本論文は「フェライト化による有害金属含有廃棄物の安全化処理に関する研究」と題して、フェライト化法の有害金属廃液の安全化処理への適用を明らかにすることを目的とし、フェライト生成および生成フェライトの評価に関する研究成果をまとめたもので、6章から成っている。 第1章は序論で、有害金属含有廃棄物処理に関する問題点を指摘し、その1つの解決法であるフェライト化法について概説するとともに、フェライト化反応に関する既往の研究についてまとめ、フェライト化の理論と最適フェライト化条件との関係、フェライト生成における金属イオンの適用範囲およびフェライト結晶中での金属イオンの固溶限界など未解明な検討課題を挙げ本論文の位置づけを明らかにしている。 第2章では、フェライト化反応の最適条件と適用範囲について検討した結果をまとめている。フェライト化反応に影響をおよぼす因子として、R値(水酸化ナトリウム/鉄イオンのモル比の2倍値)、pH値、反応温度、反応時間をとりあげ、それらについて詳細な検討を加えた結果、最適条件は、pHが急激に変化するR値において得られ、従来最適といわれてきたpH9〜11の範囲とは必ずしも一致しないこと、また、その最適R値は鉄イオンを生成する鉄塩によっても異なることを明らかにした。さらに、Cd2+、Cu2+、Pb2+のフェライト化反応においては、それらのイオン濃度が4000ppmまではフェライト生成、すなわち、フェライト化処理が可能であることを示している。 第3章では、アンチモンのフェライト化反応について検討した結果をまとめている。アンチモンはバーゼル条約における規制物質であるが、適当な処理法が無く、また、従来フェライト化処理が不可能な金属として知られてきた有害金属である。アンチモンの3価および5価のイオン溶液のフェライト化反応を詳細に検討した結果、初期濃度が100ppm程度までは、フェライト化反応が進行し、フェライト化処理が可能であることを明らかにするとともに、3価および5価のアンチモンイオンの固溶限界値あるいは吸着限界値が、75ppmおよび100ppmであることを示している。 第4章では、テルルのフェライト化反応について検討した結果をまとめている。テルルもアンチモン同様、バーゼル条約における規制物質であるが、適当な処理法が無く、また、従来フェライト化処理が不可能な金属として知られてきた有害金属である。このテルルの4価および6価イオンの溶液のフェライト化反応を詳細に検討した結果、初期濃度が25ppm程度までは、フェライト化反応が進行し、フェライト処理が可能であることを明らかにするとともに、4価および6価のテルルイオンの固溶限界値あるいは吸着限界値が、それぞれ25ppmであることを示している。 第5章では、フェライト化法により処理されたアンチモンおよびテルル含有フェライトスラッジの溶出特性についてさらに詳細に検討した結果をまとめている。酸性(pH1)から塩基性(pH13)までの広いpHの範囲での溶出試験をアンチモンおよびテルル含有フェライトスラッジに適用した結果、pH3〜pH5の範囲内ではアンチモンおよびテルル含有フェライトスラッジは、その溶出イオン濃度がいずれも10ppb以下であり、十分安定な状態であることを示している。また、アンチモン含有フェライトスラッジは、pH2以下およびpH10以上でその溶出イオン濃度が20ppbを越えること、一方、テルル含有フェライトスラッジは、pH2以下およびpH7以上で再溶出の傾向が認められ、特に塩基性側での再溶出濃度が大きくなることを見出している。通常のフェライト化合物と異なり、酸性および塩基性の両条件において再溶出が見られることについては、アンチモンの場合はその両性の性質のため、また、テルルの場合は、スピネル構造に取り込まれずに吸着されている状態であるためと説明している。 第6章は本論文の総括であり、本論文で得られた成果をまとめている。 以上要するに、本論文は金属のフェライト化固定処理について、これまで十分に解明されていなかった、フェライト化の理論と最適フェライト化条件との関係、フェライト化の適用範囲等に関し新しい知見を与えたものであり、環境安全工学ならびに化学システム工学の発展に寄与するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |