本論文は、連続繊維強化セラミックスにおけるマトリックスの初期破壊からクラックブリッジングに至る過程で生じるマトリックスの微視破壊現象を、界面の力学特性、繊維の幾何学的配列などに着目して調べ、連続繊維強化セラミックスのマトリックス初期破壊応力向上に必要な材料学的要因を明らかにしたもので、全文は6章より成る。 第1章では、従来の研究結果を整理し、連続繊維強化セラミックスのノッチ敏感性、非線形変形挙動といった力学的な特徴は、マトリックスや界面の破壊が累積的に起こり、損傷が蓄積されることで達成されることを詳細に記述した。その結果をもとに、連続繊維強化セラミックスの破壊過程、クラック-繊維相互作用、破壊抵抗の定量的評価の必要性を指摘するとともに、本論文の目的を述べている。 第2章、第3章では、積層モデル材料を用いてマトリックス中の初期クラックの破壊からマトリックスクラックが繊維に到達するまでの過程を考察している。 第2章では、クラック周囲応力場の有限要素法解析を行い、クラック安定性に与えるクラック-繊維相互作用の影響を明らかにしている。すなわち、マトリックス初期クラック進展抵抗を大きくするには、繊維とマトリックスのヤング率比を大きくすること、繊維間隔が初期欠陥より大きい範囲では、繊維間隔を小さくすることが有効であることを明らかにしている。また、界面での応力分布を求めることにより、マトリックス中に生じたクラックが界面に到達する過程は、界面のせん断剥離を伴う場合、界面の引張剥離を伴う場合、界面剥離を伴わない場合の三種類に分類できることを示した。これらの結果をもとに、クラックの安定性にはクラックが界面に到達するまで界面剥離が生じないことが必要であることを明らかにしている。 第3章では、PMMAとガラスの積層複合材料を作製し、その破壊過程を観察することにより第2章の結果を実験的に検証している。レーザーコースティックス法を用いてクラック先端部での応力拡大係数を求め、負荷荷重から求められる応力拡大係数と比較し、高いヤング率を持つ強化相によるクラックの拘束効果により積層複合材料では見かけの破壊靭性値がクラックが界面に近づくほど大きくなることを検証している。同時に、破壊挙動のその場観察からクラックは界面剥離の発生により安定性を失うことを検証した。さらに、有限要素法解析を用いて界面のはく離応力を求め、界面はく離のクライテリオンとしての使用を検討している。 第4章では、連続SiC繊維強化PMMAモデル複合材料およびガラス繊維強化PMMAモデル複合材料を用いてクラックが繊維を通過する過程をその場観察し、クラック-繊維間相互作用は、繊維による弾性拘束、界面の部分剥離による弾性拘束の開放、クラックボウイング、クラックブリッジングの順に働くことを明らかにしている。 第5章では、繊維体積率が一定で繊維直径の異なる連続炭素繊維強化PMMAモデル複合材料を用いて多数本の繊維の場合の相互作用を実験的に調べ、繊維配列のクラック安定性に及ぼす影響を調べるとともに、マトリックス初期クラックが繊維にブリッジされたクラックに成長する条件を調べている。同時に、クラックボウイング、クラックブリッジングによる高靭化を定量評価している。 第6章は論文全体を総括したものである。 以上、本論文は、連続繊維強化セラミックスにおいて複合効果を最大限に発揮させ、マトリックスの初期破壊の成長を妨げるための条件として、ヤング率の大きな繊維の複合化、クラックが繊維に到達するまで剥離しない界面、内包欠陥程度の繊維間隔、大きな直径をもつ繊維の複合化が必要であることを提案したものであり、複合材料工学に寄与するところが大きい。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と誌められる。 |