本論文は、「光線記述に基づく空間符号化と空間共有メディアに関する研究」と題し、あらゆる3次元画像を統一的に扱う情報環境の実現を目的として、各種の3次元画像の取り扱いを「空間における光線情報の記述問題」として定式化し、特に効率的な圧縮・伝送を考慮した「空間符号化」に重点をおいて、送信者と受信者が同じ空間を共有する「空間共有メディア」の実現可能性について論じたものであって、全体で9章からなる。 第1章は「序論」であり、現在の画像メディアの限界を指摘し、次世代の視覚メディアに望まれる様々な機能について論ずることにより、本論文の背景と目的を明らかにしている。 第2章は「3次元統合画像通信の構想」と題し、様々な3次元ディスプレイ方式の研究が現在でも精力的に行なわれていることに鑑み、システム的な立場から、これらの違いを吸収できる柔軟な3次元統合情報環境の構築を提唱している。また、本論文における全ての研究がこの枠組みの中で行なわれていることを明らかにしている。 第3章は「光線記述に基づく空間符号化」と題し、空間を満たす光の情報に着目した空間記述手法について論じている。さらに、この手法を応用した統合的な3次元画像情報環境の実現に向けて、その要素技術を整理し、第4章から第8章における具体的な検討の位置付けを行なっている。 第4章は「光線情報の効率的記述」と題し、幾何光学的な近似が成り立つ(すなわち、光の減衰や干渉の影響を無視できる)場合を想定し、本質的な情報を失うことなく、光線情報を効率的に扱う手法を提案している。具体的には、平面記録、円筒記録、球面記録なる3通りの光線情報の記述方法を定式化し、それぞれの特徴を整理している。また、正投影画像の集合として空間情報を記述する本手法の有効性を明らかにしている。 第5章は「画像情報から光線情報へ」と題し、第4章で定義した光線情報の取得方式について論じている。また、カメラをコンピュータ制御する撮像系を構築して、光線情報の取得という観点から、撮像系の最適な制御方式に関して基礎的な検討を行なっている。 第6章は「光線情報の補間と圧縮」と題し、第5章の手法で取得された光線情報を多次元情報空間に格納し、その中で補間処理を行なった上で、効率的に圧縮・伝送する手法について述べている。具体的には、まず従来の画像符号化技術と整合性が高い視差補償予測符号化について検討している。さらに、フラクタル符号化に基づく手法を新たに提案して、両者の比較を行なうことによって、情報圧縮と光線情報の補間を同時に実現する手法として提案手法(フラクタル符号化)が有効であることを実験的に明らかにしている。 また、光線情報の補間を目的として、局所的な構造推定を行なう手法を提案し、従来の大局的な構造モデルを求める手法に比べて、提案手法が視覚的に良好な補間処理が実現できることを明らかにしている。さらに、重要度の高い情報から階層的に伝送する手法を提案して、その階層化の手順によって生じ得る歪みについて検討し、光線情報の階層的伝送に向けた指針を示している。 第7章は「光線情報の構造化」と題し、空間に対して物体の移動や変形などの操作を施すことを目的として、第6章の補間処理を施した多次元情報空間を、操作しやすい形に構造化する手法を提案している。具体的には、K平均アルゴリズムを用いて、多次元情報空間の領域分割を行う手法を提案し、1つの物体から発せられる全ての光線情報を多次元情報空間内の1つの領域として取り扱うことを論じている。さらに、この領域分割結果を用いて、各領域毎に構造モデルを当てはめる手法を提案している。 第8章は「空間共有メディアの実現」と題し、第4章から第7章までの成果を組合わせて、様々な形態の空間共有メディアを実現することを検討している。具体的には、ホリゴンモデルで記述された空間に光線記述された物体を配置することの検討、光線記述された空間に同じく光線記述された物体を配置することの検討などを行ない、これらを通じて実空間から得られた情報を基にリアルな仮想空間を実現することを論じている。 さらに、物体の形状モデルを利用して、物体に対する変形操作を行ない、その結果を光線情報に反映することによって、視覚的に良好な空間操作が実現されることを実験的に示している。 第9章は「結論」であり、本研究で得られた成果をまとめると共に、将来の展望について述べている。 以上を要するに、本論文は、3次元統合画像通信の構想に基づき、空間情報の光線記述方式を定式化して、その取得・補間・圧縮・構造化手法を提案し、それを空間共有メディアに実装することを論じたものである。これらの検討は、将来の柔軟な空間共有通信システムの構築の基盤となるものであって、今後の電子情報通信工学の進展に寄与するところが少なくない。 よって、博士(工学)の学位論文審査に合格したものと認める。 |