数値解析がコンピュータ性能の向上と解析技術の高度化を受けて多次元化と高精度化へ進み、扱うデータが膨大となるにつれ、数値解析結果の表示と理解のためのビジュアリゼーションの重要さが増大しつつある。現在、多くのビジュアリゼーションは温度や流速など数値解析の結果として得られる物理量の空間分布を表示するのに用いられているが、一方で、形状や形態をリアリスティックに表現することも現象の直感的な把握とより良い理解のために同様に重要である。自動車、建築物などの変形をしない物体のビジュアリゼーションについては、これまで多くの研究開発が進められてきた。これに対して、固体の溶融・変形、気液・液液の混相流れ、原子間反応における電子雲の変形など動的に変化する複雑な形状を示す大変形物体のビジュアリゼーションの研究はほとんど行われてきていない。しかし、現象の理解と情報の伝達に視覚がきわめて有効であること、また、仮想現実感を導入したヒューマン・インターフェースの基盤技術のひとつとなることから、変形する物体のビジュアリゼーションは今後の重要な課題となるものと考えられる。 本論文は、以上の観点より、大変形物体のビジュアリゼーションに関し気液二相流を主な題材として取り上げ、相の合体、分裂を含む複雑変形する界面を表現する数理モデルの開発と、複雑変形界面のビジュアリゼーション手法の開発を目的に行った研究の成果をまとめたものであり、全体で6つの章から構成されている。 第1章は緒言であり、研究の背景と従来の研究を整理した上で、本研究の目的と意義を述べたものである。 第2章は表現手法について述べた章である。現在主流となっているボリューム・ビジュアリゼーションを複雑形状をもつ物体に適用する際の問題点を詳細に検討し、この結果からインブリシット・サーフェスを採用することとして、この基本特性とレンダリング方法の検討を行っている。 第3章は気液二相流のモデル化とビジュアリゼーションに関する章である。まず、気液二相流に関するこれまでの知見を整理し、流路内のボイド率分布、気液すべり速度などのデータをまとめている。次に、一般的に変形物体を表現する手法として、変形物体をプリミティブの集合として表すこと、プリミティブ間の相互作用には分子間のポテンシャルに類したポテンシャルを考え、プリミティブの運動をこれで制御することを提案している。これにより、おおよその体積保存が保証され、また、表面張力に相当するものが表現できることから界面や表面をもつ現象に適することを主張している。 この手法を気液二相流に適用している。実験から求められた速度分布、ボイド率分布を用い、分子動力学的な数値解析技術を開発して気液二相流に適用し、気泡流からスラグ流に至る範囲で、気泡の合体、分裂と流動の様子のビジュアリゼーションを行っている。 第4章はプリミティブ集合の集団としての特性のリアリティを増すために行った検討についての章である。気泡の合体と分裂の様子の詳細から流体力の加え方を検討し、また、体積保存性の精度を上げるためのプリミティブ数の増加と計算時間の関係を検討している。 第5章はレンダリング手法に関する章である。インプリシット・サーフェスのプリミティブを、移動するボクセル集団とみなし、これを通常のボクセル集団に変換する手法を開発して、その変換作業による誤差と効率を議論している。この手法により、サーフェス・グラフィックスの手法と考えられてきたインプリシット・サーフェスを、内部に状態量をもつ新たな構成要素としてボリューム・ビジュアリゼーションに用いることが可能としている。次に、ボリューム・レイ・トレーシングを使って等値面とボリューム・データの両者を用いることにより、光の減衰を考慮したリアリティの高い表現が可能となったことを示している。 第6章は結論であり、本研究で得られた成果をまとめた章である。 以上を要するに、本論文は大変形物体のビジュアリゼーションに関して、プリミティブ間の相互作用を考慮したインプリシット・サーフェス手法により界面を有する現象を表現し、これを変換してボリューム・ビジュアリゼーションに融合して、効率的でリアリティの高いビジュアリゼーション手法の開発と実証を行ったものであり、工学における数値解析の進展に寄与するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |