学位論文要旨



No 112575
著者(漢字) 井上,真杉
著者(英字)
著者(カナ) イノウエ,マスギ
標題(和) メディア統合無線アクセスアーキテクチャに関する基礎研究
標題(洋)
報告番号 112575
報告番号 甲12575
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3853号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 羽鳥,光俊
 東京大学 教授 今井,秀樹
 東京大学 教授 坂内,正夫
 東京大学 教授 石塚,満
 東京大学 助教授 相田,仁
 東京大学 助教授 相澤,清晴
内容要旨

 近年、音声のみならず、映像、データ等のあらゆる表現メディアをあらゆる速度で、単一ネットワーク上で統合的にやり取りできるマルチメディア通信ネットワークへの期待が大きい。同時に、束縛から解放して行動に大きな自由度を与える移動無線通信の普及が目覚しい。それゆえ、将来のマルチメディア通信環境においては、有線と無線とが相補的・融合的に機能することも求められよう。

 このような将来予測を踏まえ、マルチメディア無線通信の実現を最終目標に、誤り制御技術・マルチプルアクセス技術・多重化技術等の無線アクセス技術のあり方を探求することが本論文の目的である。具体的には、

 ・マルチメディア無線アクセスアーキテクチャの一案

 ・ABR(Available Bit Rate)トラヒックに対する無線資源割当手法

 ・VBR(Variable Bit Rate)トラヒックに対する無線資源割当手法

 ・上下リンク非対称トラヒックに対する適応多重化手法

 ・バーストエラーチャネルに対する適応誤り制御手法

 を示している。以下、本論文の構成に沿いながら各項目を説明する。

 第2章では、本論文の対象であるマルチメディア無線アクセスに関する基礎知識を提供すべく、種々の要素技術を概観している。具体的には、マルチメディア有線ネットワークとしてB-ISDN/ATMネットワークとTCP/IPインターネットワークとを取り上げ、これらの基盤技術を整理している。続いて、誤り制御とマルチプルアクセス技術を中心に、既存の無線アクセス技術を解説している。最後に、マルチメディア無線アクセスに求められる課題・要求条件を示し、それに対する解決アプローチを示している。これは本論文の方向性を決定付けるものであり、それと同時に、本論文で示す各種提案手法の基礎となっている。

 続く第3章から第5章は、マルチプルアクセス手法について論じている。メディア種別ごとにトラヒック特性やサービス品質(QoS)要求条件の異なるマルチメディア環境においては、メディア種別ごとに異なるマルチプルアクセス手法を適用することが効果的である。そこで、メディアとして、従来論じられることの少かったABRメッセージトラヒック、およびリアルタイムVBRトラヒックを取り上げ、これらに対するマルチプルアクセス手法を示している。

 第3章と第4章では、ABRメッセージに対するマルチプルアクセス手法、言い替えれば無線資源割当手法に関して論じている。非即時性を特徴とする各メッセージソースに対して無線資源を割り当てるスケジューリングアルゴリズムを検討する際には、無線資源の利用効率や、各トラヒックソースが享受するスループットおよびその公平性が評価指標となる。第3章では、これらの指標に基づき、First-In First-Out型およびRound Robin型アルゴリズムの特性を計算機シミュレーションにより評価し、Round Robin型が総合的に良特性であることを明らかにしている。続く第4章では、これらの発展型として、送信前にメッセージサイズが既知であるメッセージに対する無線資源分配アルゴリズムを提案している。メッセージサイズ情報を利用することで特性が大幅に改善されることを明らかにしている。

 第5章では、リアルタイムVBRトラヒックに対する無線資源割当手法に関する議論を展開している。まずはじめに、VBRトラヒックを無線伝送する際の問題点を明らかにしている。続いて、無線伝送にはVBR情報の階層符号化、すなわち情報をその重要度に応じて分類した上で符号化することが有効であることを示している。そして、階層符号化VBRトラヒックを伝送するための、階層的伝送手法を示している。最後に、H.261ベースの2階層映像符号化を施した可変レート映像情報を用いて、提案手法の特性を評価している。従来の固定レート映像伝送と比較して、受信映像の品質を許容値に保ちつつ、無線資源の利用効率が向上することを確認している。

 第6章では、アップリンク/ダウンリンク間の非対称トラヒックと多重化手法について論じている。まず、将来の増加が予測される非対称トラヒックに着目し、その形態を分類整理するとともに、多重化する際の問題点を明らかにしている。続いて、時分割多重において、両リンク間の仮想的パーティションを各リンクのトラヒック量に応じて適応的に移動させることにより、非対称トラヒックを効率的に多重化する手法を提案している。計算機シミュレーションによる評価を行ない、従来の固定パーティションと比較して、非対称トラヒックのスループットが向上することを確認し、本手法が有効であることを確認している。

 第7章では無線伝送路におけるバーストエラーに対する誤り制御手法について論じている。まず、ランダムエラーとバーストエラーの違いを明確にし、それぞれがマルチメディア無線伝送に与える影響を整理している。続いて、バーストエラー状態を認識するための各種方法を挙げ、それらの特質を明確にしている。これらに基づき、耐バーストエラー誤り制御手法を示している。本手法を簡潔に述べると、伝送路が低BER状態のときにはSelective-Repeat ARQと同様な動作をし、高BER状態が継続する場合にはHybrid ARQ type-IIと同様な動作をする方法である。計算機シミュレーションにより、伝送路状態の認識精度と認識速度とが一定範囲内であれば、従来手法と比較してスループットが向上することを確認している。

審査要旨

 本論文は、「メディア統合無線アクセスアーキテクチャに関する基礎研究」と題し、将来のマルチメディア無線ネットワークの構築に必須となるマルチプルアクセス技術・多重化技術・誤り制御技術に関する研究をまとめたものであり、全8章から構成される。

 第1章は「序論」であり、本論文の背景、目的、および構成が述べられている。

 第2章は、「メディア統合無線アクセスアーキテクチャ」と題し、メディア統合無線アクセスアーキテクチャの全体像を明らかにしている。既存のマルチメディア有線ネットワーク技術と無線アクセス技術を整理した後、マルチメディア無線アクセスに求められる課題・要求条件を整理し、それに対する解決アプローチを示している。

 第3章は、「ABRトラヒックのリソース割当」と題し、ABRメッセージに対するマルチプルアクセス手法、言い替えれば無線資源割当手法に関して論じている。非即時性を特徴とする各メッセージソースに対して無線資源を割り当てるスケジューリングアルゴリズムを検討する際には、無線資源の利用効率や、各トラヒックソースが享受するスループットおよびその公平性が評価指標となる。本章では、これらの指標に基づき、First-In First-Out型およびRound Robin型アルゴリズムの特性を計算機シミュレーションにより評価し、Round Robin型が総合的に良特性であることを明らかにしている。

 第4章は、「サイズに基づくABRトラヒックのリソース割当」と題し、送信前にメッセージサイズが既知であるメッセージに対する無線資源分配アルゴリズムを提案している。メッセージサイズ情報を利用することで、スループットの向上や公平性の向上がはかれ、サイズ情報を利用しない場合に比べて、より最善努力型サービスに適した制御が可能であることを明らかにしている。

 第5章は、「階層化VBRトラヒックのリソース割当」と題し、リアルタイムVBRトラヒックに対する無線資源割当手法に関する議論を展開している。まずはじめに、VBRトラヒックを無線伝送する際の問題点を明らかにしている。続いて、無線伝送にはVBR情報の階層符号化、すなわち情報をその重要度に応じて分類した上で符号化することが有効であることを示している。そして、階層符号化VBRトラヒックを伝送するための階層的伝送手法を示している。最後に、H.261ベースの2階層映像符号化を施した可変レート映像情報を用いて、提案手法の特性を評価している。従来の固定レート映像伝送と比較して、受信映像の品質を許容値に保ちつつ、無線資源の利用効率が向上することを確認している。

 第6章は、「可変パーティショニングによる適応多重」と題し、アップリンク/ダウンリンク間の非対称トラヒックと多重化手法について論じている。まず、将来の増加が予測される非対称トラヒックに着目し、その形態を分類整理するとともに、多重化する際の問題点を明らかにしている。続いて、時分割多重において、両リンク間の仮想的パーティションを各リンクのトラヒック量に応じて適応的に移動させることにより、非対称トラヒックを効率的に多重化する手法を提案している。計算機シミュレーションによる評価を行ない、従来の固定パーティションと比較して、非対称トラヒックのスループットが向上することを確認し、本手法が有効であることを確認している。

 第7章では、「チャネル状態に応じた誤り制御」と題し、将来のメディア統合無線アクセスアーキテクチャを構築する際に考慮すべき問題として無線チャネル状態の時変性に焦点を当て、変動する無線チャネルの状態に対する適応的な誤り制御方式について論じている。前半では、高速伝送環境で顕著になるパケットレベルのバーストエラーに着目し、エラー状態に応じた無線リソーススケジューリングを行なう手法を示している。適応的なスケジューリングを行なうことで、SR-ARQのみの場合に比べて特性が改善されることを確認している。後半では、時間的に変動するチャネルのBERに応じて訂正能力の異なるFECを適用するパケットレベルの適応誤り制御手法を示している。チャネル状態推定精度と推定に要する時間とがある一定範囲内であれば、SR-ARQと比較してスループットが向上することを確認している。

 第8章は「結論」であり、本論文の主たる成果と今後の課題などが述べられている。

 以上これを要するに、サイズ情報を利用することでABRトラヒックの伝送特性が改善できることを明らかにするとともに、階層化VBRトラヒックを効率的に伝送するための階層的伝送手法、アップリンク/ダウンリンク間の非対称トラヒックを効率的に多重するための可変パーティショニングを用いた多重手法、パケットレベルバーストエラーの影響を低減する適応誤り制御手法、変動するチャネル特性に応じた訂正能力可変誤り制御手法等の研究・開発を行なったものであり、これらの多くの成果は、将来の無線通信システムの構築に寄与するとともに、電子工学上貢献するところが少なくない。

 よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/1881