学位論文要旨



No 112696
著者(漢字) 朴,相俊
著者(英字)
著者(カナ) パク,サンジュン
標題(和) タワーヤーダによる集材作業システムと適正路網に関する研究
標題(洋)
報告番号 112696
報告番号 甲12696
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第1759号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 森林科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小林,洋司
 東京大学 教授 箕輪,光博
 東京大学 教授 永田,信
 東京大学 助教授 酒井,秀夫
 東京大学 助教授 仁多見,俊夫
内容要旨

 近年、日本の森林と林業を取り巻く諸情勢は、森林資源の未成熟、木材価格の低迷、林業労働者の減少・高齢化、低い労働生産性等、厳しい状況下にある。この状況を打開するため、ハーベスタ、フォワーダ、プロセッサ、フェラーバンチャ、スキッダ、タワーヤーダ等の高性能林業機械の導入によって、若年労働者を確保し、低コスト林業の新たな展開と森林作業の体系を確立することが緊急の課題となっている。特に、急峻な山岳林では、架設・撤去と移動が容易なタワーヤーダによる集材作業システムが期待されている。

 本論文は、タワーヤーダによる集材作業システムにおいて、タワーヤーダ作業の現状、タワーヤーダの特性及び性能、架線張力、標準作業功程を明らかにし、タワーヤーダ集材作業システムの最適化と適正路網密度及び配置手法を提示し、より安全な作業と効率的な集材作業システムを構築することを目的とする。本論文は、第1章から第7章で構成されており、各章の内容は次の通りである。

 第1章序論では、日本の林業及び森林を取り巻く諸情勢、高性能林業機械化及びタワーヤーダ集材作業の現状に対して考察し、本論文の位置づけを行った。タワーヤーダ集材作業の現状を把握するためのアンケート調査結果から、タワーヤーダ作業の約90%が20度以上の急傾斜地で行われていること、事業が小規模であり、年間稼働日数も180日未満の事業体が多いことが確認され、タワーヤーダ集材作業にとって路網整備とタワーヤーダの性能向上が必要であることを指摘した。

 第2章では、日本に導入されているタワーヤーダの特性及び性能について考察した。タワーの高さは平均約8m、エンジンの最大出力も平均90馬力と、海外のタワーヤーダと比較して小型であり、メインラインの索径及び索長はそれぞれ9〜12mm、120〜700mである。傾向として索長が長くなると、最大索引速度が速く、エンジン出力も大きくなり、最大牽引力と牽引速度は700〜4,480kgf、68〜300m/分である。また、最大索引速度とタワーの高さが高くなると、エンジンの最大出力が大きくなっている。

 第3章では、タワーヤーダの架線張力を測定、分析し、積み荷重量と中央垂下比に対する架線の張力を求め、タワーヤーダの安全作業について考察した。例えば、安全な集材作業のためには原索中央垂下比として、架線斜距離100m以上、積み荷重量500kgの場合0.049以上必要であることが分析された。また、インターロックの状態で作業することが能率的であることが確かめられ、横取り作業では集材方向に対して45度の角度で集材し、できるかぎりドラムの回転数を高くする方が能率的であることを示した。本調査に使ったタワーヤーダにおいて、インターロック機構を効かせるため、搬器空走行の場合は、ドラムの回転数を高くしないこと、また、搬器実走行の場合は、ドラムの回転数を高くすることが安全で能率的であることが確かめられた。

 第4章では、タワーヤーダの要素作業時間と集材作業能率の精細な分析を通じて、集材作業の特質、適正横取り距離の分析を行い、また、2段集材作業についても検討を行った。間伐作業では単木材積が大きいほど能率的であり、クランプ式搬器による集材作業の能率が向上し、特に、横取り作業の能率が3倍程度向上することが分かった。また、普通定性間伐の場合において作業能率を高めるためには、1荷当たり2〜3本集材することが必要であった。L型の2段集材では、中間地点で荷下ろしせずに集材する方が、荷下ろしする場合よりも集材能率が約16%向上することを示した。

 第5章では、タワーヤーダとプロセッサの組み合わせによる作業システムを事例分析し、作業能率、作業コスト、作業仕組みからタワーヤーダとプロセッサによる作業システムの最適化を図った。タワーヤーダ集材作業に有線リモコンを使用することによって、1人当たりの生産性を向上させることが出来た。生産性の変化と作業コストの関係において、年間作業量が10,000m3以上になると、生産性が向上しても作業コストの軽減効果がほとんどなかった。ここで、立木の材積によって生産性が変化したものと仮定すれば、小径材生産の間伐作業や大径材生産の複層林造成のための間伐作業ではコスト変化に違いは見られなくなる。また、タワーヤーダとプロセッサの組み合わせ作業の能率を上げるためには、伐倒作業員がタワーヤーダの1日の作業量だけを伐倒した後で、プロセッサの造材作業に従事することによって能率が上がることが示された。

 第6章では、林道の幅員及び作業土場の規格構造の検討を行い、適正路網密度及び路網配置計画について分析した。1例を示すと作業土場の設置間隔は、複層林間伐作業の場合約10m、非クランプ式搬器を用いた定性間伐作業の場合約20m、クランプ式搬器を用いた定性間伐作業の場合約60mとなった。タワーヤーダの最大スパン長から適正路網密度を求めると、37.5m/haとなり、これに傾斜を考慮すると、43.3m/haとなった。 一方、低規格の林道とタワーヤーダの組み合わせ作業を想定し、複合路網密度を求めると、林道と作業道を含めて複層林間伐の場合43.3m/ha、定性間伐の場合79.1〜80.6m/haとなった。いずれにしても、タワーヤーダ集材作業のための適正路網密度は40m/ha以上になる。また、タワーヤーダ集材作業の能率を高めるための効率的な路網配置手法を検討した。尾根筋、山腹、谷筋を中心とした路網配置、地形的制約、施業条件から林道投資効果を最大とする路網配置についてタワーヤーダの集材可能面積を比べた結果、タワーヤーダ集材作業においては尾根筋を中心に路網を配置することが能率的であることが分かった。

 第7章では本研究の総括を行った。

 以上、本論文はタワーヤーダによる集材作業システムと適正路網について論じ、本集材システムが日本における急傾斜地で有効に機能することを示し、今後の日本の林業に寄与することを明らかにした。

審査要旨

 近年、日本の林業を取り巻く諸情勢は、木材価格の低迷、林業労働者の減少、高齢化、低い労働生産性等、厳しい状況下にある。この状況を打開するため、高性能林業機械の導入によって、若年労働者を確保し、林業の新たな展開と森林作業の体系を確立することが緊急の課題となっている。特に、急峻な山岳林では、架設・撤去と移動が容易なタワーヤーダによる集材作業システムが期待されている。

 本申請論文は、タワーヤーダによる集材作業においてタワーヤーダ作業の現状、タワーヤーダの特性および性能、架線張力、標準作業功程を明らかにし、タワーヤーダ集材作業システムの最適化と適正路網密度及び路線配置を提示し、より安全な作業と効率的な集材作業システムを構築することを目的としている。本論文は、第1章から第7章で構成されており、各章の内容は次の通りである。

 第1章は、序論で本論文の位置づけを行い、タワーヤーダ集材作業の現状を把握するためのアンケートから、タワーヤーダ作業の約90%が20度以上の傾斜地で行われていること、事業が小規模であり、年間稼働日数も180日未満の事業体が多いこと等を述べている。

 第2章は、日本に導入されているタワーヤーダの特性及び性能について考察している。タワーの高さは平均約8m、エンジンの最大出力も平均90馬力と、海外のタワーヤーダと比較して小型であり、傾向としては索長が長くなると、最大牽引速度が速く、エンジン出力も大きくなり、また、最大牽引速度とタワーの高さが高くなると、エンジンの最大出力が大きくなっていることを明らかにした。

 第3章は、タワーヤーダの架線張力を測定、分析し、積み荷重量と中央垂下比に対する架線の張力を求め、タワーヤーダの安全作業について考察した。インターロックの状態で作業することが効果的であり、横取り作業では集材方向に対して45度の角度で集材する方が能率的であることを示した。

 第4章は、タワーヤーダの要素作業時間と集材作業能率の精細な分析を通じて、集材作業の特質、適正横取り距離と集材距離の分析を行い、また2段集材作業についても検討を行った。間伐作業では単木材積が大きいほど能率的であり、クランプ式搬器による集材作業の能率が向上し、特に、横取り作業の能率が3倍程度向上することが分かった。また普通定性間伐の場合において作業能率を高めるためには、1荷当たり2〜3本集材することが必要である。L型の2段集材では、中間地点で荷下ろしせずに集材する方が、荷下ろしする場合よりも集材能率が約16%向上することを示した。

 第5章は、タワーヤーダとプロセッサの組合せによる作業システムを事例分析し、作業能率、作業コスト、作業仕組みからタワーヤーダとプロセッサによる作業システムの最適化を図った。タワーヤーダ集材作業に有線リモコンを使用することによって、1人当たりの生産性を向上させることが出来た。また作業の能率を上げるためには、伐倒作業員がタワーヤーダの1日の作業量だけを伐倒した後で、プロセッサの造材作業に従事することによって能率が上がることも指摘している。

 第6章は、林道の幅員とタワーヤーダ作業面積の検討を行い、適正路網密度及び路網配置計画について分析した。タワーヤーダの最大スパン長から適正路網密度を求めると、傾斜を考慮した場合43.3m/haとなった。一方、低規格の林道とタワーヤーダの組合せ作業を想定し、複合路網密度を求めると、林道と作業道を含めてタワーヤーダ集材作業のための適正路網密度は40m/ha以上になった。またタワーヤーダ集材作業の効率を高めるための路網配置を検討した結果、尾根筋を中心に路網を配置することが効率的であることが分かった。

 第7章は本研究の総括である。

 以上、本論文はタワーヤーダによる集材作業システムと適正路網について論じ、タワーヤーダによる集材作業システムが日本における急傾斜地で有効に機能することを示し、今後の日本の林業に寄与することを明らかにした。

 以上のように、本研究は学術上のみならず応用上も価値が高い。よって審査員一同は、本論文が博士(農学)の学位を授与するにふさわしいと判断した。

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