No | 112606 | |
著者(漢字) | 出町,和之 | |
著者(英字) | Demachi,Kazuyuki | |
著者(カナ) | デマチ,カズユキ | |
標題(和) | 磁束量子動力学法による第二種超電導体中のメゾスコピック電磁現象の解析 | |
標題(洋) | Analysis of Mesoscopic Electromagnetic Phenomena in Type II Superconductors by the Fluxoid Dynamics Method | |
報告番号 | 112606 | |
報告番号 | 甲12606 | |
学位授与日 | 1997.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第3884号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | システム量子工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | ITERなどの核融合炉においてはCS(Center Solenoid)コイル・TF(Toroidal Field)コイルなど超電導磁石の果たす役割が大きく、磁場中における超電導体の磁気的基礎特性を評価しておくことは核融合炉の実現にとって重要な課題であると言える。すでに実用化されているNbTiはもとよりのこと、今後の様々な実用化が予想されるYBa2Cu3O6+x,Bi2Sr2Ca2Cu3O10+xなどの第二種超電導体は、異方性や磁束線格子の融解など複雑な非線形挙動を示すため、平均的な場を解析対象とする従来のマクロスコピック(巨視的)な解析モデルでは非線形超電導電磁現象を正しく記述することは困難である。一方BCS理論などのミクロスコピック(微視的)なモデルは、扱う現象が超電導性の発現機構などのように微小すぎるために実用的ではない。これらのことより、ミクロとマクロの中間の「メゾスコピック(中間視的)」モデルの開発が要求される。 第二種超電導体中では、磁束は個々の「磁束量子」として量子化されて存在しており、その分布や運動によって第二種超電導体の全ての電磁現象は決定される。このため磁束量子の挙動を詳細に解析することは、第二種超電導体における非線形電磁現象の解明のための有効な手法になると考えられる。そこで本研究では、第二種超電導体中の個々の磁束量子の挙動を解析し、その結果から第二種超電導体の種々な電磁現象を評価する「磁束量子動力学(Fluxoid Dynamics:FD)法」の提案と開発を行ない、いくつかのシミュレーションを実施した。 本論文では次の4つを研究目的とした。 ・London理論およびGinzburg-Landau(GL)理論に基づいた解析手法(GLシミュレータ)の開発、および超電導体中の磁束量子構造の解析。 ・上の結果をデータベースとした磁束量子に作用する力の評価と、2次元および3次元体系におけるFD法の開発。ここでは個々の磁束量子を多数の粒子とみなし、分子動力学(Molecular Dynamics:MD)法に基づいて磁束量子の平衡方程式を解くことにより、その挙動のシミュレーションを行なう。 ・2次元および3次元FD法の妥当性の検証。第二種超電導体であるNbTiバルクにおけるシミュレーション結果を、既存の巨視的モデルと比較することにより本手法の有効性を確認する。 ・FD法による、第二種超電導体中の磁場と臨界電流密度との関係など、種々の電磁現象の予測。3次元FD法を用いた、臨界電流密度の磁場角度依存性などの、第二種超電導体における異方性の解析 以上のことを目的とし、本論文は6つの章から構成されている。 第1章においては、まず研究の背景・目的と本論文の概要が述べられている。また、超電導研究の歴史とこれまでに研究された第二種超電導体の電磁現象に関する数値解析手法、さらに超電導体の応用に関するレビューをまとめている。 第2章ではFD法の開発に必要な、超電導電磁現象に関する基礎的理論であるLondon理論とGL理論を紹介している。まずLondon理論の概要を述べ、磁束量子を形成している磁束密度・遮蔽電流密度の分布を理論的に導いた。次にGL理論の基本的概念とGL方程式の導出、またこれに基づく磁束の量子化、磁束格子の形成などについて説明し、GLシミュレータの提案・開発について述べている。さらに臨界状態モデルなど、第二種超電導体の混合状態に関するいくつかのモデルを紹介している。 第3章ではFD法の提案と開発を行なっている。まず第1節では、GLシミュレータによりNbTi中の孤立した磁束量子の秩序パラメータおよびベクトルポテンシャル分布の数値計算を行なった。またYBCO薄膜における磁束格子の形成のシミュレーションも行なった。第2節ではこれらの数値計算結果をデータベースとした、2次元FD法の提案とその数値解析手法の開発について述べている。ここでは磁束量子を粒子とみなし、これに作用する力として、超電導体中の不純物などによるポテンシャル力であるピン止め力F、磁束量子同士の磁気的反発力F、Meissner磁場による磁気力F、輸送電流によるローレンツ力Fおよび磁束量子中の常電導核の熱損失による粘性力Fの5つを考慮した。個々の磁束量子の挙動はこれらの5種類の力から成る運動方程式を解くことにより求められる。またここでは、磁束量子の質量は十分に小さいために慣性項は無視している。第3節では3次元FD法の提案とその手法の説明をしている。2次元FD法では磁束量子は粒子としてみなされるため点として離散化されたが、ここでは1つの磁束量子を多数の円弧要素が連なったものとして離散化した。個々の磁束量子の運動は、これらの要素に作用する力とトルクの釣合式を解くことによって求められる。ここでは磁束量子に働く力として、第2節の5種類の力に加えて、磁束量子の曲率に起因した張力FTも考慮に入れた。 第4章では、2次元FD法を用いたNbTiバルク中における磁束量子挙動のシミュレーションを行なった。 まず第1節では、ゼロ磁場中で超電導状態にしたNbTiに時間変化する外部磁場を印加した場合のシミュレーションを行ない、NbTi表面からの磁束量子の浸入・排出の様子を観察した。このときの磁束量子分布の結果から求められたNbTi内の磁束密度と遮蔽電流密度の分布の時間変化は、臨界電流モデルによるものとの良い一致を示した。また、解析領域中の任意の点における磁束密度と臨界電流密度の関係が、経験的モデルであるKim,Yasukochi両モデルによるものと一致したことから、本手法の妥当性を検証することができた。 第2節では、磁場中冷却により超電導状態にしたNbTiバルク中に一様な輸送電流を与えることにより、磁束量子の流れ(フラックスフロー)を観察した。またこのときの磁束量子の速度と磁束密度との速度起電力によって発生する電場を求め、その時間変化の様子からフラックスフローの定常状態は約1nsecという短い時間で達成されることが分かった。さらに、輸送電流密度と電場との関係を評価し、両者の間に直線的な構成関係が成り立つこと、および臨界電流密度は電場がゼロになる時の輸送電流密度に等しいとして求められることが分かった。またこの臨界電流密度と印加磁束密度との関係がKimモデルによるものとよく一致したことから、本手法が臨界電流密度などの第二種超電導体の電磁現象を予測する手法として有効であることが確認できた。 第5章においては、3次元FD法によりNbTiの臨界電流密度の異方性の数値解析を行なった。具体的には、磁場中冷却したNbTiバルクに一様な輸送電流を印加した場合の磁束量子挙動のシミュレーションを行ない、印加磁束密度と臨界電流密度との関係を求めた。またこの関係の、印加磁場の角度による依存性を評価することにより、臨界電流密度の異方性の解析を行なった。 最後に本論文の結論が第6章にまとめられている。本研究によって得られた重要な結論を以下にまとめる。 ・GL理論およびLondon理論とを組み合わせた分子動力学法に基づき、第二種超電導体中の磁束量子挙動をシミュレーションするための磁束量子動力学法の提案・開発と妥当性の検証を行なった。 ・本手法が、臨界電流密度などの第二種超電導体の電磁現象を予測する手法として有効であることが分かった。 ・3次元FD法を用いたシミュレーションにより、第二種超電導体の異方性の評価を行ない、その有用性を示した。 | |
審査要旨 | 本論文は、核融合炉における超電導コイルなど超電導体の基礎特性評価の重要性に着目し、第二種超電導体における電磁現象解析の新しい手法として磁束量子動力学法の開発を行なった。またこの手法に基づいてシミュレーションコードを作成し、第二種超電導体であるNbTiにおける超電導電磁現象の数値解析を行なっている。超電導体応用に関する研究ではその電磁現象の解明が必要不可欠であるが、多くの超電導体が現状の電磁場解析技術では取り扱いが困難な非線形性を有し、一般的な巨視的(Macroscopic)物理モデルではその現象を十分に記述することができないという問題がある。一方、BCS理論などの微視的(Microscopic)物理モデルでは、扱う現象が微小過ぎるために超電導体応用の研究には不適切である。そこで本論文では中間視的(Mesoscopic)なモデルとして、Ginzburg-Landau理論を組み込んだ分子動力学法に基づいて第二種超電導体中の個々の磁束量子の挙動を解析する磁束量子動力学(FD:Fluxoid Dynamics)法を構築し、そのシミュレーションコードを作成している。この手法の妥当性は実験則などとの比較により検証され、超電導電磁特性の予測手法としてその有用性が示されている。本論文の構成は次の通りである。 第1章は序論であり、本研究の背景と目的および概要について述べている。 第2章は超電導現象の中で本研究に関係する基礎的事項の説明を行なっている。 第3章はFD法とそのシミュレーションコードについて説明している。まず第1節では、1次元・2次元体系におけるGinzburg-Landau方程式の数値解析により、NbTi中の孤立した磁束量子の構造、および磁場中冷却されたYBCO薄膜中での磁束量子格子の形成過程のシミュレーションが行なわれている。第2節では、2次元FD法の理論と数値計算手法の開発について述べられている。この理論は、孤立した磁束量子のGLシミュレーション結果を用い、磁束量子に作用する5つの力(ピンニング力F,磁束量子同士の磁気的反発力F,マイスナー電流によるローレンツ力FM,輸送電流によるローレンツ力F,および磁束量子中の常電導核によるオーム損失に起因した粘性力F)を計算し、分子動力学に基づいて磁束量子の運動方程式を解くことにより個々の磁束量子の挙動を求めている点に特長がある。第3節では3次元FD法の理論と数値計算手法について述べている。ここでは1本の磁束量子がn個の円弧要素に離散化され、その力とトルクのつりあい方程式を解くことにより磁束量子の挙動を求めている。また2次元FD法では省略された、磁束量子の曲率に起因した張力FTが考慮されている。 第4章ではまずNbTiに変動磁場を印加した場合の磁束量子挙動のシミュレーションを2次元FD法により行なっている。これにより磁束量子がピン止めセンタに捕獲・離脱されながら超電導体中を運動していく様子が再現されている。またこの結果と臨界状態モデルの1つであるBeanモデルとを比較し良い一致が得られていることからも、本手法の妥当性は検証されていると言える。 次にNbTiに定常磁場を印加して輸送電流を流した場合の、磁束量子挙動のシミュレーションが行なわれており、NbTi中におけるフラックスフロー現象が再現された。この結果から求めた遮蔽電流密度-電場の構成関係は磁束フローモデルと良い一致を見せている。またこの構成関係の結果からは臨界電流密度Jcを求めることが可能であり、印加磁場BexとJcとの関係は実験的経験則であるKimモデルと良く一致した。このことより本手法が臨界電流密度といった超電導体の電磁気特性の予測手法として有用であることが示されている。 第5章ではNbTiに定常磁場を印加して輸送電流を流した場合の超電導電磁気特性の外部磁場角度依存性評価を、3次元FD法によるシミュレーションにより行なっている。磁束量子がピン止めセンタに対して垂直でない角度を持つ場合、磁束量子はピン止めセンタのほぼ全体積によって捕獲され離脱が困難になるため、臨界電流密度が上昇するという知見が得られた。また本手法が、3次元形状も考慮した超電導体電磁気現象の予測手法として有用性であることも示された。 第6章は結論であり、本研究で得られた知見についてまとめられている。 以上の成果は、第二種超電導体の電磁気特性の新しい評価手法として磁束量子動力学法(FD法)を提案・開発し、そのシミュレーションコードを作成して、その有効性を検証したものとして、高く評価されるものである。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/54577 |