キウイフルーツ果実は、肥大生長過程でデンプンを蓄積し、肥大生長末期にデンプンの加水分解と可溶性糖の増加を生じる。しかし、デンプン加水分解が急速に進むためには、収穫して追熟処理をする必要がある。追熟は同時に果肉の軟化と香を生じ、そこで初めて食べられる果実としての品質を有するようになる。追熟後の糖濃度は収穫時の糖濃度に大きく影響されるので、果実発育と炭水化物濃度の関係を2年間にわたり調べた。また、濃度は水分量に対する成分量の相対値であるので、水分量と炭水化物量の変化を分けて調べた。 第1章では、果実の生長曲線ならびに果実の水分について調査した。果実新鮮重の生長曲線は二重S字型を描き、生長期間を第1、2、3と区別できた。 果実の水ポテンシャルの日内変動は葉にくらべて小さかった。また、夜明け前に測定した果実組織の膨圧は、生長第1、2期には比較的低く、安定した変化を示すが、第3期にやや増加することを示した。この結果と果実生長との結果を対応させ、第1期の細胞壁の伸展性があるのに対して、第3期には相対的に伸展性が低下したと推測した。 第2章では、果実の生長にともなう乾物重、炭水化物、水分の各量の変化を調べた。1果当り乾物重の生長にともなう変化は二重S字型を明瞭に示す年と示さない年があった。しかし、水分含量は両年とも明瞭な二重S字型を示し、また、果実新鮮重の80%以上を占めたので、第1章で示した新鮮重の二重S字型曲線はおもに水分含量の変化を反映するものであることがわかった。 可溶性糖はほぼ等量にあるグルコースとフルクトースによって占められ、そのほかシュクロースとイノシトールがわずかにあった。これらの和の全糖濃度は第1期の全般にやや高い値を示したが、その後低下した。第3期に入ると収穫適期にかけて急激な増加を示した。1995年の収穫期直前には全糖、デンプン濃度、1果当り水分含量が急に低下する現象がみられたが、この期間に湿度が異常に低くなった日があったので、低湿度の影響があったと推測した。 デンプン濃度は第1期中期から第2期末まで上昇し、第3期の大部分一定の値を維持した。1996年には収穫直前のデンプン濃度は緩やかであるが増加を続けた。 1996年の果実生長第3期において、1果当り水分量が一定であるのに対して乾物やデンプンの濃度が増加したということは、この時期の炭水化物濃度の変化が水分ではなく果実への糖の転流量に影響されることを示し、少なくとも部分的には、水分と炭水化物の供給が独立に行われていることを明らかにした。 第3章では、第1章で行った夜明け前の果実水ポテンシャルに関する調査において、第3期中期に膨圧が高まるとともに浸透ポテンシャルが低下した現象の原因に関して実験をした。ちょうどこの頃に夜明け前の気温が10℃近くまで低下したので、気温低下が果実の膨圧と浸透ポテンシャルに及ぼす影響を調査した。10月上旬に夜間10〜12℃にした果実では、夜明け前の膨圧が高く、浸透ポテンシャルが低くなる傾向を示したが、その後に処理した果実では影響が明かでなかった。 第4章では、果実体積をプラスチックパイプ内で肥大生長させ、生長を制限した場合の全糖濃度に及ぼす影響を調べた。その結果、処理後1〜1.5か月に全糖濃度が一時的に大きく高まる時期があった。しかし、すぐに元の値まで低下し、収穫適期の果実では差がなくなった。この結果は、果実体積が増大して果実がパイプ内壁に当たってからのある時期には、水の流入が糖の流入に対して大きく抑制されたために生じたもので、水と糖が相互に独立の動きを示す例と考えられた。 第5章では、収穫後の果実を用いて追熟後の糖濃度を予測する実験を行った。果実を半分に分割し、一方を収穫直後、他方を追熟後に分析する方法を検討したが、果実を切断した影響により、果肉軟化が急速に進み、正常な果実と異なる反応を示すことが示された。 以上、本論文はキウイフルーツ果実の品質に影響を及ぼす糖濃度が果実発育と成熟の過程で示す変化を、炭水化物と水の2つの要因に分けて分析的に明かにし、高い糖濃度の果実を生産するための示唆を与えた。 よって、審査員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。 |