学位論文要旨



No 112580
著者(漢字) 玉木,剛
著者(英字)
著者(カナ) タマキ,ツヨシ
標題(和) マルチメディア移動体通信における多元トラヒック処理を考慮した自律分散ダイナミックチャネル割り当て法の研究
標題(洋)
報告番号 112580
報告番号 甲12580
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3858号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 斎藤,忠夫
 東京大学 教授 濱田,喬
 東京大学 教授 坂内,正夫
 東京大学 教授 安達,淳
 東京大学 助教授 相田,仁
 東京大学 助教授 相澤,清晴
内容要旨

 移動体通信システムの急速な需要増加を背景として,周波数有効利用技術に関する研究が進められている.従来の固定チャネル割り当て方式(FCA:Fixed Channel Assignment)に比べ,動的チャネル割り当て方式(DCA:Dynamic Channel Assignment)の方が柔軟なトラヒック制御が行なえるため有望視されている.マイクロセルラシステムでは,シャドーイングなどによるセル形状の不均一性や需要分布の時間的変動が大きいため事前にチャネルを割り当てることが困難であり,これらに対して柔軟性のある自律分散型ダイナミックチャネル割り当て方式(DDCA:Distributed Dynamic Channel Assignment)が有効である.一方,移動体通信におけるマルチメディアトラヒックに関する方式検討の必要性が認識されており,ワイヤレスATMなどに代表される音声・データ統合ワイヤレスシステムの研究が進められている.マルチメディア移動体通信システムに対して従来のDDCAを適用した場合,所要帯域幅の異なるサービスでキャリアを共有する多元トラヒック処理によってメディア間の干渉が原因でサービス品質(QoS:Quality of Service)に差が生じることが問題となってくる

 本論文では,マルチメディア移動体通信における多元トラヒック処理を考慮したDDCA方式の検討を行う.まず,DDCAにおける多元トラヒック処理の効果を検証するため,狭帯域呼と広帯域呼でキャリアを分離する方式(CP:Carrier Partitioning)と共有する方式(CS:Carrier Sharing)について比較を行う.自律分散ダイナミックチャネル割り当ての呼損率を定常状態確率に基づいて解析を行なうと,CP方式とCS方式の呼損率はそれぞれ式(1),(2)のように求められる.

 

 

 ここで,各パラメータは次のような意味を持つ.

 a1: 狭帯域呼のトラヒック

 a2: 広帯域呼のトラヒック

 B1: 狭帯域呼の呼損率

 B2: 広帯域呼の呼損率

 a: 総等価帯域呼量

 r: 広帯域呼の割合(r=ma2/a)

 m: 広帯域呼の狭帯域呼に対する通信速度比

 p: 干渉によってチャネルが使用できない確率

 Nc: キャリア数

 Ns: 1フレーム内のタイムスロット数

 Pk(n,p)は,nスロット中kスロットが干渉によって使用できない確率を表し,ここでは二項分布を想定する.E(n,a)はアーランB式を表し,E1(n,a1,a2)とE2(n,a1,a2)は,2次元のマルコフチェインによる定常状態確率から得られる狭帯域と広帯域呼の呼損率を表す.

 また,Aka,kb(ns,nc)は,広帯域呼に対して割り当てることが可能な実効チャネル数を表し,次式(3)で求められる.

 

 この数式モデルの妥当性を検証するために,シミュレーションとの比較を行った結果を図1に示す.シミュレーションでは,バッチ平均法を用いて平均呼損率に対して95%の信頼レベルにおいて10%の精度を実現するように繰り返し定数を定めている.図1より,よい一致を示しているといえる.この数学モデルを用いて,次のような条件でCS方式がCP方式に比べてよい特性を示すことを明らかにした.

図1:数式モデルとシミュレーションの比較:Nc=10,Ns=10,m=3,r=0.3,p=0.2

 ・広帯域呼の通信速度比mが小さい

 ・トラヒックaが小さい

 ・広帯域呼の割合rが小さい

 ・干渉によってチャネルが使用できない確率pが小さい

 ・キャリア数Ncが多い

 ・タイムスロット数Nsが多い

 次に,CS方式においては狭帯域呼が広帯域呼に干渉することが問題となるので,これを克服する多元トラヒックDDCA方式としてReserved Channel方式を提案した.この方式では,スループットを向上させるための工夫としてスロットの端数を埋めることで端数出線効果の抑制をおこなっている.さらにReserved Channel方式を改善するために,周波数ホッピングを用いて一つの広帯域呼に複数のキャリアを割り当てるマルチキャリアチャネル割り当てを行なうReserved Channel++方式を提案した.この方式では,可変通信速度接続や,呼の再配置接続,リトライ型ハンドオフなどを組み合わせることで強制切断率や呼損率を減少させることができる.図2にReserved Channel++方式の処理概要を示す.

図2:Reserved Channel++方式

 はじめに,一つの呼に対して同一キャリアのスロットを割り当てるシングルキャリア動作で,Reserved Channelアルゴリズムによってチャネル検索する.割り当てに失敗した呼に対して,割り当て可能タイムスロット数を調べる.割り当て可能なタイムスロットがあれば,周波数ホッピングを用いてマルチキャリア動作で割り当て,要求帯域幅スロット数に満たない場合でも,通信速度を落して割り当てる.さらに割り当てに失敗した場合は,その基地局で通信中の呼を解放して再配置接続を行い,割り当て可能なタイムスロットが用意できればそれを割り当てる.それでも失敗した場合は,接続遅延の許容される範囲でN回まで再接続を行う.

 次の条件1でシミュレーションを行ない,従来のDDCA方式(Rnd方式,Seg方式,RSL方式,ARP方式)と比較した.シミュレーション結果として,総等価帯域呼量aに対して運んだトラヒックtの割合t/a(完了率)を図3に示す.これより,提案方式が最も多くのトラヒック収容能力があることがわかる.また,呼損率・強制切断率においても従来方式に比べてReserved Channel++方式がよい特性を示すことを確認した.

 他にも,様々な条件でのトラヒックシミュレーションを行なうことにより,Reserved Channel++方式は狭帯域呼と広帯域呼の接続品質の差を少くし,大きなトラヒック収容能力をもつ方式であることを確認した.また,この方式を実現する問題として種々のトラヒックに対する対処方針を明らかにし,端末主導のランダムアクセスと併用した際の性能評価を行なった結果,提案したReserved Channel++方式の特性劣化が少いことを明らかにした.

表1:RC++方式評価のシミュレーション条件図3:RC++方式と他方式の完了率特性比較
審査要旨

 本論文は「マルチメディア移動体通信における多元トラヒック処理を考慮した自律分散ダイナミックチャネル割り当て法の研究」と題し、マルチメディアを取扱う時分割移動通信におけるチャネル割り当て法に関する研究をまとめたものであって、全7章から成っている。

 第1章は「序論」であり、本研究の必要性を述べ、本研究の前提となる移動体通信システムを記述すると共にダイナミックシャネル割り当ての必要性とマルチメディア通信を実現するためのダイナミックチャネル割り当てにおける制御方式の重要性について記述している。

 第2章は「研究の背景」と題し、従来のダイナミックチャネル割り当てが主として単一種別のトラヒックについて行われており、マルチメディアを前提とした研究が必要であることを述べている。ダイナミックチャネル割り当ては、セリュラ方式のセルを小さくし、帯域の利用効果を高める方式として従来から期待されている。しかし実際のチャネルを割り当てる処理にはコールバイコール型、適応型の各方式があり、その中でも多様なアルゴリズムがあり、さらに詳細な研究が必要になっている。本研究においては、マルチメディアの多元トラヒックを想定して、ダイナミックチャネル割り当て方式について研究するものとし、本研究の研究対象を明らかにしている。

 第3章は「多元トラヒックのチャネル共有効果の検討」と題し、多元トラヒックをマルチキャリア時分割方式で扱う際のキャリア分離方式(CP)とキャリア共用方式(CS)の比較を行なっている。CP方式においては多元の呼種別ごとにキャリアを分離して割り当て、CS方式においては狭帯域呼、広帯域呼に共通のキャリアを使用する。この章では、多元トラヒックを扱うセリュラシステムについて代表的な条件についてシュミレーションと理論計算によって評価を行ない、広い条件についてCS方式がすぐれていることを明らかにしている。

 第4章は「多元トラヒックDCA法(Reserved Channel方式)の提案」と題し、従来のCS方式を改良したチャンネル割り当て方式を提案している。この方式においては、一つの広帯域呼に対して同一のキャリアのタイムスロットを割り当てる場合にCS方式で問題となる端数出線効果を軽減するために、広帯域呼に対して極力連続したスロットを残すように狭帯域呼に対するスロットの割り当てを管理する。この方式をRC(Reserved Channel)方式と呼び、この章ではシミュレーションによってRC方式とこれ以外のチャネル割り当て方式を平均呼損率、完了率について比較し、RC方式の優位性を定量的に示し、RC方式が端数出線効果の軽減に有効であることを明らかにしている。

 第5章は「RC方式の改善(Reserved Channel++)方式」と題し、第4章で提案したRC方式を拡張したチャンネル割り当て方式を検討している。ここでは一つの広帯域呼に対して複数のキャリアのスロットを割り当てることを想定しており、これにRC++方式を適用する。RC++方式においてはまずRC方式でチャネルを割り当てを試み、次にマルチキャリアでチャネルを割り当てる。これでもできない場合には広帯域呼に割り当てるタイムスロットを減少して品質を落としても割り当てることを試みる。さらに同一基地局内の既設定の呼について再配置接続を行なう。この章ではシミュレーションによってRC++方式の評価を行ない、RC++方式の各制御ステップの効果を明らかにしている。

 第6章は「Reserved Channel++方式の実現に対する諸問題とその対処」と題し、RC++方式を実現する場合のシステム構成法とVBR、ABRトラヒックの収容方式について検討している。システム構成法では移動交換局、基地局、送受信機に必要な機能を明らかにしている。またVBR、ABRのトラヒックを収容する方式について検討し、CBRについては呼設定時とハンドオフ時に制御を行なうのに対して、VBR、ABRではバースト単位で資源予約を行なうこととして、方式の拡張を行なっている。この方式についてシミュレーションによって性能を評価している。

 第7章は本論文の「結論」であり、成果をとりまとめると共に残された課題を示している。

 以上本論文は自律分散ダイナミックチャネル割り当てを行なう移動体通信方式における多元トラヒック処理について、有効なチャネル割り当て法を創案し、その優位性を明らかにしたものであって、電子工学上貢献するところが少くない。

 よって本論文は博士(工学)の論文審査に合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/1884