本論文は、主として粉体成形を対象として、超音波を用いたオフ・プロセスならびにオンプロセス非破壊定量評価法の開発に関してまとめたものであり、5章からなる。 第1章は序論であり、非破壊定量評価の概略と現状、その中でも超音波を使用した非破壊定量評価の概略について述べ、本研究で開発した、今まで経験に頼っていた成形条件の変更を容易にする成形中の非破壊定量評価法システムと全数検査が可能となる簡便な成形後の非破壊定量評価法システムの意義を示している。 第2章は、超音波定在波を利用したオフ・プロセス非破壊定量評価法の開発である。本音響法は、試料の定常振動に伴い発生する空中超音波測定により試験片の機械的弾性特性を評価する方法である。本方法は、試料の形状/寸法の影響を受ける反面、試料にセンサーを設置する必要がないため、接触条件の影響を考慮する必要がなく、表面の微小な傷が定在波に与える影響はほとんど無視することができ、また試料作成の際に表面粗さに配慮する必要がないという利点があるため、製品のオフプロセスでの全数検査を可能にし製品の信頼性向上に貢献することができることを指摘している。開発したシステムは、空中伝播する超音波の測定を行い、逆解析によって試料の弾粘特性を決定するものであり、種々の金属粉末焼結体・セラミックス粉末焼結体(モノリシック/コンポジット両タイプ)に適用し、その測定精度について3点曲げ法、シングアラウンド法との比較、検討を行い、測定手順が極めて簡便であるにもかかわらず、高速に、精度良くヤング率を求められることを確認している。また金属バルク材・金属粉末グリーン成形体のヤング率評価に関しても、本法の有用性を十分に明らかにしている。 第3章はバッチプロセスで粉体成形するCIP(Cold Isostatic Pressing)成形における非破壊定量評価の提案である。CIPは高圧成形プロセスゆえ、従来は成形後の成形後の形状、密度測定のみ行われてきたが、最適なゴム型設計のためには、成形中において寸法・形状・力学的特性の変化を非破壊定量的に記述し、ゴム型設計へフィードバックを行うことの必要性を述べている。まず高圧プロセスでの測定で問題となる、センサーの耐圧性能・高圧下での性能、測定データの取り出し法などの問題を解決し、実際にゴム型による金属粉末成形中において、超音波の音速と到達時間より形状変化、音速より密度変化、散乱特性より試料構造を捕捉する評価システムの開発を行い、400MPaまで加圧可能なCIPに本システムを実装し、CIPにおけるオン・プロセス非破壊定量評価法の可能性を実証している。実際、超音波トランデューサーを配置したセンサーアレイを加圧媒体中に設置し、中央部に純度99.9%Alアトマイズ粉末の入ったゴム型を配置し、発信・発信トランデューサーを切り替え、成形圧力400MPaまでのCIP成形中に得られる波形を測定し、ゴム型を通して反射波形、透過波形を測定できることを確認している。さらに成形圧力と圧力媒体中音速の関係、試料中音速と試料相対密度の関係について定量的な評価を行い、1)CIP成形中の高圧下の環境でサンプルの形状寸法変化を精度良く測定し、2)サンプル中音速を精度良く測定でき、特に成形中のAl粉末成形体の相対密度変化を定量的に記述でき、3)回転ステージを用いた走査によって、散乱特性と内部構造の関係を定量的に評価する可能性を示している。 第4章は、連続プロセスで粉体成形する押出しプロセスにおけるオン・プロセス非破壊定量評価法の開発である。まず可変押し出し速度でセラミックコンパウンドを連続的に成形できる押出し成形装置を開発し、実験規模で実プロセスにおける成形挙動をシミュレーションできることを示している。次いで、センサー治具に装着するセンサーを開発し、1)音響インピーダンスを整合させることにより金型の多重反射の影響を軽減できること、2)セラミックコンパウンドの流動変形をセンサー治具でオンプロセスで測定する上で、最適な超音波トランデューサー周波数が存在することを明らかにしている。その上で、実際にセンサー治具を開発し、それを上記の押出し成形シミュレータに実装し、1)透過波観測による音速測定から成形中のセラミックコンパウンドの密度と音速の関係が求められること、2)試料に欠陥の存在する場合、透過波形の振幅より、その存在を予測することができること、3)45度方向の透過波測定よりセンサーアレイの実装によるセンサー治具の有用性を実証している。 第5章は総括である。 以上を要するに、本論文では主として粉末成形プロセスの生産性・品質向上に貢献する超音波非破壊定量評価法の開発を目指し、超音波定在波によるオフ・プロセス評価法、CIP・押し出し成形プロセスに実装できる非破壊定量システムの開発を通じて、超音波測定に基づく多様な非破壊評価手法を実現するとともに、計装化ツール、アレイトランデューサーなどの新しい考え方を提出し、この新方式のセンシング法により、種々の粉末成形プロセスにおける成形体の非破壊定量評価が可能となることを明らかにしており、材料非破壊評価、生産科学への貢献が著しい。 よって、本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。 |