学位論文要旨



No 112591
著者(漢字) 大浦,拓哉
著者(英字)
著者(カナ) オオウラ,タクヤ
標題(和) フーリエ型積分に対する数値積分法の研究
標題(洋)
報告番号 112591
報告番号 甲12591
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3869号
研究科 工学系研究科
専攻 物理工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 森,正武
 東京大学 助教授 杉原,正顕
 東京大学 助教授 伊藤,伸泰
 東京大学 助教授 初貝,安弘
 東京大学 助教授 速水,謙
内容要旨

 この論文で扱う問題は,収束の遅いFourier型積分(振動積分),例えば

 

 のような積分の計算法である.このような積分は,実用上重要な型の積分である.しかし,この型の積分は,計算が困難な積分として知られている.なぜならば,この振動積分を有限区間で打ち切って計算する場合,一般の補間型積分公式では少なくとも振動している回数分だけの関数計算が必要となるからである.例えば,積分(1)を有限区間で打ち切って計算する場合,10桁の精度を得るには,計算する区間は(0,1020〕としなければならない.この区間で,被積分関数は1019回以上振動しているので,通常の補間型公式では計算が困難となる.

 このようなFourier型積分に対する計算法として,ある種の数値積分公式と加速法(補外法)とを組み合わせる方法が,従来から用いられてきた.しかし,この方法は通常,加速に必要な数列の個数だけ数値積分を行わなければならず,計算回数がかなり多くなるという欠点がある.

 本論文では,これらのFourier型積分に対する計算法として,まず独立した二つの方法を提案する.第一の方法は,Fourier型積分に対するDE公式で,標本点が被積分関数のゼロ点に近付くようなDE変換を用いる計算法である.この方法は,従来の方法と比較してFourier型積分を効率よく計算できる方法であるが,さらに改良を行い,振動しない積分に対するDE公式と同じ誤差の振舞いをする変数変換を新たに提案する.第二の方法は,連続版Euler変換による方法で,減衰の遅い関数のFourier変換をFFTを用いて効率よく計算することができる.この方法に対しても,性能をよくする重み関数の解析を行い,改良を行う.

 この二つの方法は,それぞれFourier型積分,減衰の遅い関数のFourier変換を効率よく計算できるが,実際に応用する場合,いくつかの問題点がある.そこで,これらの計算法を組み合わせて,より一般的な問題が扱える実用性の高い計算法を提案する.この組み合わせた方法は,Fourier型積分だけでなくBessel関数などを含む振動が等間隔でない積分に対しても適用することができる.また,実際の自動積分ルーチンでの精度を次第に向上するプロセスでの効率をさらによくすることができる.

 一般に,収束の遅い振動積分あるいは減衰の遅い関数のFourier変換の計算を行う場合には特別な工夫が必要で,普通の数値積分と比較して計算量が多くなるという難点があるが,ここで提案した方法は,これらのFourier型積分を普通の積分とほぼ同程度の手間で計算でき,この難点を打破するものである.

審査要旨

 解析関数の数値積分における一つの最適公式として,二重指数関数型数値積分公式(double exponential formula,略してDE公式)が知られている.この公式はかなり広範囲の積分に対して高精度の結果を効率よく計算するが,一方で無限区間における減衰の遅い振動型関数の積分には効率的でないこともわかっている.本論文の目的は,収束の遅い無限区間の振動型積分に対する,汎用かつ効率的な新しい数値積分法を提案することにある.

 本論文ではまず,被積分関数がsinやcosを含むいわゆるFourier型積分の場合について,変換後の公式の分点をsinやcosの零点に二重指数関数的に近づけることによって計算回数を節約する型の新しい変換を提案し,上述の問題を解決した.これは本人がすでに以前に研究課題として取り組み,ある程度の結果を得ていたものであるが,本論文ではその詳細な誤差解析を行い,その結果に基づいてさらに改良を加えた新しい二重指数関数型変換を提案した.

 次に,Fourier型積分が交代級数の連続版であることに着目し,交代級数の加速法であるEuler変換を連続化することを試みた.その結果,Fourier型積分の収束を加速する新しい方法を得ることに成功した.これは,もとのFourier型積分の被積分関数に減衰の速いある種の重み関数を単に乗じて積分するだけで同じ値をもつ積分がより効率的に計算できるというもので,Fourier解析の分野においても大きな寄与をなす発見といえる.また,この方法に基づく公式は,分点が被積分関数の零点の位置と無関係であるために,被積分関数にsinやcosを含む場合だけでなく,Bessel関数を含むような一般の振動型積分の数値計算にも利用することができる.本論文では,この方法を通常のFourier変換にも応用し,とくに減衰の遅いデータの場合であっても,FFTを利用してこれを高速に計算できることを示している.

 最後に本論文では,最初に述べた変数変換とこの連続版Euler変換を組み合わせることによって,被積分関数の零点がsinやcosのように一定間隔で分布するとは限らない一般の振動型積分に対して,効率の高い汎用の自動積分法を提案して,締めくくりとしている.

 本論文は5章から成る.

 第1章は序論で,本論文の目的が示されている.

 第2章では,Fourier型積分を対象として,分点が被積分関数の零点に二重指数関数的に近づくような型の変換について詳細な誤差解析を行った.その結果をもとに,もとの変換に改良を加え,一般的により効率の高い新しい変換を提案した.

 第3章では,交代級数に対する加速法であるEuler変換を連続化する手順を示し,それをFourier型積分に対して適用している.この方法によれば,被積分関数の零点の分布がどのようなものであっても,単にある減衰の速い重み関数を被積分関数に乗じて積分するだけで振動型積分を効率よく計算することができる.また,この方法をFourier変換に適用し,とくに収束の遅いFourier変換を効率よく計算できることを示している.さらに,この方法の詳細な誤差解析を行い,その結果に基づいてより効率的な重み関数を提案し,数値実験によってその効率性を確認している.

 第4章では,第2章と第3章の結果を結合させて,振動型積分に対するいわば究極的な数値積分法を提案している.すなわち,DE変換と連続版Euler変換を組み合わせた新しい数値積分法を提案し,それを実現する自動積分法を構築している.さらに,多数の積分の例に対してこの方法を適用し,他の知られている自動積分法との性能の比較を行い,適用したすべての例において本論文で提案した方法が他の自動積分法よりも効率が高いことを示している.

 第6章で本論文の総括を行っている.

 本論文は,これまで個別に工夫するしかなかった収束の遅い振動型積分に対して汎用かつ効率的な方法を提案した点,さらにそれを収束の遅いFourier変換の高速計算に適用した点で,今後の数値積分,ひいてはFourier解析に新しい展開を与えるものと期待され,物理工学への貢献も大である.

 よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/53955