No | 112609 | |
著者(漢字) | 山本,孝志 | |
著者(英字) | Yamamoto,Takashi | |
著者(カナ) | ヤマモト,タカシ | |
標題(和) | 超ロングパルストカマク型核融合炉の概念設計 | |
標題(洋) | Conceptual Design of Inductively Driven Long Pulsed Tokamak Reactor | |
報告番号 | 112609 | |
報告番号 | 甲12609 | |
学位授与日 | 1997.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第3887号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | システム量子工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 核融合実験は世界の4大トカマク炉を代表に着実に進展している.その一例が,欧州のJETや米国のTFTRのDT実験である.そして,現在,国際熱核融合実験炉(ITER)の工学設計段階(EDA)が国際協力の下,精力的に行われている.核融合の明日に向けて各国からも次世代炉である実験炉,DEMO炉,商用炉などの提案が出されており,日本からは日本原子力研究所から核融合実験炉(FER),定常トカマク炉(SSTR)などの提案がなされている. 一日も早い核融合の実現,すなわち,核融合反応による熱エネルギーによる発電を実現するためには,大規模な研究開発(R&D)に頼ることなく既存の技術で実現できることが望ましい.過去の実績の延長線上,および,ITERの研究成果を取り込めることを考えるとトカマク方式が最も核融合の実現に近いと思われる.次に,定常炉かパルス炉かの選択になるが,定常炉の場合,大規模な非誘導電流駆動装置のR&Dが必要となる.パルス炉の場合,繰り返し応力に耐えうる材料,休止期間中の電力の補償が問題となる. 本論文では,これらパルス炉の弱点を補うべく,一回の運転時間が数時間にも及ぶ超ロングパルストカマク型核融合炉(IDLT炉)を提案する.運転時間を数時間に延ばすことにより,同じ期間内の繰返し数を減少させ材料疲労を軽減させる.また.休止期間を運転時間に対し極めて短くすることにより,炉自身が電力補償システムを持たなくても,電力ネットワーク内において調整される可能性が充分ある.これらにより,従来より指摘されてきたパルス炉の弱点が大幅に克服できる可能性がある.本論文では,具体的にIDLT DEMO炉,IDLT商用炉について設計し,さらにITERの実験データを補完すべく体積中性子源炉(VNS)の設計を行った. IDLT DEMO炉はITERの後継機であることを念頭におき,またDEMO炉本来の使命である電力発電プラントの実証を考慮した.核融合反応による高速中性子束による第一壁等の材料への損傷を最小限にするため,核融合出力を800MWまで下げ,プラズマ表面積を大きく取ることにより(図1参照),DEMO炉ながら中性子束による壁負荷をITERより下げることができた.これは,過去の核分裂炉からのデータが豊富であり,ITERにおいても採用されるであろうオーステナイト系ステンレス材が使用できることを意味し,第一壁等のための材料R&Dを省くことができる.また.ITERや国際核融合材料照射装置(IFMIF)の実験結果より,より高中性子束に耐えうる材料が開発された場合には,IDLT DEMO炉は,それに応じて核融合出力を5GWまで上昇することができる潜在能力を有する.また発電プラントとして見た場合,低出力運転の場合,定常炉,すなわち非誘導電流駆動方式では電流駆動効率が低いため,核融合反応で生成した電力の大部分を非誘導電流駆動装置に与えなければならず,外部電力ネットワークに供給する電力がほとんどないという状態になる.IDLT DEMO炉では効率の良い誘導加熱方式を用いるため,約200MWの電力を外部に供給することが可能でありDEMO炉としての役割を充分果すものである. 商用IDLT炉は,既存の技術の応用または小規模なR&Dで実現可能な技術の基に核融合出力を3GWとして設計した.また,運転時間を充分長く伸ばし休止期間を短くとることに主点を置いたため,運転に必要な充分な磁束を確保するためプラズマ主大半径が10mと大型化している(図1参照).解析の結果,約7時間の運転時間に対し約10分の休止期間の運転シナリオを描くことができた(図2参照).これはパルス運転というよりも準定常運転と呼ぶのにふさわしい.10分の休止期間の電力を補うための電力補償システムは日本のような大規模電力ネットワークに組み込む場合は不要となるであろう.もし,それが許されない場合は電力補償システムが必要となりコストが増大するが,それに伴うR&Dは定常炉のための非誘導駆動電流装置のR&Dと比べれば,小規模なものでよい.材料の疲労についてはパルス長が長いためプラント寿命までの繰り返し数は約104回程となり従来のパルス炉と比べ大幅に軽減することができる.本論文では,プラズマ物理と運転シナリオを決定するためのプラズマとコイルの相互作用に重点を置いた設計がなされている.より先進的なプラズマ物理(より良いエネルギー閉込め等)を仮定すると核融合出力を同一に保ったまま主半径はSSTRとほぼ同じの7.5mまで小さくなる.コスト的にも保守的なIDLT炉より有利になる. 体積中性子源VNSは,主にブランケット等の大型構造物の照射試験を行うための炉である.これは,ITERでは工学試験期間においても,次期核融合装置のための材料選択を行うには中性子照射量が不足するためである.ITERと比べるとVNSは非常に小型な装置である(図1参照).照射効率を上げるため,これまでのパルス炉と違い,非誘導電流駆動装置による定常運転を行う.プラズマ安定性解析により最大のプラズマ出力を求めた結果,最大1.1MW/m2の中性子壁負荷を得ることができた,この時に必要となる追加熱は出力60MW,ビームエネルギー1.0MeVの中性粒子入射加熱(NBI)である.また.最近になり注目され始めたリバースドシア配位についても検討を行い,より高い中性子束(1.3MW/m2)を得ることができ,さらに追加熱も15MWの低域混成波加熱装置(LHRF)を合せ用いることによりNBIは出力25MW,ビームエネルギー0.55MeVまで軽減することができる. 以上の3基の炉の関係をまとめると,ITER,IFMIF,VNSなどの実験装置でプラズマ物理の進展を計りながら材料データベースを整える.その時点で得られた高出力に耐え得る材料を用いてIDLT DEMO炉を運転し核融合プラントを実証し,その延長線上として,IDLT商用炉を置く.そして,これらパルス型核融合炉をその特性に応じて,特に問題なく設計することができた.以上が本論文の主旨である. | |
審査要旨 | 本論文は超長時間の準定常運転が可能なパルス運転トカマク型核融合炉の概念設計を行ったものであり,全体として4章から構成されている. 第I章は序論であり,今までに為されてきたトカマク型核融合炉の概念設計及びシステムコードがレビューとしてまとめられている.また本研究の動機及び背景についても述べている.核融合炉の科学的実証を目指した国際熱核融合実験炉の設計・建設が国際協力として精力的に推進されている昨今の核融合開発研究において,実証炉・商用炉にまでつながる核融合炉を,より信頼性の高い物理的・工学的知見をベースとして設計し,その開発シナリオを構築しておく事は意義深いと言える.トカマク装置は,一般的に誘導電流駆動方式によりプラズマ電流を駆動しているので,核融合炉の運転が間欠的(パルス運転)になる.この欠点を克服すべく非誘導電流駆動方式が過去10数年間にわたり精力的に研究され,着実な成果を挙げてきた.これを受けて近年のトカマク型核融合炉の設計は,非誘導電流駆動による定常炉を中心として推進されてきたが,プラズマ運転領域の制限や電流駆動装置の開発が必須である事が判明し,核融合開発の長期化が懸念されている.本研究では,トカマク炉のパルス運転を再検討し,非誘導電流駆動による定常炉設計一辺倒であった従来の核融合炉開発シナリオに対して,誘導電流駆動方式によるパルス運転炉の設計を行い,その整合性・成立性を議論している. 第II章では,最新のプラズマ物理データベース及び工学設計基準に基づいたトカマク型核融合炉設計のためのシステムコードの概要が記載されている.本研究の核融合炉概念設計では,まず数多くの物理的・工学的制約条件を相互矛盾無く連結させたグローバルモデルで基本パラメータを設定し,さらにプラズマの平衡・安定性や電流駆動等を独立のコードで詳細設計することにより,核融合炉としての整合性・成立性をより一段と深めて検討している点に特長がある. 第III章では超長パルス運転トカマク型核融合炉の概念設計がなされている.一般的にパルス運転型商用炉の問題点として,繰り返し運転による機械的・熱的疲労の問題,休止期間におけるエネルギー貯蔵の問題が指摘されている.これらを出来る限り軽減すべく,一回のパルス運転時間を8〜10時間と非常に長くした点に,ここで取り上げたパルス運転トカマク型核融合炉の特長がある.ポロイダル磁場コイル系の設計を中心として,このような超長パルストカマク炉の運転シナリオを検討した結果,装置としてはプラズマ主半径10mとやや大きくなるが,8時間以上の連続運転が可能で,しかも休止期間10分程度にまで短くできる準定常運転のトカマク型核融合炉が設計可能である事が示された.特に中心ソレノイドコイルは約2000Wbの磁束を有し,これを時間的に変化をさせるものであるが,それに伴う超伝導コイル内の発熱等も十分低いレベルに抑えられ,現在の技術レベルの無理のない延長として工学的に設計可能であることが判った. また核融合炉の早期実現を目指して,既存の材料が使用できる低壁負荷の実証炉をパルス運転トカマク型核融合炉として設計している.第一壁材料に対する中性子負荷を低減させるべく核融合出力を80万kWまでさげても自己点火した実証炉が設計可能である事が示されている.この場合,電流駆動効率が低い非誘導電流駆動方式では,電気出力以上の駆動電力を要するため,正味の電気出力は得られないが,誘導電流駆動方式なら20万kW程度の正味の電気出力が得られる事が判った.しかも4時間程度までの長パルス運転が可能であり,実証炉としての各種機能試験に供しえる設計となっている.また商用炉・実証炉ともに,先進プラズマ物理や耐中性子性の優れた材料の開発が見込めるならば,パルス運転トカマク型核融合炉をより小型でより高性能な炉として設計可能である事も示している. 現在までの物理データベースと工学技術の無理の無い開発シナリオに基づき,誘導電流駆動方式によるパルス運転トカマク型核融合炉の商用炉及び実証炉が設計できた事を踏まえて,非誘導方式による定常炉と誘導方式によるパルス炉の物理的成立性・技術的整合性・社会的受容性等に関して比較・検討を行っている.その結果,定常炉の開発シナリオと同様,パルス運転トカマク型核融合炉をベースとした核融合炉開発シナリオも構築でき,しかもより早期に核融合炉を実現させるための戦略としては大変有望であると結論付けている. 第IV章ではパルス運転トカマク型核融合炉設計の概要がまとめられている. 以上を要するに本論文は,誘導電流駆動によるパルス運転を基調としたトカマク型核融合炉の物理的・工学的設計を通じて,その整合性・成立性を検討しており,現在までに得られているより信頼性の高い物理的・工学的知見をベースとして十分設計可能である事が示された.これは定常炉のみを見据えた従来の核融合開発戦略に対して,開発方針の柔軟性を与える大変有意義な研究であり,核融合工学に寄与するところが大きい. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/54579 |