気液固三相反応器は気相、液相及び固相の各相間で相互作用があるため、層内の流動状態は空間的、時間的に不均一で非常に複雑となる。本論文は三相系反応器の非線形流動挙動の決定論的カオス解析を行い、流動構造との関係について考察したものである。本論文の構成は6章から成っている。 第1章では、本研究の目的および位置づけが述べられている。 第2章では、三相反応器の流動特性に関する既往の研究がまとめられている。 第3章では、カオス的挙動は相空間のアトラクターによって表されるが、アトラクターのキャラクラリゼーション因子である相関次元およびコルモゴロフエントロピー(以下K-エントロピー)などの定義およびその計算手法がまとめられている。また、本論文で開発したパルス状あるいはスパイク状の時系列データに対する埋め込み法によるカオス解析手法について述べられている。 第4章では、まず既往のカオス流動解析の研究がまとめられているが、従来用いられている圧力変動の信号が層全体で多くの情報が重ね合わさったものであり、各相の局所の流動挙動を把握することができないという欠点があることを指摘している。その上で、三相反応器の局所気泡および粒子挙動を測定できるレーザー光プローブを開発し、このプローブにより得られる時系列信号の信号処理方法および相関次元、K-エントロピーの計算手法をまとめている。 第5章では、二次元三相反応器の気泡および粒子ホールドアップの局所変動を開発したプローブにより測定し、カオス解析を行った。分離した粒子および気泡頻度の時系列データから埋め込み法によりアトラクターを再構成し、それぞれについて相関次元およびK-エントロピーを求めガス流速および粒子の影響を調べている。 系の時間発展性の特徴を示すK-エントロピーは気相および固相の両相で測定したガス流速の範囲で正の値を示し、気泡および粒子の挙動はカオス的であることが示された。気相の相関次元は、ガス流速が増加するにつれて増加するが、気泡流からチャーン・タービュレント流へ気泡の流動様式が遷移する領域で最大となり、その後、ガス流速を増加すると減少することが分かった。気泡流の領域では、ガス流速の増加により分散した気泡の個数が増加するため気泡の運動がより複雑になり、この結果、相関次元が増大したと考えられる。一方、チャーン・タービュレント流の領域では、合一によってより大きな気泡が生成するため、気泡の上昇速度が増大しより直線的な軌跡になるため相関次元がガス流速とともに減少したと考えられる。粒子相の相関次元に対するガス流速の影響は、低ガス流速を除いてほぼ気相と同様であった。 一方、気泡塔と三相反応器の気泡挙動を比較すると、5%の粒子の存在によって相関次元およびK-エントロピーはともに大きく増大することを見いだした。これは粒子と気泡の相互作用により気泡の運動がより不規則に、複雑になったためと考えられる。 第6章では、三次元三相反応器における気泡および粒子の局所ホールドアップの時間変動をレーザ光プローブにより測定し、二次元装置と同様にカオス解析を行い、相関次元とK-エントロピーによる非線形流動挙動のキャラクタリゼーションを行った。ガス流速および粒子濃度の影響、相関次元の軸方向分布について調べている。 三次元三相反応器においても気相の相関次元はガス流速に対し二次元の場合とほぼ同じ傾向を示した。一方、粒子の相関次元は、ガス流速に対する依存性は弱いことを見いだした。また、気泡のK-エントロピーも二次元の場合と同様、粒子のK-エントロピーより大きく、ほぼガス流速の増大とともに低下することを明らかにした。相関次元に対する粒子濃度の影響は顕著で、低ガス流速での気相を除いて、粒子濃度が1%から5%に増大すると気相および固相の相関次元はほぼ1程度小さくなることを見いだした。これは粒子濃度の増加によって見かけ粘度が増大し気泡および粒子の運動が抑えられるためと考えられる。 軸方向の相関次元の分布は気泡流動様式によって異なり、気泡流では塔の中央付近で相関次元は最大となるが、チャーン・タービュレント流では逆に中央で極小値を示した。これは気泡同士あるいは気泡と粒子の相互作用による気泡の運動の複雑化と気泡の合一による相関次元の低下で説明できることを明らかにした。 終章では本論文で示された三相反応器の気泡および粒子の非線形流動挙動に関して総括されている。また、相関次元およびK-エントロピーで定量化した流動の複雑さに基づく新しいスケールアップ手法の可能性と展望が述べられている。 以上に示すように、本論文は三相反応器の非線形流動挙動の新しい解析手法を開発したものであり、三相反応器の基本的な特性を理解する上で、および新たなプロセス設計・スケールアップ手法を開発していく上で大きな貢献をするものである。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |