学位論文要旨



No 112662
著者(漢字) 加藤,悟
著者(英字)
著者(カナ) カトウ,サトル
標題(和) 廃棄物処理・リサイクルシステムにおける環境政策の評価に関する研究
標題(洋)
報告番号 112662
報告番号 甲12662
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(学術)
学位記番号 博工第3940号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 廣松,毅
 東京大学 教授 児玉,文雄
 東京大学 教授 花木,啓祐
 東京大学 助教授 梶井,克純
 東京大学 助教授 丸山,眞人
内容要旨 1.概要

 本論文では、現代の我が国における一般廃棄物の処理とリサイクルを対象として、環境政策の影響や効果について分析を行い、分析によって得られた知見等に基づき提言を行った。主な内容を下に示す。

 ・廃棄物処理・リサイクルに関する歴史や現状の法制度、政策のレビュー

 ・原油輸入価格の変化が、国内経済全体、家計消費、廃棄物発生量に与える一連の影響

 ・我が国の廃棄物処理・リサイクルシステムのライフサイクル評価

 (ライフサイクルコスト、ライフサイクルCO2等)

 ・ライフサイクル評価から見た廃棄物処理・リサイクルシステムのオプション比較

 ・廃棄物関連からみた施設の立地計画、リサイクル推進施策、環境税の評価

 ・これからの廃棄物処理・リサイクルシステムのあり方に関する提言

2.廃棄物処理政策に関するレビュー

 我が国における廃棄物政策の歴史とそれらの背景について、表1に示した。明治33年の「汚物掃除法」によって、汚物収集と処分が市町村の義務となった。また、昭和46年の「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」によって、産業廃棄物の事業者責任が明確になった。最近においては、資源保全と環境問題への対応からリサイクルの必要性が高まり、関連の法律が施行されたり、従来の法律の改正が行われた。

 それと平行して、廃棄物分野に対する経済的手法の検討がなされ、リサイクルによって発生する費用の負担と、各主体の役割の分担の議論が高まっている。

表1 我が国における廃棄物処理の法制度とその背景
3.原油輸入価格の廃棄物分野に与える影響

 原油輸入価格が、国民経済全体、家計消費、廃棄物発生量それぞれに与える影響の分析を行った(分析結果:図2(後出)を参照)。各変数間の関係については、毎年のデータから求める対前年度変化率に着目し、2変数間の回帰計算に基づいて弾性値を用いた。

 原油輸入価格と国内総支出のそれぞれの内訳の関係式は、

 (国内総支出内訳の変化率)=ai×(原油輸入価格変化率)+(ダミー変数)+(切片)とした。ここで、ダミー変数は、第一次オイルショックの前後で変化させた。

 民間最終消費支出と家計消費内訳との関係式は、

 (家計消費支出内訳の変化率)=bi×(民間最終消費支出内訳)+(切片)とした。家計消費支出内訳と廃棄物発生量との関係式は、

 

 と設定した。ただし、廃棄物発生要因費目は、食料、衣服履物、教育、教養娯楽、その他の5費目を想定した。kは廃棄物発生総量を家計消費支出額で割ったものの平均である。昭和38年から平成3年までのデータで分析を行った。

図1 一般廃棄物の処理フロー

 我が国における一般廃棄物の処理フローを図1に示した。図の中の記号は、=中間処理率、=資源回収率(集団回収率)、=中間処理残渣発生率である。これらのパラメーターから、ごみ排出量と最終処分量の関係を式で示し、それらを用いると、

 

 となる。に実績値を代入した。さらに、次の式で示される関係も明らかになった。

 (中間処理率の変化率)=e×(廃棄物処理量あたりの経費)+(切片)

 これら相互の弾性値関係から、原油輸入価格が対前年度比10%上昇した場合の影響を図2に示した。このとき、生活廃棄物発生量は0.33%減少するが、中間処理に対する公共投資も減少し、最終処分量はほとんど変化しないことがわかった。

図2 原油輸入価格が消費-廃棄システムに与える影響
4.廃棄物処理・リサイクルシステムのライフサイクル分析

 廃棄物処理・リサイクルシステムについて、建設時からのコストと、二酸化炭素排出量を推計した。建設時の二酸化炭素排出量は、産業連関分析による原単位を用いて金額ベースで評価した。この分析のフレームワークを図3に示した。

 回収については、石川雅紀氏の「グリッドシティーモデル」をそのまま採用した。中間処理(焼却)については、設計規模を求めた後、土木建設工事等で用いられている0.6乗則(経験則)を用いた。輸送については、輸送車の積載可能量と輸送距離によって算出した。リサイクルプロセスについては、公表されたデータが少ない中、(株)野村総合研究所の報告書のものが透明性が高いので引用した。輸送や最終処分については、既存の研究を参考にしながら独自に算出した。最終的に、システム全体の評価方法を構築した。

図3 システムのライフサイクル分析のフレームワーク

 コストの費目は、減価償却費、利息、補修費、保険料、人件費、一般管理費等である。これらのコストを、産業連関表細分類と整合性がとれるように加工し、コストに二酸化炭素排出原単位を乗じ、直接投入資源についても二酸化炭素排出原単位を乗じ、加算することで二酸化炭素排出量を推計した。

 分析対象とした廃棄物処理・リサイクルオプションを表2に示し、コスト分析の結果を図4に、二酸化炭素排出量分析の結果を図5に示した。この分析で想定したモデル都市は、人口32.3万人、面積385km2の大都市、焼却工場数5つ、回収ステーション5万箇所、回収頻度を年間100日とした。

表2 分析対象とした廃棄物処理・リサイクルシステムのオプション図4 コスト分析結果
5.環境政策の影響分析

 ここでは、4.の分析モデルのパラメーターを変化させて、さまざまな分析、考察を行った。主な結論を示すと次のようになる。

 <焼却工場数>清掃工場数が増加すると焼却工場の減価償却費が上昇するが、収集運搬コストは減少する。今回のモデル都市では3工場が最適解であり、1工場あたり934t/日、約100万人の処理対象人口であった。農村部だと、もう少し小規模な工場が最適解となる。

図5 二酸化炭素分析結果

 <リサイクル施設配置>素材ごとのリサイクル対象品目は少ないので、これらを効率よくリサイクルするには、収集や輸送の早い段階で減容化を図り、大規模工場まで輸送するのが望ましい。缶、びんともに前処理を適切に行った場合、往復で400kmがブレイクイーブンとなり、これより長距離輸送ならば、近くに工場を建設した方がよいことになる。

 <分別排出率>リサイクル処理計画量に満たない量しか回収されない場合は、コスト全体に占める減価償却費の割合が高くなり、処理費用単価が急増する。再資源化工場を建設した場合には、回収ステーションを増やしたり、回収頻度を上げるなど収集サービスレベルを上げても、再資源化工場での費用低減効果の方が大きくなる。

 <炭素税>炭素税が直接廃棄物発生量抑制に与える効果は小さい。しかし、リサイクル施設の建設整備促進に効果がある。特に、プラスチック再資源化施設で効果が大きい。

 <ごみ発電施設>発電機を付加する必要があり、そのコストは高く、経済的にはあまりメリットがない。熱利用も図るなどトータルなエネルギー利用の視点が必要となる。また、二酸化炭素ベースでみると3〜4年で初期投入分が回収され、環境保全の効果はある。

 <減容器付き収集車>収集車に簡易の減容器をつければ収集効率は向上する。この導入によって、収集速度が低下したり、付加費用がかなり高くてもかなりの効果がある。リサイクルプロセスでも、前処理が不要になるので、実現可能性が高いと考えられる。

 <プラスチックの処理>最終処分場コストを容量ベースで評価すると、減容してないプラスチックの最終処分コストはかなり高額になる。さまざまな事情から埋め立てざるをえないところでも、減容化する必要がある。

6.まとめと提言

 現在のリサイクルのネックになっているのは経済性である。いかに効率よく、廃棄物処理・リサイクルを行うかをトータルに考える必要がある。これらの問題を解決するためには、効率的な廃棄物処理・リサイクルシステムの計画と設計、環境税などによるリサイクル型社会基盤整備の推進、携わる各主体の役割分担と費用負担による経済的インセンティブの活用が必要となる。

審査要旨

 本論文は、現代のわが国における一般廃棄物処理とリサイクルを対象として、環境政策の影響とその効果について分析を行い、分析によって得られた知見に基づき提言を行っている。

 本論文は5章からなる。

 第1章では、廃棄物処理・リサイクルに関する現状と現在の政策と法制度について概観している。

 第2章では、原油の輸入価格の変化が、国内のマクロ経済や家計消費に与える影響、およびそれが最終的に廃棄物発生量に与える影響を統計的に分析している。その結果、原油価格が10%上昇すると、民間最終消費支出が0.32%減少し、最終的な廃棄物発生量は0.33%減少するということ、またわが国の中間処理率はある程度の水準にまで達しているものの、公共投資が中間処理率の一層の向上に寄与しうることを指摘している。しかし同時に、中間処理率の向上には限界があることから、廃棄物の発生源対策の重要性も論じている。そのための政策手段として、エネルギー税等による消費の削減効果が有効といわれているにもかかわらず、その効果はあまり高くないことを明らかにし、税等による環境政策は税収をどのように用いるかが重要であることを論じている。

 第3章では、わが国における廃棄物処理・リサイクル・システムをそのプロセスに応じてモデル化し、必要なコストと発生する二酸化炭素の量を定量的に評価することによって、廃棄物処理・リサイクルの手法の比較を行っている。具体的に、上記システムを構成する収集システム、運搬システム、焼却システム、リサイクル・システム、最終処分(埋立)システムを対象として、システム構築時の施設建設時も含めてモデル化し、コストと環境負荷の代表として二酸化炭素の排出量の算定を行っている。評価するオプションとしては、収集時の分別方法・処理方法が関係はするが、ここでは混合ごみ焼却、可燃ごみ焼却、缶・びんリサイクル、缶・びん・PETトレーリサイクル、缶・びん・リサイクル+プラスチック油化について、それぞれごみ発電を導入する場合としない場合の10通りである。この分析によって、年間の費用が少ないのは、缶・びん・PETトレーをリサイクルする場合であることを明らかにしている。

 第4章では、前章のモデルを基礎に、廃棄物処理・リサイクル施設の立地(配置)計画、分別排出の重要性、炭素税が施設設備に与える影響を分析している。その結果、まず大量消費・大量廃棄されるものの処理については、大規模な施設での効率よい処理が、そしてリサイクル処理の場合は、減容化などの前処理と再資源化などの後処理のうち、前処理はできる限り廃棄物源の近くで行うことが重要であることを指摘している。また炭素税等の導入は、廃棄物削減効果は小さいものの、プラスチック・リサイクル導入のインセンティブとなることを指摘している。さらに、ごみ発電について、現状の売電価格、発電効率では、発熱量によらずコスト的には成立しないこと、しかし二酸化炭素排出抑制の視点に立てば、約3年で建設時の二酸化炭素排出量が償却され、その後は効果があることを明らかにしている。最後にプラスチックの直接埋立は、最終処分場の建設コストを考慮すると必ずしも合理性はなく、焼却またはリサイクルを行わない(行えない)場合には、減容化が必要であることを主張している。

 第5章は、まとめとして、現在のリサイクルの障害となっているのは経済性であり、いかに効率よく廃棄物処理・リサイクルを行うかを総合的に考える必要があることを指摘するとともに、これらの問題を解決するためには、効率的な廃棄物処理・リサイクル・システムの計画と設計、環境税などによるリサイクル型社会基盤整備の推進、携わる各主体の役割分担と費用負担による経済的インセンティブの活用が必要となることを指摘し、提言を行っている。

 本論文は、全体の整合性を取るために、部分的にはいわゆる工学的ともいうべき大胆な仮定を設定しているところもあり、経済学的側面から見ると若干稚拙な部分も見られる。また、廃棄物処理・リサイクル・システムのモデル化を優先した結果、政策シミュレーションにまで発展できなかったところも今後の課題としてあげられる。しかしながら、廃棄物処理・リサイクルに関して、処理施設の建設段階も含めた多くの資料を収集して全体の整合性を取っているところにとどまらず、この分野で講じるべき環境政策とその影響まで実証的な分析を行い、政策提言にまでつなげている部分は高く評価できる。

 よって、本論文は博士(学術)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/54581