学位論文要旨



No 112671
著者(漢字) 韓,尚憲
著者(英字)
著者(カナ) ハン,サンホン
標題(和) キウイフルーツ果実の発育と成熟に関する生理学的研究
標題(洋)
報告番号 112671
報告番号 甲12671
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第1734号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 生産・環境生物学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 崎山,亮三
 東京大学 教授 石井,龍一
 東京大学 教授 瀬尾,康久
 東京大学 助教授 杉山,信男
 東京大学 助教授 八巻,良和
内容要旨

 キウイフルーツ果実は、果実生長の期間中にデンプンを蓄積するが、成熟が進むと可溶性糖が少しずつ増加してくる。その時期の糖濃度は追熟後の可溶性糖濃度と関係するといわれ、果実の品質を左右する重要な因子である。本研究は果実成熟期の糖濃度の変化に関する要因を明らかにする目的でキウイフルーツ果実の発育と成熟に関する生理学的研究を行った。

1.果実の生長パターンと果実組織における水ポテンシャルの日内変動

 (1)両年とも果実の生長は二重S字型の曲線を示した。果実生長の第2期に到達する時期は異なった。第1期の生長量は1995年方が大きく第3期の生長量は1996年方が大きかった。

 (2)果実の水ポテンシャルの変動は1995年には小さかったが、1996年の第3期の前半に大きかった。

 (3)果実の浸透ポテンシャルの日内変動は両年とも水ポテンシャルと同じ傾向であったが、全般的に1996年の値は1995年の値より低い傾向を示した。10月14日の夜明け前に浸透ポテンシャルが-1.5MPaの急低下とその後3時間後の回復するという大きな変化を示した。葉の浸透ポテンシャル日内変動は、生長第1,2期と収穫適期では水ポテンシャルと同様であったが、第3期では異なった。

 (4)果実膨圧の変動では夜明け前に最高になったが、1996年には必ずしもそうならなかった。

 (5)夜明け前の測定値の生長期間中の変化を調べたところ、1995年には、水ポテンシャル、浸透ポテンシャルは第2期終わるまでは差が小さく同じ傾向の変化を示した。第3期に入ると浸透ポテンシャルのみが一度急に下がり、その後回復した。収穫期に近くなると両ポテンシャルはともに低下した。膨圧は果実生長の第1,2期には、0.3MPaであり、第3期には0.5〜0.9MPaになった。1996年には水ポテンシャルと浸透ポテンシャルの変化は前年の変化とほぼ同じ傾向であったが、第3期の浸透ポテンシャルの急激な低下は認められなかった。膨圧は、生長第1,2期においては、1995年と同様にほぼ0.2〜0.3MPaで比較的低く、安定した値を示した。しかし、第3期には上昇を始め、最大となったあと収穫適期にかけて低下した。

2.果実の生長に伴う炭水化物含量と水分含量の変化

 (1)果実当たりの乾物重は、1995年は両者とも第1期に急激に増加し、第2期に停止し、第3期には再び増加したのち、低下した。1996年の乾物重は、第3期中半である10月11日までほぼ同じ速度で増加し、その後やや小さい速度で増加した。1果当たり乾物含量と水分含量は、両年ともに二重S字曲線的に増加した。最大乾物含量は1995年21.75g1996年22.16であった。最大水分含量は1995年84.01g1996年100.36gであった。

 (2)乾物率の変化は、両年において第1期から第2期にかけて急激に増大し、第3期からやや小さい速度増大した。最大乾物率は1995年19.63%1996年18.54%であった。

 (3)1果1日当たりで示すと、乾物重の変化は、1995年では第1期の中頃に最高値である0.27を記録し、第1,3期の他の時期は、0.1〜0.2の間で変動した。第2期と収穫摘期には、負となった。水分含量の場合、果実生長の初期に高くその後低下し第2期に0となり、第3期の前半にピークをを示した後低下し成熟期には負となった。1996年の乾物重では1995年と異なり第2期と収積摘期でも負とならなかった。水分の含量場合、1995年と同様に変動したが、第3期の後半にかけては1995年と異なり0となった。

 (4)1995年の全糖の濃度は第1期の前半やや高かったが、その後収穫摘期まで急上昇した。1996年の収穫摘期の全糖濃度は1995年の3倍とも以上であった。

 (5)全糖を構成する主な糖はグルコースとフルクトースでほぼ等量存在した。両年両糖濃度は全糖濃度と同じ傾向で変化したが、フルクトース濃度は、1995年には第2期から、1996年には第3期から増加を始めた。シュクロース濃度は、第3期に増加し、収穫適期には1995年では急激に減少し、1996年では増加を続けた。イノシトールの濃度は生長中低かった。

 (6)デンプン濃度は第1期中期の7月10日頃から第2期の終わりまで直線的に上昇した。その後第3期の大部分は一定であった。収穫適期の頃、1995年にはデンプン含量は急激に低下したが、1996年には増加を続けた。

3.キウイフルーツ果実の成熟期における低温処理が果実組織の水ポテンシャルと糖濃度に及ぼす影響

 第3期中期の果実を用いて果実のみを夜間10〜12℃の低温処理した場合の影響を調べた。

 (1)10月11日〜12日に低温処理した果実の水ポテンシャルは無処理よりも高い傾向を示した。浸透ポテンシャルの場合、夜明け前に低温処理果では低い傾向を示した。膨圧は低温処理果では高かった。

 (2)10月11から25日まで継続に夜間の低温処理した果実の10月11から25日までの全糖濃度変に有意に増加した。

4.体積生長を抑制した場合の炭水化物含量の蓄積および追熟後の糖濃度

 (1)果実肥大生長を抑制した場合の炭水化物含量と水分含量の相対的な変化を調査するために果実プラスチックパイプで囲んだ。果実の新鮮重は、43mmパイプで処理した果実は、処理2週間後に低下した。その後、無処理と同じ傾向で上昇し、9月27日以降著しく低下した。一方、52mmパイプ処理では処理後30日目から著しく低下したが、最終日には無処理と同様となった。果実の体積は、新鮮重とほぼ同じ変化を示した。乾物重は、43mmパイプ処理は処理後45日以降著しく低下した。52mmパイプ処理では、処理後30日目から直線的に低下した。両処理ともに最終日は、処理による差があまりなかった。水分含量の変化でも乾物と同様な変化がみられた。

 (2)全糖濃度は、43mmパイプ処理で9月13日、52mmパイプ処理で10月25日にそれぞれ高かったが、最終日には処理間に差がなった。デンプン濃度の変化は、顕著ではなかった。

 (3)パイプ処理した果実の追熟後の全糖濃度は、52mmパイプ処理果は43mm処理果および対照果よりも高かった。

5.収穫時のデンプン・糖含量と追熟後の糖含量の関係

 (1)第1期末の果実を収穫し、エセホン処理により追熟するとデンプンはほぼ完全にが加水分解され、全糖濃度の増加率は大きかった。第3期後期の果実を収穫し、同じ方法で追熟した場合デンプンは完全に加水分解がせず、全糖濃度の増加率は小さかった。

 以上の結果、キウイフルーツ果実の生長にともなう水関係、炭水化物の変化を明らかにするとともに追熟後の糖濃度が、収穫前の果実糖濃度とデンプン含量と密接な関係にあり、デンプンの加水分解と水の果実への流入が糖濃度に影響していることが示された。

審査要旨

 キウイフルーツ果実は、肥大生長過程でデンプンを蓄積し、肥大生長末期にデンプンの加水分解と可溶性糖の増加を生じる。しかし、デンプン加水分解が急速に進むためには、収穫して追熟処理をする必要がある。追熟は同時に果肉の軟化と香を生じ、そこで初めて食べられる果実としての品質を有するようになる。追熟後の糖濃度は収穫時の糖濃度に大きく影響されるので、果実発育と炭水化物濃度の関係を2年間にわたり調べた。また、濃度は水分量に対する成分量の相対値であるので、水分量と炭水化物量の変化を分けて調べた。

 第1章では、果実の生長曲線ならびに果実の水分について調査した。果実新鮮重の生長曲線は二重S字型を描き、生長期間を第1、2、3と区別できた。

 果実の水ポテンシャルの日内変動は葉にくらべて小さかった。また、夜明け前に測定した果実組織の膨圧は、生長第1、2期には比較的低く、安定した変化を示すが、第3期にやや増加することを示した。この結果と果実生長との結果を対応させ、第1期の細胞壁の伸展性があるのに対して、第3期には相対的に伸展性が低下したと推測した。

 第2章では、果実の生長にともなう乾物重、炭水化物、水分の各量の変化を調べた。1果当り乾物重の生長にともなう変化は二重S字型を明瞭に示す年と示さない年があった。しかし、水分含量は両年とも明瞭な二重S字型を示し、また、果実新鮮重の80%以上を占めたので、第1章で示した新鮮重の二重S字型曲線はおもに水分含量の変化を反映するものであることがわかった。

 可溶性糖はほぼ等量にあるグルコースとフルクトースによって占められ、そのほかシュクロースとイノシトールがわずかにあった。これらの和の全糖濃度は第1期の全般にやや高い値を示したが、その後低下した。第3期に入ると収穫適期にかけて急激な増加を示した。1995年の収穫期直前には全糖、デンプン濃度、1果当り水分含量が急に低下する現象がみられたが、この期間に湿度が異常に低くなった日があったので、低湿度の影響があったと推測した。

 デンプン濃度は第1期中期から第2期末まで上昇し、第3期の大部分一定の値を維持した。1996年には収穫直前のデンプン濃度は緩やかであるが増加を続けた。

 1996年の果実生長第3期において、1果当り水分量が一定であるのに対して乾物やデンプンの濃度が増加したということは、この時期の炭水化物濃度の変化が水分ではなく果実への糖の転流量に影響されることを示し、少なくとも部分的には、水分と炭水化物の供給が独立に行われていることを明らかにした。

 第3章では、第1章で行った夜明け前の果実水ポテンシャルに関する調査において、第3期中期に膨圧が高まるとともに浸透ポテンシャルが低下した現象の原因に関して実験をした。ちょうどこの頃に夜明け前の気温が10℃近くまで低下したので、気温低下が果実の膨圧と浸透ポテンシャルに及ぼす影響を調査した。10月上旬に夜間10〜12℃にした果実では、夜明け前の膨圧が高く、浸透ポテンシャルが低くなる傾向を示したが、その後に処理した果実では影響が明かでなかった。

 第4章では、果実体積をプラスチックパイプ内で肥大生長させ、生長を制限した場合の全糖濃度に及ぼす影響を調べた。その結果、処理後1〜1.5か月に全糖濃度が一時的に大きく高まる時期があった。しかし、すぐに元の値まで低下し、収穫適期の果実では差がなくなった。この結果は、果実体積が増大して果実がパイプ内壁に当たってからのある時期には、水の流入が糖の流入に対して大きく抑制されたために生じたもので、水と糖が相互に独立の動きを示す例と考えられた。

 第5章では、収穫後の果実を用いて追熟後の糖濃度を予測する実験を行った。果実を半分に分割し、一方を収穫直後、他方を追熟後に分析する方法を検討したが、果実を切断した影響により、果肉軟化が急速に進み、正常な果実と異なる反応を示すことが示された。

 以上、本論文はキウイフルーツ果実の品質に影響を及ぼす糖濃度が果実発育と成熟の過程で示す変化を、炭水化物と水の2つの要因に分けて分析的に明かにし、高い糖濃度の果実を生産するための示唆を与えた。

 よって、審査員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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