下垂体で産生される生殖腺刺激ホルモン(GTH)は生殖腺の発達に重要な役割を果たしている。近年、魚類においても構造と機能が異なる二種類のGTH、GTH IとII、が存在することが明らかにされたが、この二種類のGTHがどのような分泌調節をうけているのかについては、まだ不明な点が多い。現在2種類のGTHが測定可能なのはサケ科魚に限られている。そこで、本研究はサケ科魚のニジマスを材料として用い、GTH IとIIの分泌調節機構を明らかにすることを目的として行われた。本論文は6章より構成されている。 第1章では成熟度の異なるニジマスの培養下垂体細胞におけるGTH分泌に対する生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の作用について、第2章ではテストステロンを投与した未熟ニジマスの培養下垂体及び下垂体細胞におけるGTH分泌に対するGnRHの作用について、第3章では成熟度の異なるニジマスの培養下垂体細胞におけるGTH分泌に対するドーパミンの作用について、第4章ではテストステロンを投与した未熟ニジマスの培養下垂体細胞におけるGTH分泌に対するドーパミンの作用について、第5章では培養下垂体における性ホルモンによるGTH産生とGnRHによるGTH分泌について、第6章ではテストステロン投与及び非投与早熟雄の血中GTH IIと性ホルモン濃度に及ぼすGnRHアナログ及びドーパミンの作用について、調べている。 その結果、明らかとなった主な結果は以下の通りである。 1.GTH I分泌はいかなる処理によっても変化しなかった。 2.自発的GTH II分泌は成熟の進行に伴い増加した。 3.サケ型GnRH(sGnRH)により、GTH II分泌は未熟期(体重約300g)、成熟期、完熟期ニジマス雌雄で促進された。sGnRHに対する感受性はほぼ同様であったが、分泌量は成熟の進行に伴って著しく増加した。それぞれの成熟段階における分泌量はGnRHの濃度に依存して増加した。 4.体重約100gの未熟魚では、sGnRHに反応しなかったが、テストステロン投与によりGTH II含量、自発的GTH II分泌量が増加するとともに、sGnRHに対する感受性も出現し、分泌量もsGnRHの濃度に依存して増加した。 5.sGnRHによるGTH II分泌はGnRHアンタゴニストにより濃度依存的に抑制された。 6.自発的GTH II分泌はドーパミンにより抑制されなかった。 7.sGnRHによるGTH II分泌はドーパミンにより濃度依存的に抑制された。抑制の強さは成熟段階、雌雄により異なった。 8.ドーパミンによる抑制はD2レセプターを介して発現した。 9.高濃度のD2アンタゴニストによりGTH II分泌量が増加した。 10.未熟ニジマスにテストステロンを投与することによりドーパミンによる抑制系が発現した。 11.培養液にテストステロンを加えた下垂体器官培養実験から、テストステロンは直接下垂体に働き、GTH II合成を促進するとともにGnRHによる分泌促進系を発現させた。 12.早熟雄においても、細胞培養系とほぼ同様な結果が得られた。またテストステロン投与によりGnRHアナログ及びドーパミンによる反応が増強された。 以上、本研究はニジマスにおけるGTH分泌調節機構を明らかにするとともに、テストステロンを投与することにより未熟ニジマスの下垂体が成熟魚下垂体のモデル系として使用し得ることを明らかにしたもので、学術上および応用上寄与するところが少なくない。よって審査員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと判断した。 |