学位論文要旨



No 112612
著者(漢字) 渡部,友太郎
著者(英字)
著者(カナ) ワタナベ,トモタロウ
標題(和) 超音波による粉末成形体の非破壊定量評価法の開発
標題(洋)
報告番号 112612
報告番号 甲12612
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3890号
研究科 工学系研究科
専攻 金属工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 相澤,龍彦
 東京大学 教授 木原,諄二
 東京大学 教授 岸,輝雄
 東京大学 教授 桑原,誠
 東京大学 助教授 榎,学
内容要旨 緒言

 粉体成形にはCIP(Cold Isostatic Pressing)・HIP(Hot Isostatic Pressing)等、高圧/高温プロセスや連続押出し成形などが多く用いられているが、現在プロセス条件の決定のための評価は密度計測程度である。プロセス条件の影響、成形中の履歴効果等を明らかにし、高度な粉体成形・Near-Net Shapingを実現するためには、成形中対象素形材の形状・寸法測定に加え、力学的特性変化を記述できる新しいセンシング法(オンプロセス評価)の開発が望まれている。このような評価法として、X線、レーザー光線や音波を用いた方法が数多く提唱されているが、一般に波長が短くなれば、解像度が上がる。反面、透過性は下がり、X線や可視光線では材料表面近傍のみの評価しか行えない。また、材料構造を反映した散乱によって、その構造を評価することは至難であり、超音波の利用が適している。

 現在、粉末成形には高圧成形プロセスが多用され、また、実際の生産ラインでは連続押出し成形や連続圧延等の連続成形プロセスが多く採用されている。本研究では各プロセスを対象とし、センサーアレイを組むことにより、局所的な評価ではないオンプロセスでの非破壊定量評価(QNDE;Quantitative Non-Destructive Evaluation)が可能な評価法を開発し検証した。

 また、音波探傷、医学における超音波探診等で実用化している多くの音波による非破壊評価法は、被対象物を一対のトランデューサーにより、その反射、透過によるスキャニング法であり、成形後のQNDEである。評価されるのはスキャンした部分のみであり、対象試料全体について評価を行うために試料全面の応答を求める必要があり、時間と手間を必要とし製造プロセスでの全品検査には応用できないという問題がある。この問題を解決するために、共振周波数等による試料全体の走査の必要のないQNDEが必要となる。本研究ではインパルス応答波形を高速フーリエ変換(FFT)によって処理し、共振周波数より力学的特性を評価する方法を開発し検証した。

 超音波と動弾性・動粘弾性との関係を定量化しつつ、材料の内部、さらには、その力学的な構造を散乱により評価できる可能性のあるセンシング法として、超音波によるオンプロセスでの非破壊定量評価法を開発し、総合的に粉末成形体のQNDEのあり方を考える。

音響法評価法の原理

 一般に、円板試料の振動では、各種の振動モードが存在する。この振動モードのうち、同一径、同一厚さ試料においては、境界条件・材質・材料密度によらず、均質な弾粘性材料であれば、その主振動モードは一致しており、少なくとも、共振周波数近傍では弾性振動理論より次式が成立する。

 

図1:Si3N4のパワースペクトル

 ここに、aは試料半径、hは試料厚み、Eはヤング率、は密度である。従って、形状、ヤング率、密度が既知の材料をリファレンス材とすれば成形体のヤング率を導出することができる。

測定システム

 試料中央への剛体球の落下によるインパルス応答波形を高性能マイクロホンによって測定し、高速フーリエ変換(FFT)によって周波数分析を行い、得られたパワースペクトラムから試料の弾粘特性を決定する。また、各種実験により最適化した測定条件により実験を行っている。

実験結果および考察

 2種類の形状の3種類のセラミックスについて、Al板(5056)より切り出したほぼ同形状の試料をリファレンス試料として用いた。図1にSi3N4試料について応答波形をFFT処理して得られたパワースペクトラムを示す。振動モードのうち、最も応答強度の高いものを主振動モード(Free Free Vibration)と仮定し、リファレンス材の共振周波数の比より各試料のヤング率を導出した。こうして、求められた各試料のヤング率を表1に示す。Al2O3,Si3N4について、実験より求められた各試料のヤング率と文献値を比較すると、その誤差は、Diskタイプで、1.4〜2.1%、Plateタイプで-4.6〜+3.8%であり、作成方法の違いを考慮すれば精度良くヤング率を測定できている。さらにSiC/Si3N4試料については、SiC短繊維の強化によって、ヤング率が上昇していると考えられる。ここで、Voigt model(直列型)による複合則によるヤング率はEV=293GPaであり、Reuss model(並列型)による複合則によるヤング率はER=289GPaである。ランダム配向のSiC等の短繊維による場合は、EV>Ecomposite>ERとなることが知られており、測定結果がEcomposite290Gpaであることを考慮すれば、CMC(Ceramic Matrix Composite)に関しても、モノリシック材と同程度の精度でその剛性を評価できる。

表1:セラミックス試料のヤング率
音響法に関する結言

 音響法は、他の従来の評価法に比べて1.試料表面に配慮する必要が少なく、そのため表面処理を行なう必要が無い。2.測定手順が極めて簡便である。3.試料の形状に制約が少ない。4.測定のために試料が傷つくことが無い(非破壊である)。という特長を有していることを確認した。さらに、本実験により、1.主振動モードのみに着目することにより、高速で、簡便に、2.リファレンス試料を試料と同形状とすることで精度良く、3.非破壊定量的にヤング率を求めることができることを確認した。

CIP成形体の評価実験システム

 耐圧性と圧力媒体との音響インピーダンスの整合性からPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を7.5MHzの超音波トランデューサーに加工した。CIP圧力容器にこのトランデューサーにより組んだアレイを水中に設置し、円筒管中央部に試料を配置して測定を行った。なお、本実験で使用するCIPは400MPaまでの加圧を行える。

相対密度と音速

 純度99.9%Alアトマイズ粉末(粒径45m)を用い、角型のゴム型を使用して、成形圧力を変化させ密度の異なるAl粉末成形体試料を作成し、その相対密度と試料中音速の関係を実験、考察した。アルキメデス法により測定した相対密度と実測した試料中音速との関係を図2に示す。図中の破線は1次、実線は2次のフィッティングである。Al粉末成形体の場合、2次フィッティング曲線から実験式を得た。CIP成形によって作成された別のAl試料では、試料中音速は6069m/sであり、相対密度は96.77%であった。前述の実験式に代入すると、’=96.8%となり、測定値96.77%とよく一致しており、実験式より相対密度p’を試料中音速Vより推定できることを確認した。

図2:相対密度と試料中音速
CIP成形中における挙動

 ゴム型にAl粉末を詰め、CIP成形を行いその成形過程を開発したシステムで測定し検証した。成形圧力400MPa加圧時の同一トランデューサーによる反射波形と対向トランデューサーによる透過波形を図3に示す。図3(A)に、ゴム型表面、Al粉末表面、Al粉末反対表面での反射による3つの反射波が観測される。これより、図3(B)に明瞭な透過波が現れており、高圧下ではゴム型を通して粉末試料中を超音波が伝播することが確認できた。

図3:400MPa加圧時における反射波と透過波

 つぎに圧力と圧力媒体中音速の関係の測定を行った。結果を図4に示す。圧力の増加と共に音速が増加していることが分かる。

図4:圧力とCIP圧力媒体中音速の関係

 さらに、圧力媒体中音速を用いて、相対するトランデューサーの反射波の時間差より試料寸法(ゴム型+Al粉末試料厚さ)の変化を導出した。結果を図5に示す。加圧とともに粉末試料が圧縮されていく様子がわかる。0MPaから50MPaへの加圧で、圧縮値が大きいのは、防水のためのシールとゴム型の間の空隙が圧縮されているためである。250MPa程度までの圧力では、線形的に圧縮が進んでいることが分かる。これにより、CIP成形中の試料形状変化の測定が可能であることを確認できた。

図5:CIP成形中における試料厚さの減少
CIP成形の非破壊定量評価法の結言

 圧力と圧力媒体中音速の関係と試料中音速と試料相対密度の関係について定量的な評価を行ない、1.圧力媒体中音速より、ゴム型の寸法変化を精度良く測定できる、2.試料寸法、圧力媒体中音速、反射波形より試料中音速を精度良く測定できる、3.得られた試料中音速より成形中のAl粉末成形体の相対密度変化を定量的に記述できる、ことを実証した。

連続押出し成形オンプロセス評価実験装置

 発信周波数10MIIzのセラミック圧電型超音波トランデューサーを用い、圧電用粉末、バインダ、可塑材、水分から成るPZTグリーン体であるクレイ(粘土)を試料として用いた。試料は押出され、口金によって帯状に成形され、センサー治具内を通る仕組みとなっている。センサー治具は試料に対して垂直と45゜方向に超音波を透過させる構造とした。

実験結果および考察

 センサー治具の最適化にり、試料に対して垂直と45゜方向のどちらでも超音波が透過することを確認できた。これによって、センサーアレイによる測定が可能であることを確認した。また、垂直方向については、トランデューサーを直接試料に接触させる方式(接触方式)とセンサー治具の工具鋼を通して測定する方式を比較した。直接クレイに接触させた波形では、入力した1パルス波が鮮明に測定された。一方、センサー治具に装着した場合、センサーと試料間のセンサー治具の壁による多重反射のため、透過波が複数観測されたが、波形は崩れておらず、波形解折に大きな障害にならないと考える。到達時間から試料中音速は7.76×102[m/s]と求まった。

 次に、成形中における欠陥の検出を接触方式によって試みた。気泡を含ませた試料クレイを成形させることによって、成形品に欠陥部位が生じる様にした状態で測定を行なった。成形圧力により圧縮されていた試料内の気泡が除荷され膨張し、一列の破裂痕となり欠陥部位として現れる。成形品の正常部位と欠陥部位での透過波形では、欠陥品では受信パルス波の振幅が小さくなる。この変化は、気泡と試料の界面でのインピーダンスの変化のため、入射された超音波が反射さるためである。気泡を半径rの球と仮定し、健全部位の透過波振幅をA0、欠陥部位の透過波振幅をA1、トランデューサーの有効発振面積をSとすれば、が成立する。よって透過波の振幅をモニタリングすることにより、表面に現れない欠陥も含め、その大きさと成形方向の位置を定量的に測定することができる。

連続押出し成形オンプロセス評価の結言

 連続押出し成形において、音響インピーダンスを整合させ最適な超音波トランデューサー周波数により、センサー治具に実装した状態で明瞭な透過波を観測し、音速を測定できた。明瞭な波形が測定されたことにより、バインダーの分散特性と位相差、周波数に対する減衰に関する実験検証を行える。また、密度と音速の関係を明確にすることで、成形中の試料密度測定が可能となると考えられる。さらに、45゜方向の透過波を観測できたことから、センサーアレイを組むことが可能であることを実証できた。

結言

 音響法は、マクロな欠陥・繊維強化による剛性変化をとらえるには適しており、モノリシック材、CMCに利用できた。また、その簡便さより製品の全量検査に応用できる。高圧バッチ成形プロセスであるCIPでは、高圧下でのQNDEが可能であり、オンプロセスで形状・密度変化をモニタリングを行った。連続押し出し成形プロセスでは、センサー治具の最適化を行った。QNDEの対象となる評価項目に応じた評価装置・システムの開発を通じて、オンプロセスQNDE、計装化ツール、アレイトランデューサーなど新しい考え方を提出し、この新方式のセンシング法により、種々の粉末成形プロセスにおける成形体の非破壊定量評価が可能となることを示した。

審査要旨

 本論文は、主として粉体成形を対象として、超音波を用いたオフ・プロセスならびにオンプロセス非破壊定量評価法の開発に関してまとめたものであり、5章からなる。

 第1章は序論であり、非破壊定量評価の概略と現状、その中でも超音波を使用した非破壊定量評価の概略について述べ、本研究で開発した、今まで経験に頼っていた成形条件の変更を容易にする成形中の非破壊定量評価法システムと全数検査が可能となる簡便な成形後の非破壊定量評価法システムの意義を示している。

 第2章は、超音波定在波を利用したオフ・プロセス非破壊定量評価法の開発である。本音響法は、試料の定常振動に伴い発生する空中超音波測定により試験片の機械的弾性特性を評価する方法である。本方法は、試料の形状/寸法の影響を受ける反面、試料にセンサーを設置する必要がないため、接触条件の影響を考慮する必要がなく、表面の微小な傷が定在波に与える影響はほとんど無視することができ、また試料作成の際に表面粗さに配慮する必要がないという利点があるため、製品のオフプロセスでの全数検査を可能にし製品の信頼性向上に貢献することができることを指摘している。開発したシステムは、空中伝播する超音波の測定を行い、逆解析によって試料の弾粘特性を決定するものであり、種々の金属粉末焼結体・セラミックス粉末焼結体(モノリシック/コンポジット両タイプ)に適用し、その測定精度について3点曲げ法、シングアラウンド法との比較、検討を行い、測定手順が極めて簡便であるにもかかわらず、高速に、精度良くヤング率を求められることを確認している。また金属バルク材・金属粉末グリーン成形体のヤング率評価に関しても、本法の有用性を十分に明らかにしている。

 第3章はバッチプロセスで粉体成形するCIP(Cold Isostatic Pressing)成形における非破壊定量評価の提案である。CIPは高圧成形プロセスゆえ、従来は成形後の成形後の形状、密度測定のみ行われてきたが、最適なゴム型設計のためには、成形中において寸法・形状・力学的特性の変化を非破壊定量的に記述し、ゴム型設計へフィードバックを行うことの必要性を述べている。まず高圧プロセスでの測定で問題となる、センサーの耐圧性能・高圧下での性能、測定データの取り出し法などの問題を解決し、実際にゴム型による金属粉末成形中において、超音波の音速と到達時間より形状変化、音速より密度変化、散乱特性より試料構造を捕捉する評価システムの開発を行い、400MPaまで加圧可能なCIPに本システムを実装し、CIPにおけるオン・プロセス非破壊定量評価法の可能性を実証している。実際、超音波トランデューサーを配置したセンサーアレイを加圧媒体中に設置し、中央部に純度99.9%Alアトマイズ粉末の入ったゴム型を配置し、発信・発信トランデューサーを切り替え、成形圧力400MPaまでのCIP成形中に得られる波形を測定し、ゴム型を通して反射波形、透過波形を測定できることを確認している。さらに成形圧力と圧力媒体中音速の関係、試料中音速と試料相対密度の関係について定量的な評価を行い、1)CIP成形中の高圧下の環境でサンプルの形状寸法変化を精度良く測定し、2)サンプル中音速を精度良く測定でき、特に成形中のAl粉末成形体の相対密度変化を定量的に記述でき、3)回転ステージを用いた走査によって、散乱特性と内部構造の関係を定量的に評価する可能性を示している。

 第4章は、連続プロセスで粉体成形する押出しプロセスにおけるオン・プロセス非破壊定量評価法の開発である。まず可変押し出し速度でセラミックコンパウンドを連続的に成形できる押出し成形装置を開発し、実験規模で実プロセスにおける成形挙動をシミュレーションできることを示している。次いで、センサー治具に装着するセンサーを開発し、1)音響インピーダンスを整合させることにより金型の多重反射の影響を軽減できること、2)セラミックコンパウンドの流動変形をセンサー治具でオンプロセスで測定する上で、最適な超音波トランデューサー周波数が存在することを明らかにしている。その上で、実際にセンサー治具を開発し、それを上記の押出し成形シミュレータに実装し、1)透過波観測による音速測定から成形中のセラミックコンパウンドの密度と音速の関係が求められること、2)試料に欠陥の存在する場合、透過波形の振幅より、その存在を予測することができること、3)45度方向の透過波測定よりセンサーアレイの実装によるセンサー治具の有用性を実証している。

 第5章は総括である。

 以上を要するに、本論文では主として粉末成形プロセスの生産性・品質向上に貢献する超音波非破壊定量評価法の開発を目指し、超音波定在波によるオフ・プロセス評価法、CIP・押し出し成形プロセスに実装できる非破壊定量システムの開発を通じて、超音波測定に基づく多様な非破壊評価手法を実現するとともに、計装化ツール、アレイトランデューサーなどの新しい考え方を提出し、この新方式のセンシング法により、種々の粉末成形プロセスにおける成形体の非破壊定量評価が可能となることを明らかにしており、材料非破壊評価、生産科学への貢献が著しい。

 よって、本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。

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