温暖化等の地球環境問題を背景として、産業連関分析が従来のマクロ経済学の枠を超えて広く利用されている。エネルギー・環境評価の分野も例外ではなく、産業間の相互の取引関係を記述し、直接および間接の経済的な波及効果を分析するツールとして、産業連関分析は有効な手法と位置づけられている。一方で近年、生産システムの複雑化に伴い、ひとつの部門が複数の生産物を産出する結合生産プロセスや屑等のリサイクルが数多くみられる。このような生産プロセスを産業連関分析で扱う際に問題となるのが、産業連関分析が結合生産の不在を基本前提としていることである。結合生産は生産物同士の生産に技術的な結合関係がない場合には、部門を分割して全く別の部門と見做すことによって扱うことが可能だが、生産工程で発生する屑などのように、技術的結合関係をもって主生産物に付随して発生する副産物を扱うことは産業連関分析のひとつのネックになっていた。勿論この問題に対しては、現在我が国で採用されているマイナス投入方式などの方式が開発されているが、いずれの方式も連関表の構造上の前提である結合生産の不在に抵触する以上、根本的にこの問題を解決するには至っていない。 以上の事柄を背景として、本研究では3次元産業連関分析(3DIO:3-Dimensional Input-Output Analysis)とよぶ手法を考案して、結合生産を明示的に取り扱うための処理方式を開発した。この手法では、製品毎に連関のシートを作成し、各シートを連関させることによって結合生産を明示的に取り扱うことが可能となる。また従来の産業連関分析と同様に体系的にデータを整理でき、定式化も容易である。図1に3次元産業連関表の概念を示した。各セルにある部門からある部門にどの製品がどれだけ投入されたかが記録される。 図1 3次元産業連関表の概念 表1にその基本モデル式を従来の産業連関分析と比較して示したが、両者の対応は明確で概念的には同様な取り扱いが可能であることがわかる。 表1 3次元産業連関表のフレームワーク このような枠組みで結合生産を扱うと、従来の手法と比較して次のような利点がある。 (1)従来の代表的な手法では、競合部門の産出する製品と同一の製品でありながら、副産物として産出される部門の製品が優先して消費される構造になっていたが、3次元連関表では、技術的な結合関係を外生的に与えることによって、より実態を反映した代替性を扱うことが可能となる。 (2)需給モデルと双対な価格モデルを用いれば、製品の費用構成が明らかになる。従来の代表的な処理方式のもつ、副産物のコストは製品の費用に反映されないという欠点を補うことができる。 また、3次元連関表は2次元の数式で表現することも可能であるが、計算量および表示に必要な数値の量の制約によって、3次元の表記が有効であることが示された。 さらにこの手法の応用例として、エネルギー経済モデルに適用して二酸化炭素の排出規制に対する経済成長の変化、特に温暖化対策技術を導入した場合の成長の軌道をシミュレートした。モデルの基本構成は式(1)に示される。 : 排熱の利用は熱を結合生産しているシステムと見做すことができるように、結合生産を伴う対策をモデルに含め、二酸化炭素規制に対する温暖化対策の評価について一定の示唆を与える結果を導いた。温暖化防止対策は、電力の燃料転換・ヒートカスケーディング・産業熱の燃料転換・CO2リサイクルの4つを評価の対象とした。モデル構築およびシミュレーションによって得られた知見は以下のようにまとめられる。 (1)データベースとしての3次元産業連関表に基づいてエネルギー経済モデルを構築するため、制約式を個別に作り上げるモデルと違って、体系的に容易にモデルを作成でき、結合生産を含んだ技術を産業連関分析の枠組みの中で評価することができる。また産業連関分析の特徴を生かした生産の無限の波及効果を算出することができる。 (2)産業熱の燃料転換はGDP損失に対するCO2削減量が大きい最も有効な対策である。コストに非常に敏感に対応する部門であり、CO2削減の最も有効な手段になりうる。しかし、天然ガスに代替するためには、15万円/t-C程度の税率が課せられ、現実的には何らかの補助金が必要となろう。 (3)電力の燃料転換も、産業熱部門と同様にGDP損失に対するCO2削減量が大きい有効な対策である。コスト的には電力部門の燃料転換は、1〜2万円/t-C程度の課税で燃料転換可能であるが、現実には燃料の分散化の政策との兼ね合いが問題である。 (4)ヒートカスケーディングは、CO2削減量は大きいとはいえないが、大規模な実現プラントがない割にはCO2削減効果は高い。ただしヒートカスケーディングは、配管の問題など、現実的な課題があることは否めない。 (5)CO2リサイクルは、実質的に太陽光発電システムの導入を意味するが、現在のところでは莫大な費用のため、CO2削減の費用対効果は乏しいといわざるを得ない。 |