本論文は、「La2126およびLa214系単結晶の精密組成制御と異方性」と題し、La系酸化物高温超伝導体の良質単結晶を育成しその化学組成を精密に調製することによって、常伝導状態および超伝導状態における電磁特性とくに電磁異方性を制御することが、科学的および工学的見地からきわめて重要であることを明らかにした一連の研究結果をまとめたものである。 本論文は5章から構成されている。 第1章では、論文全体にわたる背景となる、銅酸化物高温超伝導体の概略的なレビューに続き本論文の目的と構成が述べられている。銅酸化物高温超伝導体の結晶構造や電子状態、磁場中における振る舞い、および第2、第3章で詳細に取り扱う高温超伝導体(La1-xAx)2CaCu2O6[A=Ca,Sr](以下、La2126と略す)が有する特徴について、現時点で一般的に理解されていることが述べられている。 第2章の前半では、La2126大型単結晶の最適育成条件を確立したこと、また後半では、これらの育成単結晶の組成分析や結晶構造に関わるキャラクタリゼーションの結果が述べられている。浮遊溶融帯域移動(TSFZ)法によるLa2126単結晶の最適育成条件を確立するため、育成雰囲気、溶融帯組成、および育成速度の3つのパラメータを変化させて行われた結晶育成の実験結果が順に示されている。最適育成条件探索の結果、La2126単結晶は極めて限られた条件(育成雰囲気、溶融帯組成、育成速度)でのみ育成可能であると結論された。後半のキャラクタリゼーションでは、最適育成条件で育成されたLa2126のCa固溶体とSr固溶体のそれぞれについてEPMAによる組成分析が行われた。その結果、Sr固溶体の方がCa固溶体に比べ固溶域が広く固溶状態も均質であることが明らかにされている。CaとSrの固溶状態の差は電気抵抗率や磁化率にも観測され、精密に組成制御を行った単結晶による異方性測定を目的とした本研究において、Sr固溶体を用いることがより有利であるあると結論された。 第3章では、Sr固溶体La2126の異方的電気・磁気特性が示され、その異方性についてキャリア量および結晶構造の2点からの検討が述べられている。高酸素圧アニールにより超伝導化したLa2126単結晶の電気抵抗率測定、および磁気トルク測定の結果、異方性の指標となる異方性パラメータは超伝導状態、常伝導状態とも同程度であることがわかり、常伝導状態の異方性が超伝導状態においても持続していることが示された。また、ab面内の電気抵抗率、c軸方向の電気抵抗率とも金属的な温度依存性を示した。ドーピング状態の検討を行った結果、La2126は高酸素圧アニールで過剰酸素が導入され、Sr固溶量から予想される以上のドーピング状態が実現していると結論された。さらに、La2126の最適ドーピング近傍のc軸電気抵抗率の温度依存性は(La1-xSrx)2CuO4(以下La214と呼ぶ)のそれと同程度であることが示された。La214とLa2126は単位格子当りのCuO2面数や臨界温度Tcは異なるが、(La,Sr)2O2ブロック層は互いに共通である。同様の傾向がいわゆるBi2201系とBi2212系化合物の間にも存在することから、最適ドーピング状態における高温超伝導体のc軸方向の抵抗率はブロック層により決定されていると結論された。 第4章では、主にオーバードーピング域(x>0.075)のLa214単結晶の含有酸素量の精密制御を行い、そのドーピング域特有の磁化異常(ピーク効果)と酸素量との関係を定量的に示し、ピーク効果の起源についての検討が述べられている。各酸素圧アニールにより、含有酸素量を変化させたLa214単結晶試料について、それぞれのTCで規格化した還元温度T/Tc=一定の条件での磁化ヒステリシス曲線から、試料中の酸素欠損領域はピーク磁場より低磁場側で有効な磁束のピン止め中心として作用し、第2ピーク効果発現に直接的に関与していることが明らかにされた。他の高温超伝導体のピーク効果と比較検討の結果、La214のピーク効果は、酸素欠損やSrイオンの不均質分布領域で磁場誘導型のピンが発生し、磁束が効率的にピン止めされることにより発現する現象であると結論された。 第5章では、研究成果が総括され、あわせて今後の検討課題が述べられている。 以上、本論文は、La系高温酸化物超伝導体の良質単結晶を育成しその化学組成を精密に調製することによって、常伝導状態および超伝導状態における電磁特性とくに電磁異方性を制御することが、科学的および工学的見地からきわめて重要であることを明らかにしたものであり、その成果は、今後の高温超伝導材料の基礎的・工学的応用の進展に寄与するところが大きい。 よって本論又は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |