本論文は,高分解能電子顕微鏡観察と電子顕微鏡像の計算機シミュレーションを用いて金属と酸化物の界面の構造を研究した成果をまとめたもので,全7章からなる. 第一章は緒言である.材料の実用においては異種材料間の接合が重要な技術であり,接合強度の予測・改善には界面の原子的・電子的構造の理解が必要であることを説明している.金属中に析出した酸化物粒子と金属との界面を高分解能電子顕微鏡観察するという本研究で用いた方法の意義を述べて,本論文の構成を示している. 第二章では,過去に行われた金属と酸化物セラミクスの界面の研究の概要をまとめている. 第三章では,高分解能電子顕微鏡の結像原理と,計算機による像シミュレーションの方法を説明している. 第四章では,MgO/Pd界面について,試料の作製法,観察された界面の特徴とそれに対する像シミュレーションによる解釈を述べている. 第五章では,ZnO/Pd界面について,試料の作製法,観察された界面の特徴とそれに対する像シミュレーションによる解釈を述べている. 第四章および第五章の研究で以下の点を明らかにした. (1)MgO/Pd界面の緩和構造 析出したMgO粒子は板状であり,このNaCl型構造のMgOと面心立方構造のPdの晶癖界面では,(111)MgO//(111)Pdであり,かつ[110]MgO//[110]Pdの方位関係であった.界面は原子レベルで平滑であり,間に別の化合物相を生じていない.格子ミスマッチは7.7%である.低倍の観察においてはミスフィット転位に対応するようなひずみコントラストは見られない.高分解能観察においては,(111)MgO//(111)Pd界面の緩和領域は,わずかに界面より第1層目のMgO,Pd層のみであることが示された.詳細に観察した結果,この界面には典型的なミスフィット転位は存在しないことを結論した. (2)MgO/Pd界面の化学組成および水素偏析による構造変化 MgOの(111)面はマグネシウム原子あるいは酸素原子のみが配列する極性面である.終端層がマグネシウム原子であるか酸素原子であるかを像シミュレーションによって結論するのは困難であったが,この界面に電解チャージ法で水素を偏析させて,界面の高分解能像においてコントラストの明瞭な変化として捉えることに成功した.シミュレーション像との比較から,界面の間隔の増加と電荷の移動が生じていることが示された.また,この水素偏析構造は熱に対して非常に安定であった.これは界面における酸素-水素ボンドの生成に相当しており,この界面が酸素元素終端であることを示していると結論した. (3)ZnO/Pd界面の緩和構造 ZnOはウルツァイト構造であり,析出物はディスク状である.層状に大きく成長する(0001)ZnO//(111)Pd[1120]ZnO//[110]Pd面(界面A)と(0001)ZnO//(111)Pd[1100]ZnO//[110]Pd面(界面C),ディスクの縁の部分に相当する(1101)ZnO//Pd界面(界面B)の3種類がある.観察投影面上で界面に沿った方向の格子ミスマッチは15%(界面A),13%(界面B),2%(界面C)である.(0001)ZnOと(111)Pdはいずれも最稠密面であり,界面A,Cでは,平滑でよく方位の定義された界面が得られた.界面A,Cにはミスフィット転位が存在しない.界面の緩和領域はMgO/Pd界面と類似している.界面BにはO格子モデルで予測される間隔で局在化したひずみを持つ典型的なミスフィット転位が観察された. (4)(0001)ZnO//(111)Pd,[1120]ZnO//[110]Pd(界面A)の化学組成 ZnOの(0001)面では,界面でのボンドの方向を考慮すると,全部で4通りの酸素-亜鉛終端層モデルが考えられる.像シミュレーションではこの4種類は特徴的な差が見られ,高分解能像との比較により,亜鉛原子が終端の場合と酸素原子が終端の場合の両方が存在することが結論された.内部酸化法で作った金属/酸化物界面においても,金属が終端層の場合があることを示した最初の例である. 第六章では,ZnO/Pd界面を電子顕微鏡中で加熱してその場観察した結果を述べている. 界面Bでは,熱応力によってミスフィット転位が移動することを実験的に明らかにした. 第七章は総括である. 以上を要するに,本論文は内部酸化法で作成した金属/セラミクス界面について高分解能電子顕微鏡観察,電子顕微鏡像シミュレーションを行って,異相界面において両相の稠密面どうしが接合するときには界面は1原子層程度の狭い緩和領域を持つのみであり,界面とそれぞれの稠密面とが大きな角度をなすときには典型的なミスフィット転位が存在することを示すとともに,高温観察によりミスフィット転位が熱応力を緩和し得ることを示したものである.これは異種材料の接合強度の理解の進歩に寄与するところ大である. よって,本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる. |