多くの人口が都市部に居住する状況にあって、環境への負荷が小さく、同時に良好な環境を維持した都市を創っていくことの重要性は大きい。しかしながら、これまで都市建設及び都市活動が環境に与える負荷については十分に把握されてこなかった。とりわけ、都市整備に伴う環境負荷については、用いられる原材料や工事に伴う環境負荷を把握することがこれまで行われていなかった。本研究は、ライフサイクル分析の手法を取り入れることによって、より環境への負荷の小さい都市を創っていくための方法を提示するものであって、これからの都市環境計画の新たな方向性を示すものである。 本論文は「ライフサイクル分析を援用した都市環境計画」と題し、全8章である。 第1章は「緒論」で、本研究の背景、目的、意義について述べている。 第2章は「地球環境問題と都市環境評価手法」で、本研究の背景にある地球環境問題について整理すると共に、これまで用いられてきた都市環境の指標についてその概要を示すと共に、その課題を示している。また、本研究の主たる手法になっているライフサイクル分析について、その歴史と現状をレビューしている。 第3章は「都市を対象としたライフサイクル分析手法の検討」である。ライフサイクル分析を都市のように非常に複雑なシステムに適用する場合には、従来ライフサイクル分析の主たる対象になってきた工業製品の場合に用いられた手法を参考にしつつも、修正が必要である。本章では、産業連関方式と積み上げ方式の組み合わせによりライフサイクル分析を行い二酸化炭素排出量を求める方式をもっとも妥当な方法として提示している。この方法では、建設に関連する素材を積み上げ方式によって詳細に求め、素材毎に産業連関方式等で別途求められている二酸化炭素排出原単位を乗じ、それらを加算していくことによって総環境負荷を求めることになる。この考えはインフラストラクチュア解析にあたって妥当な考えであり、他の研究者からも支持されている。 第4章は「CO2排出抑制対策技術のライフサイクル分析」である。この章では、都市インフラストラクチュアを構成する個別の技術に対するライフサイクル分析を行った結果を示している。特に地域冷暖房システムについては、実際の建設工事の仕様書に基づいた詳細な解析を行っており、貴重な結果を示している。そして、環境負荷軽減とコストの面からそれぞれの技術の導入可能性を比較・検討している。 第5章は「ニュータウン建設にともなうCO2排出量のライフサイクル分析」である。ここでは、実際に建設中のニュータウンを対象にし、造成段階、建築段階、供用段階に分け15年間の供用期間を想定して詳細な解析を行っている。造成段階は全体のCO2排出の13%を占め、そのなかでセメント由来のCO2排出が大きいことを明らかにした。コスト面ではセメント関連の資材はそのように圧倒的な比率を占めておらず、費用面での造成工事の最適化がCO2排出面での工事の最適化と異なることが示唆された。建築工事に伴い発生するCO2も大きくこれも主として資材由来である。供用時のCO2排出は全体の63%にも達し、その内訳は冷暖房28%、照明・動力25%、交通8%ほかとなっており、これらのエネルギー節減がやはり重要であることが示されている。ニュータウン全体を対象にして、しかも実際の詳細な実施計画書を元にライフサイクル分析を行った例は国の内外を通じてほとんどなく、きわめて貴重な成果であるということができる。 第6章は「ニュータウン建設にともなうCO2排出の抑制方法の評価」である。前章での現状解析を踏まえ、どの程度のCO2排出の削減がニュータウンで達成されるかを、比較的容易な対策から大規模な地域冷暖房導入まで、実際にこのニュータウンに導入する際の設計を行った上で解析している。その結果から、様々な技術を(1)CO2排出削減効果は小さいがコストの削減にもつながる技術(造成時の工法変更など)、(2)CO2排出削減効果は大きいがコスト面で導入が困難な技術(地域冷暖房、太陽光発電システム)、(3)CO2排出削減効果が大きくコスト面でも導入可能だが効用が異なる場合(集合住宅の増大)に分けて整理している。実際のライフサイクル分析に基づく対策の整理は環境負荷の小さい都市づくりを今後行っていく上で重要である。 第7章は[地球環境都市の実現化方策]である。ここでは、実際の都市のプランニングぷろせすへのライフサイクル分析の導入可能性を論じ提案を行っている。 第8章は「結論」であり、成果を総括すると共に、今後の課題を抽出している。 地球環境を念頭においた都市環境計画の必要性は数多く指摘されるようになってきたが、都市の環境負荷を具体的な推定というもっとも基本的な研究が従来行われてこなかった。本研究ではその膨大な解析をあえて行うと共に、環境負荷低減の代替案を検討し、さらに都市環境計画におけるライフサイクル分析の有効な活用法についても示唆を与えており、新しい都市環境計画を実現していく上での大きなステップになったといえる。よって本論文は都市環境工学の発展に大きく寄与するものであり、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |