流体内の温度差/密度差は流体を動かす駆動力となって自然循環を発生させる。自然循環はポンプなどに頼らずに効率的に熱を輸送することのできる手段であることから、原子炉の冷却などへの今まで以上の積極的利用が研究されている。しかしながら自然循環においては場合によっては自励的な流量変動を生じることが知られている。最も単純な体系である単ループ内の単相流自然循環についてはこれまでに多くの研究があり、流量変動現象が実験的にも理論的にも調べられている。一方、原子炉の冷却系は普通複数のループで構成されており、より複雑な現象の発生が予想される。本論文は、単ループに関する研究結果を踏まえて掘り下げながら、複合ループ内の単相流自然循環の流量変動について実験と数値解析とにより研究したものである。 第1章は序論であり、研究の動機や既往研究についてまとめ、本論文の目的と構成について述べている。 第2章では円環状の単ループで生じる現象についての理論解析、数値計算、実験それぞれの結果をまとめている。ループの下半分を加熱、上半分を冷却するときの流体の挙動は1次元モデルで記述すると、ローレンツ方程式に帰着させることができる。ローレンツ方程式については詳しく研究されており、解の分岐構造が定常運動状態とカオス的な運動の逆転が生じる状態、その間の遷移状態などの状態変化と対応していることが分かっている。理論解析では、2つの支配パラメータRaとのマップ上で各状態がどのように現れるかをローレンツ方程式から求めている。また1次元モデルでの数値計算と実験とで同じ現象を調べ、状態変化について同じマップ上にまとめている。理論解析と数値計算の結果は定量的に一致したが、実験結果は定性的には一致したものの定量的には一致しなかった。その理由に対する考察も行っている。 第3章では、第2章で用いたループの加熱部と冷却部の境界2ヵ所をつないだ型のループで生じる現象を実験と数値計算により調べている。これは循環経路が複数となるループ構成の最も単純なもので、水平接続管の抵抗を無限大にすれば単ループに戻る。実験では接続管の存在によりカオス的状態の発生領域が高熱流束側に移動すること、ループ全体を傾け接続管に傾斜を与えるとカオス的状態発生熱流束に上限が存在することなどを見出している。同時に接続管内の流れを測定し、この状態変化に果す役割を考察している。数値計算結果は定性的に実験結果と合うところが多いが不一致もみられた。その主原因を管分岐部のモデルに求め、考察している。 第4章は冷却部である上半分が2本の並列管に分れたダブルループに関する研究で、数値計算を主体としたものである。ダブルループで生じる現象は型のそれよりさらに複雑となり、並列する管に常に等流量が流れるカオス的状態、流量が異なるカオス的状態、それらから定常運動状態への遷移など、5つの状態が現れる。これについて相空間におけるアトラクターの安定性の観点から説明を行っている。すなわち相空間上にポイントアトラクター、ローレンツアトラクター、コンプレックスストレンジアトラクターの3種のアトラクターが現れること、それらが安定性を交換し2種類のアトラクターが共存する場合があることによって複雑な状態変化が生じることを示している。 第5章は結論で、本研究の成果をまとめるとともに今後の研究課題を整理している。 以上のように本論文は、閉ループ内単相流自然循環における不安定流動挙動に関するこれまでの単ループの知見をさらに深めるとともに、複合ループへの拡張を実験、数値計算の両面から試みたものであり、工学の進展に寄与するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |