析する手法が必要とされている。そして車両が横風などの外乱を受けた場合やカーブ突入時の挙動、複数の台車や車両が存在する場合の台車間や車両間の干渉問題、さらに超電導マグネットがクエンチした場合の車両、台車位置の安定化についての検討が求められている。 本論文の目的は車両の走行特性を求め、その結果から問題点を明らかにし、車両の走行安定性を向上することにある。本論文の内容を以下に示す。 従来の解析は浮上系、推進系に限定したものが多く、これらを統合して総合的に解析し、浮上系と推進系の相互作用を検討したものは少ない。また、システムの定常特性のみに着目したものが多く、カーブ走行や超電導マグネットのクエンチなど3次元の運動を伴う走行シミュレーションは行われていない。本論文ではシステムのモデル化を行ない、電磁現象と機械運動を連成させた3次元6自由度運動解析プログラムを作成した。さらに車両の2次系といった機械系を組み込み、多剛体システムである列車モデルへの適用を行なった。 浮上案内系について、各移動および回転方向に対する電磁力・トルクの基本特性を明らかにした。また、支持系を等価モデルで表現し、システムの設計法の簡便化を行なった。さらに、台車モデル(質量集中モデル)、それを発展させた列車モデルについて、3次元解析を行い、外乱を受けた場合やカーブ突入などの走行特性を求め、その安定性を検討した。また従来の研究では明らかにされていない浮上系と推進系の相互作用や列車における車両間の影響を求めた。 このシステムのダンピングが小さいことが理論的に示されている。そこで台車および車両の走行特性から、必要なダンピングの特性を求めた。そして、ダンピングを増やして超電導マグネットの安定性や乗り心地を改善するために、短絡コイルを配置するパッシブダンパコイルを提案し、その効果を検討した。また、より大きく過渡的な運動に対応するために能動的にギャップを制御するアクティブダンパコイルシステムの導入を検討し、台車上の浮上コイルに向かい合う位置にヌルフラックス結線したアクティブダンパコイルを設置するような方法で、比較的小さな起磁力で十分なダンピング力を得ることができることを示した。 このシステムにおいて最も深刻な外乱である超電導コイルがクエンチした場合の走行特性を求め、さらにクエンチ後の列車の安定方法について検討した。まず台車モデルを用いてコイルクエンチ時について解析し、台車運動、他のSCコイルに与える影響について検討した。その結果、台車の進行方向に対して先頭のSCコイルがクエンチする場合が最も影響が大きいことが示され、クエンチコイルに隣接するコイルへ通常の数倍の浮上案内力が加わることが分かった。さらに複数台車が存在する列車モデルについて解析を行ない、クエンチが列車全体に与える影響を求めた。また、クエンチ時に列車運動を安定させる方法として、正常SCコイルをクエンチさせることにより列車位置を安定させる緊急消磁について検討した。この結果、クエンチしたコイルと進行方向に対して反対側のコイルを消磁することで台車の横方向変位、ヨーイングおよびローリング角を抑えることができた。ここで2つのSCコイルがクエンチすることで推進力が低下し、列車の進行方向のバランスが崩れる。そこで、クエンチ時に推進系を停止することによる進行方向位置の安定化についても検討し、その効果を確認した。 以上超電導磁気浮上鉄道システムについてその基本特性、カーブ走行やクエンチ時などの異常時の解析を行ない、推進系と浮上系の相互作用や走行安定性について検討した。また、浮上系のダンピングを増加させ、走行運動を安定させる方法を示した。これらの結果から実用システムの設計および改善に重要な点を明らかにすることができた。 | |
審査要旨 | 本論文は「超電導磁気浮上車両の走行運動に関する研究」と題し、実用化開発の進んでいる超電導磁気浮上式鉄道について、その車両走行運動特性、特にそのダンピング特性を明らかにし、改善を図ることを目的として、電磁-機械的なモデル化に基づいた解析手法と等価支持モデルを導いた上で、いろいろな軌道条件の下での車両の各種の走行運動について解析し、その特性と振動のダンピングについて検討を加え、その改善の方法を提案するとともにその効果を示した結果をまとめたものであって、7章で構成される。 第1章は「序論」であって、磁気浮上式鉄道の各種の方式の開発の状況やここで研究の対象とする超電導磁気浮上式鉄道の実用化のための問題点を示して、本研究の背景や目的について詳しく述べるとともに、本研究の主要な内容を概観し、本研究の位置付けを示している。 第2章は「超電導磁気浮上システムのモデル化および解析手法」であって、超電導磁気浮上式鉄道システムの走行特性に影響を与えるサブシステムである、推進系(LSM)、浮上案内系(EDS)、地上ガイドウェイ、列車(台車・客室)の詳細を説明し、その電磁気学的および動力学的な構成を示した上で、以下の各章での解析のために用いた超電導磁気浮上システムの各要素のモデル化と、LSMによる推進力およびEDSによる浮上案内力の解析法、さらに電磁現象と機械運動の方程式を連成させた運動解析の手法について述べている。 第3章では「側壁式電磁誘導浮上システムの等価支持モデル」と題し、側壁浮上式電磁誘導方式の浮上特性を等価的な機械的な支持系としてあらわす方法について検討している。まず、電磁現象の解析より浮上力左右案内力の速度・位置依存性を検討し、定常状態での上下・左右両方向の電磁バネ係数の近似式を求めている。次に、台車の上下振動シミュレーションを行い、このシステムの持つ負のダンピング要素を考慮した、速度依存性を持つダンピング係数を導入し、それを組込んだ走行シミュレーションにも適用できる等価支持モデルの近似表現を導いている。この近似式を用いることで、従来の機械バネ近似よりも正確な浮上力を得ることが可能であり、車両や列車走行運動などの解析が容易になる。現段階では上下振動に限られるが、市販の車両運動特性の演算パッケージにも支持モデルとして取り入れることが可能な形にまとめている。 第4章は「超電導磁気浮上車両の走行特性解析」であって、まず、地上の推進コイルと浮上コイルの具体的な配置や台車の構造を考慮した詳細の超電導リニア同期モータと側壁浮上式電磁誘導の推進力特性、浮上案内力特性などの基本特性を求め、双方の台車上下位置変位に対する非線形性を示している。次に台車モデルを用いて第3章で求めた特性に加えて各回転運動に対する基本振動特性や走行速度に対する依存性を求め、外力の影響、ガイドウェイの変位、カーブ区間の走行にも適用できる解析手法を確立した。この手法により各種の条件下における台車の走行特性を求めるとともに、複数車両が存在する列車モデルについて同様の走行シミュレーションを行ない、客室と台車の相互作用が列車運動に与える影響について検討している。 第5章は「浮上力のダンピング特性」と題して、この浮上システムがかかえる課題の一つである、振動のダンピングについて、超電導コイルの磁気シールド板に誘導されるうず電流を考慮した解析を行うとともに、ダンピングを増加させるために短絡コイルを台車の超電導コイルの前に設置するパッシブダンパシステムのコイル形状、設置位置およびその効果を分析している。浮上走行全速度領域で正のダンピングが得られたものの、大きなダンピングの改善は得られないことを示している。より大きなダンピングを得るために、超電導コイルの前面にコイルを設置し、外部から電流を流して能動的に制御するアクティブダンパシステムを提案し、その設置位置、形状、効果を検討し、比較的小さな起磁力で十分なダンピング力を得ることができる方法を示している。 第6章は「超電導コイルクエンチの影響解析」であって、実用化のためにダンピングと並んで深刻な超電導コイルのクエンチの走行特性への影響の解析を行なうとともに、クエンチ後の列車運動の安定化の方法についても検討している。第4章で示したように、この浮上方式の電磁バネは2次系機械バネに比べてバネ係数が大きいので、台車がクエンチしても影響はその台車が直接接続されている客室のみに伝わり、隣接する台車の左右および回転運動にはほとんど影響しないことなどを示している。クエンチ時に列車運動を安定させる方法として、クエンチしたコイルと進行方向に対して反対側の正常なコイルを緊急消磁することで台車の横方向変位、ヨーイングおよびローリング角を抑えることができるのを示すとともに、上下変位やピッチング角が増加し、各コイルにかかる異常電磁力の改善は見られないなどその限界を明らかにしている。 第7章は「結論」であって、本研究の成果を要約し、関連する諸問題とその解決の方法などについて展望している。 以上、これを要するに、本論文は超電導磁気浮上式鉄道の車両運動について新しい電磁機械的なモデル化の手法を提案し、それによる車両走行の基本特性、推進系と浮上系の相互作用、浮上系のダンピングとその改善方法、カーブ走行やクエンチ時の列車挙動などの解析の結果を示し、超電導磁気浮上システムの実用化や実用システムの設計に重要な知見を与えているものであって電気工学上貢献するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/1816 |