学位論文要旨



No 112665
著者(漢字) 吉住,英典
著者(英字)
著者(カナ) ヨシズミ,ヒデノリ
標題(和) 知識獲得および対象問題領域の構造化を目指した人間・機械系の研究
標題(洋)
報告番号 112665
報告番号 甲12665
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3943号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 堀,浩一
 東京大学 教授 石塚,満
 東京大学 助教授 溝口,博
 東京大学 助教授 中須賀,真一
 東京大学 助教授 村上,存
内容要旨

 本論文は「知識の体系化と対象問題領域の構造化のための方法論」を提案するものである.「知識の体系化」とは一定範囲の問題を解決する方法を問題解決者の視点に沿って構築することである.その道のりは対象世界を直接扱うこと,つまりデータの収集から始まり,モデルの構築,抽象化を経て,抽象化によって分けられた事象に共通の規則性・法則性への発見に至るものである.そこには様々なプロセスやアルゴリズムが要求され,それぞれ独立した研究対象となるものである.実際,多様なデータからの規則性・法則性の発見を目指した研究が行なわれてきた.それらは主に個々のプロセスに重点を置き,「体系化」に必要なプロセス全体を考慮したものではない.本研究ではそれとは逆に,プロセスは目的意識のもとに一貫したものでなくてはならないという観点から,プロセス全体を考慮した方法論を提案し,実際にリンク機構の設計問題を対象としたシステム(KISS,nowledge elcitation upport ystem)の構築を行なった.さらにシステムを使って実験を行ない,「知識の体系化」の実際をデモンストレーションし,問題解決のシナリオを提示した.また,同様の人間機械系の構築に当たり考慮すべき点や今後の課題について議論した.

 「対象問題領域の構造化」とは対象となる人工物を人間活動における要求という複数視点から捉え直し,要求に付随した問題解決の知識を整理し,人工物と人の活動舞台である実世界とを動的に結付けるものである.現実には人工物を複数の視点から捉えることは簡単ではなく,専門家であっても対象のある一面だけを見ていることが多い.この構造化を達成するためにはまず「知識の体系化」に必要な要素を整理しなくてはならない.そうした要素が準備され,複数の視点(目的)に対して「知識の体系化」を行なうことができれば,「対象問題領域の構造化]は自ずから実現されるものであると考える.従って本論文ではそのような構造化への方向性を示し,その概念的な提案を行なうこととし,実際の構造化は今後の課題とした.また,構造化を予め行っておくことの利点についても整理した.

 現実の問題解決では経験のある専門家が重要な決定を過去の事例をもとに「カン」を頼りに行なうことも決して少なくない.設計のような逆問題を解く場合,一般に最適(best)な解は得られず,局所的に最適(better)なものを探すのに留まることがほとんどである.限られた時間や資源では,そうした局所最適解を得るのにも苦労することが多々ある.こうした場面で,まだ歴史の浅い計算機,特に人工知能の研究がどのような役割を果たしていけるかはさらに研究されるべき分野である.本研究もそのようなものの一つとして問題解決において人と計算機の果たす役割について考察する.これまで発想支援といわれる一連の研究の中で,計算機を人の創造活動を支援するものとして積極的に利用しようとすることが試みられて来た.本研究においても計算機を思考のための道具として捉え,これからの人間・機械系のあるべき姿を考察し提案する.

審査要旨

 吉住英典提出の論文は、「知識獲得および対象問題領域の構造化を目指した人間・機械系の研究」と題し、7章から成る。

 人工知能の研究、特に知識処理システムの研究が進むにつれ、知識を専門家からいかにして獲得し知識処理システムに入力するかという、知識獲得の問題が知識処理研究の最大の難問であるということが広く認識されるようになった。これまでに、さまざまな知識獲得に関する研究がなされてきた。しかし、それらのほとんどは、知識が完全に体系化されている専門領域を対象として行われてきた。本論文は、そもそも知識が十分に体系化されていないような領域において、知識の獲得と対象問題領域の構造化を同時に支援できるような人間・機械系を提案し、リンク機構の設計問題を例題として実験を行ったものである。

 第1章は序論であり、研究の目的、研究の背景と位置づけ、および論文の構成について述べている。

 第2章では、知識とは何であるかについて、従来研究を概観し、本論文でいうところの知識の定義を与えている。そこでは、計算可能な要素としての知識、可視化された要素としての知識、創起された要素としての知識、などが扱われている。

 第3章では、知識獲得と対象問題領域の構造化を同時に支援するための方法論を与えている。データ収集、表現選択、識別、分類、知識要素抽出、検証からなる知識体系化のプロセスを考え、それらを支援する人間・機械系の構成法を与えている。

 第4章では、対象問題とシステムの構成について述べている。本論文では、リンク機構の設計問題を例題としてとりあげている。リンク機構の設計のための知識が十分には体系化されておらず、設計者の直観に基づいて設計されているという現状を紹介した上で、リンク機構の設計知識の体系化を支援するシステムの構成を提案している。システムは、ランダムに生成されたリンクの運動軌跡を分類する機能などを有している。

 第5章では、前章で提案したシステムについて、実験を行っている。リンクの軌跡について、主要解と特異解が存在すること、それらを分類するための規則が存在しうること、などが、提案されたシステムを利用することによって、明らかにされ、システムの有効性が実証されている。

 第6章では、実験の結果について分析し、本論文で提案したシステムの他の領域への適用可能性などについて、考察している。知識が体系化されていない領域において、なまのデータの分類から、記号処理可能な知識までを、体系的に構築するために、本論文で提案したシステムの方式が有効であることが、述べられている。

 第7章は、結論であり、本研究の成果をまとめている。

 以上を要するに、本論文は、知識が十分に体系化されていないような領域において、知識の獲得と問題領域の構造化を同時に支援するための人間・機械系の提案を行い、その有効性をリンク機構の設計問題において実証したものであり、工学上、寄与するところが大きい。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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