本論文は、「製造指向CADにおける設計代案の生成と評価」と題し、溶接工程により製作される機械製品を対象として、部品の基本設計に基づき、溶接工程上の制約を満たすように、部品製造の工程設計案や部品詳細形状案を、設計代案と称して、複数個自動生成して設計者に対して提示できるようにしたもので、設計者がそれに基づき製品製造性を容易に評価することを可能としたものである。 設計生産システムにおいては、設計から始まりすべての技術作業を統合し、計算機で支援することによって生産性の向上が期待される。設計過程においては、製造工程上の制約条件を検討して、その結果を設計へ反映することが重要である。すなわち、製造工程から許容される設計の自由度が設計者から明確に認識できると、設計誤りに起因する製造の不具合いを回避することができ、設計工程を効率化できる可能性がある。そこで、本研究は、設計者支援のために、製造工程に由来する制約条件を満たすような複数の設計代案を生成することを目的とする。設計者は、設計代案から適切な設計を選択することにより、製造工程上不具合のない設計を行なう事が出来る。製造工程としては溶接工程を適用する部品を対象とする。設計代案を生成するために、特徴モデリングとルールベースによる溶接部品の溶接素材への分割支援、および溶接部詳細形状の生成方法を提案する。また、これらの方法によって生成された設計代案を評価するために、設計案から溶接工程計画を生成する方法を提案する。 本論文は6章よりなり、その概要は以下のようである。 第1章は序論であり、上に説明したような本研究の背景、目的、解決すべき課題を述べている。 第2章は、設計代案生成の考え方やその実現の基礎となる特徴モデリングやルールベースシステム、グラフ表現を用いた工程計画手法などについて、現状の研究を展望し、本研究の考え方を述べている。 第3章は、特徴モデリングによる溶接部品の溶接素材への分割手法について詳述している。溶接部品は素材の組合せで構成されているので、溶接工程計画のためには、素材への形状分割問題を解く必要がある。溶接素材に特有の形状を表現する特徴モデリングを基礎として、素材は基本的に凸形状であると考えて形状分割を行なう。そのため、溶接による面接続特徴を溶接素材部品が接合して出来る凹稜線の型により5種類に分類し、また、面接触特徴を分割される二つの素材形状から4種類に分類する。溶接部品の形状分割を、面接続特徴と面接触特徴の分類を自動認識することによって実行する。 第4章は、分割された溶接素材の溶接部分について、溶接工程知識と溶接継手の形状との関係に注目して、分割形状から、溶接される部分の溶接技術上の特有な詳細形状を生成するためのルールを構成し、詳細形状の自動生成を可能とする手法について述べている。ルールを、接触面を基準とするルールと溶接外周ループを基準とするルールに分けて管理する。接触面を基準とするルールは、分割形状に対する形状変更や干渉回避などを実行する。接触面の外周ループは実際に溶接形状を生成する時の基準になる。このルールによって、溶接技術に合わせた特有の溶接継手形状が生成される。 第5章は、分割された溶接詳細形状から構成される設計代案を評価するために、溶接素材の接続関係を表すグラフの関節点分割による溶接工程計画の生成と評価方法を提案している。溶接工程計画に基づき、部品製作に必要な溶接の手間を評価することにより設計代案の評価が可能となる。そのために、まず、溶接部品の分割形状からなる溶接素材接続グラフの関節点を基準にして分割した後、元のグラフを部分グラフの和で表現することによって、溶接工程の作業単位を生成する。溶接部品の工程計画は、この作業単位間の順番付けとして構成される。生成された溶接工程計画の実行容易性を評価するために、部品と溶接軌道との干渉、溶接方向の法線ベクトルの変化、面接触特徴、溶接継手加工量と溶着金属量などを算出する。 第6章は、第3章から第5章の成果をまとめた結論、および今後の研究の展望について述べている。 以上をまとめて、本論文は、部品の基本設計からその製造のための溶接工程による制約を満たすように設計を詳細化した複数の設計代案を自動生成することにより、設計における製造性評価を向上させたものである。本論文の成果は設計生産の計算機支援において有効であり、先端学際工学の今後の発展に寄与するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |