学位論文要旨



No 112567
著者(漢字) 國井,康晴
著者(英字)
著者(カナ) クニイ,ヤスハル
標題(和) Haptic Inferface及び仮想現実感を用いた作業教示に関する研究
標題(洋)
報告番号 112567
報告番号 甲12567
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3845号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 橋本,秀紀
 東京大学 教授 曾根,悟
 東京大学 教授 原島,文雄
 東京大学 教授 中谷,一郎
 東京大学 教授 池内,克史
 東京大学 助教授 堀,洋一
内容要旨 1はじめに

 本研究では、人間中心の機械システムの実現のため、「人間自身の理解」と「人間と機械の理解する共通概念の構築」を目指し、高速広域ネットワークを利用した人間機械協調系:Robotic Network Systemの構築を目標に研究を進めている(図1)。

 現代人は様々機械に囲まれ、その関係は、機械が人間に負担を強いるものとなっている。現在、これを打破する人間と機械の新しい協調関係を見いだいすことが望まれており、人間を中心に据えた工学の必要性が強く意識されている。また、近年のコンピュータの進歩はその実現の可能性を高いものとしている。現時点では、ロボットの存在する環境は非常に限定しており、人間とロボットの存在する環境は、区別されている。しかし、21世紀は労働不足、医療福祉などの問題の解決のためRNSの様なシステムの導入が検討される。これにより、ロボットの社会進出が進み、人間とロボットが同一の環境で共存する社会が形成されるものと考え、人間と機械の共存、協調が重要な研究テーマとなっている。

図1:Robotic Network System

 本論文では、初期段階として人間自身の理解のため「人間の作業理解と作業の実現」に注目し、人間の作業例に基づく作業の学習を実現に向け、

 ・人間の作業計測のための多自由度Exo-skeleton型Haptic Interface

 ・人間の作業計測のための仮想環境シミュレータ

 ・人間の作業データを用いたロボットハンドによる作業の実現法に関する考察および提案

 に関して主に研究を行なう。人間の作業データをHaptic Interfaceと仮想環境シミュレータにより獲得する。これらにより作業は人間、コンピュータともに理解しやすいものになり、人間と機械に対する共通概念の構築が一歩前進する。

 本研究成果により、将来的にはHuman Interfaceの最適化が見込まれ、簡単な装置による入力により複雑なロボットシステムの制御が可能となり、複雑なHuman Interfaceは学習時のみの利用になる可能性がある。これにより、ロボットの社会進出が一層進むことになり、生活環境の改善がさらに進むことが期待できる。また、現在、社会が抱える労働不足、介護に代表される福祉やテレサージェリなどの医療に対して大きな影響を与えるものである。今後、ロボットが第2の自動車産業に発展する発展する可能性を生むものとなる。

2Haptic Interface2.1HandShake Device-HSD

 試作した1自由度マスタスレーブシステム:HandShake Device(HSD)は、コンピュータネットワークを用いたテレオペレーション実験を主な目的としたシステムである(図2)。コンピュータネットワークを用いた遠隔制御は、現在、Computer Networked Robotics分野として研究が始められている分野である。本研究では、制御アルゴリズムとして時間遅れの補償を考慮したVIPEC法を用いて、実際にEther Net、B-ISDNを用いて「東京-大阪間」、「東京-L.A.間」において遠隔作業実験(遠隔握手)を行ない、VIPEC法の効果を確認した。また、Etherなどの通信網で生じる時間遅れの揺らぎに対しても安定に動作することが確認できた。

図2:Photograph of HandShake Device
2.2Sensor Glove II-SG-II

 本章では、より複雑な人間装着型Haptic Interfaceの試作を次世代の多自由度マスタ装置の開発(人間の動作計測および解析のための入力装置)を目的として行なった。開発されたグローブ型のHaptic Interface:Sensor Glove Iの問題点の考察から20自由度Sensor Glove IIの設計を行なった(図3)。実際に、人間が装着して動作実験を行ない、動作を確認、その性能を評価した。また、実際に指の先端に仮想のバネを配置した実験や仮想の壁への接触実験結果を示し、良好な結果を得た。

図3:Sensor Glove II図4:Virtual Environment in DFS
3仮想現実感シミュレータ

 人間が作業可能な仮想環境の生成のためシミュレータの研究を進めている。本研究で提案するDynamic Force Simulator(DFS)は、力の流れをモデル化することにより仮想環境を生成する。ここでは、力の流れを基に仮想世界を構築する手法を提案する。

 自由運動をしている人間と物体が、お互いに力を加えることで相手の運動を拘束しあっていると考え、力の伝達を人間⇒物体、物体⇒人間の2つに分ける。ここで、物体から人間への力の流れによる拘束力によって人間は物体を感じることができる。

 人間⇒物体の力の流れを見ていく。これは指(接触点)に生じた力が物体表面に伝わって行く流れである。物体表面上に加えられた力が物体に伝わるかどうかは、接触条件(状況)および摩擦条件によって規定される。現在、接触条件を表現するための手法としてコンタクトモデルがロボットマニピュレータの分野において提案されている。これら2つの条件を考慮した後、力は物体に伝わり物体が運動する。条件に当てはまらない力は、人間の拘束されない運動となる。

 人間⇒接触条件⇒摩擦条件⇒物体

 次に、物体⇒人間の力は、摩擦条件のみが考慮され人間に伝達される。接触条件に関しては人間⇒物体の時と同じものが定義されるため特に明記しないものとする。

 物体⇒(接触条件⇒)摩擦条件⇒人間

 以上2つの流れをバランスさせることで、SGの位置目標計算を行なう仮想世界モデルの構成を図5に示す。

 図5の仮想世界モデルを計算機中に実現し、SG2を用いることにより、操作者は力フィードバックを受けながら仮想環境下での作業が可能になる。またこの時の人間の関節角度、トルク、操作物体のパラメータなどの作業データは、マニュピレータやロボットハンドなどの作業教示、プログラミングに用いられる。図4にDFSの仮想環境を示す。また、図6にDFSおよびSGによる作業を示す。

4人間の作業例データに基づく多指ハンドによる作業の実現

 ネットワークを介したロボットシステムにおいて作業教示・プログラミングは、重要な課題である。本研究では、提案・試作したHaptic Interfaceおよび仮想現実感シミュレータによる作業データの使用を前提とした多指ハンドの教示法に関して考察を行なっている。仮想現実感シミュレータによる仮想環境は、

 機械と人間が共通の概念で直接理解できる空間

 であるという考えに基づき仮想現実感シミュレータ内の人間の作業データを用いる。仮想環境シミュレータを用いた教示法を採用する利点は、

 1.何度でも同じ条件(環境)で作業が可能

 2.任意の条件(環境)を作り出せる

 3.センサを用いず環境情報が容易に取得可能

 4.物体との接触点、物体に伝わった力、物体内部で打ち消された力などの全てを把握可能

 5.力覚フィードバックにより人間の指の各関節トルクの計測可能

 などが挙げられる。

 本研究では、人間を含む動物の作業の実現法に関してボトムアップ的に考察を行なっている。従って、研究の初期段階として上位レベルの機能を人間の作業データの使用を前提としブラックボックス化し、人間の作業データからの作業の実現を目指した。ここでは、動物の作業学習を観察することによりロボットにおける下位レベル運動機能の欠如を仮定し、作業実現のため人間のデータと把持力補正の反射運動機能の使用を提案し、人間の作業データに基づく多指ハンドによる作業実現のための作業構造を提案した。また、把持・操り作業における下位レベル運動機能として「把持力調整の反射運動」と定義した。把持力調整の反射運動は、把持力空間の学習により獲得されると考え、本章ではNeural NetworkとRadial Basis Functionにより簡単な獲得をシミュレーションによって行ない、評価を行なった。この結果より、Radial Basis Functionの方が、学習に際し、収束性、学習速度の面で優れていることが示された。しかし、ここで述べた反射運動は、多次元非線形空間の学習によって実現されるため、他の学習アルゴリズムの検討が必要であることが確認された。

図5:Relation between Human and Object図6:Object Grasping in V.irtual World on DFS
5まとめ

 本論文は、人間の動作計測のために仮想現実感システム構築にあたり

 ・動的力フィードバックのための力の流れモデル化法の提案

 ・多自由度Exo-Skeleton型Haptic Interface

 に関して提案し、実際に動作するシステムを構築し、実験を行ない、システムデザイン、制御などに関する知見およびその可能性を示したものである。人間装着型Haptic Interfaceの実現の困難さから非常に遅れた分野の一つである。また、それらシステムを用いた計測データからの多指ハンドによる作業の実現法を考察した。

 本研究成果は、Tele-Robot、Virtual Reality、リハビリテーション、CAD、製品評価など様々な分野に対して大きく貢献するものである。一方、人間の作業例からの作業学習は、近年特に注目され始めたテーマであり、現在も有効な手段は提案されていない。本論文では、VRによる人間の作業データの取得と作業の実現法を提案しており、新しい可能性を生むものである。提案されている教示システムによって、将来的にはHuman Interfaceの最適化が見込まれ、簡単な装置による入力により複雑なロボットシステムの制御が可能となる。これにより、ロボットの社会進出が一層進み、生活環境の改善がさらに進むことが期待できる。また、現在、社会が抱える労働不足、介護に代表される福祉やテレサージェリ、義手などの医療に対して大きな貢献を与えるものである。

審査要旨

 本論文は、「Haptic Interface及び仮想現実感を用いた作業教示に関する研究」と題し、人間中心の機械システムの実現に向け人間の作業例に基づく作業実現法を提案し、仮想現実感シミュレータの構築、Haptic Interfaceの試作を行い、作業データ獲得実験を行った結果を示したものである。

 第1章(はじめに)では、研究の背景と目的に関して簡単に述べている。人間と機械の共存、協調のため、「人間自身の理解」と「人間と機械の理解する共通概念の構築」の重要性を上げ、その第一歩として「人間の作業例からの作業実現」を位置づけている。また、本論文の構成に関して述べている。

 第2章(人間機械協調系-Robotic Network Systemとその要素技術)では、人間機械協調系:Robotic Network System(RNS)に関してシステムの提案を行なっている。現在の機械が人間に負担を強いるといった機械と人間の関係に対し、これを打破する人間と機械の新しい協調関係、人間を中心に据えた工学の必要性を述べている。現状では、ロボットの存在する環境は非常に限定しており、人間とロボットの存在する環境は、区別されている。しかし、著者は、21世紀は労働不足、医療福祉などの問題の解決のためロボットの社会進出を想定し、人間とロボットが同一の環境で共存する社会が形成の必要性、人間と機械の共存、協調を重要な研究テーマと位置づけている。共存、協調のための重要な因子である「人間自身の理解」に関する初期研究としてVirtual Reality技術を用いた作業教示システムの構築を上げ、人間と機械の双方の理解のためVirtual RealityおよびHaptic Interfaceの有用性を述べている。ここには、仮想空間が機械が人間を自在に理解できる空間であると言った著者の主張が込められいる。また、本章では現在までの力覚帰還型入力装置Haptic Interfaceおよびロボットの教示・プログラミングに関する研究について紹介している。

 第3章(Haptic Interface)では、「コンピュータネットワークを用いたテレオペレーション実験」、「人間の作業計測および解析のための入力装置、及び、将来的な自由度マスタ装置の開発」、以上2つの目的のためHandShake Device、Sensor Glove I&IIの2つのタイプのHaptic Interfaceの試作を行なっている。ここでは、以上の各システムに関して構造、制御システムおよび設計に関して詳細に説明している。また、これらのシステムを用いた東京-L.A.、東京-大阪間のテレオペレーション実験結果や、性能評価実験の結果などを示している。

 第4章(Dynamic Force Simulator)では、作業データ獲得のための仮想環境シミュレータ:Dynamic Force Simulatorを提案し、力の流れのモデル化による多自由度Haptic Interfaceを用いた力フィードバック法を提案している。人間と物体の間に加わる力を2つの力の流れに分けグリップ変換行列で表現し、接触モデル、摩擦モデルを考慮した後、接触力空間においてバランスを取ることにより、力の流れ図を構成している。また、内力がグリップ変換行列の零化空間に入ることを利用して物体の変形を考察している。提案した仮想空間における力の流れ図を計算機中に構成し、試作したSensor Gloveシステムを用いて仮想物体の把持実験を行ない、その結果を示している。

 第5章:(人間の作業例に基づくTele-Teachingの実現)では、人間の上位の知識の結果である人間の作業例における位置情報、力情報の利用が、作業学習においてロボットの動物に対する優位性を生むといった考察を行っている。この結果から、「人間自身の理解」に関する初期研究としてVirtual Reality技術を用いた作業教示システムの構築のための人間の作業データからの作業の実現方法を提案している。具体的には、仮想世界における人間の作業データをもとに作業を実現する際に、人間のデータとロボットのローカルで低レベルなインテリジェンス:下位レベル運動機能を用いた実現法を提案し、この下位レベル運動機能を「内力調整機能に関する反射運動」と定義している。さらに、本章では反射運動機能を用いた作業構造を示し、その実現方法を考察している。

 第6章(まとめ)では、研究の成果と今後の課題についてまとめ、今後の課題として提案する作業実現法のシミュレーションおよび実験による検証、DFSによる複雑な作業の実現などを挙げている。以上まとめると、本論文は、機構内部に人間を含有する実現の困難さから非常に遅れた分野の一つであるHaptic Interfaceおよび仮想環境シミュレータに対し、仮想環境のモデル化手法を提案し、実際に試作、実験を行い、システムデザイン、制御などに関する知見およびその可能性を示し、現在も有効な手段は提案されていない作業例に基づく作業の実現に対して、作業データと内力調整反射運動機能による作業の実現法を提案したものであり、ロボット工学、電気工学、コンピュータ・サイエンスなどの分野において貢献するところが少なくない。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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