学位論文要旨



No 112721
著者(漢字) イ ネンガ スアスタワ
著者(英字)
著者(カナ) イ ネンガ スアスタワ
標題(和) フラットベルトを用いた稲収穫機のための脱穀機構に関する研究
標題(洋) Threshing Mechanism of Flat Belts for Rice Harvester
報告番号 112721
報告番号 甲12721
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第1784号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 生物・環境工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡本,嗣男
 東京大学 教授 瀬尾,康久
 東京大学 助教授 大下,誠一
 東京大学 助教授 藏田,憲次
 筑波大学 教授 坂井,直樹
内容要旨

 米(Oryza sativa L.)は世界の国々で大変重要な食料であり、その生産は年々増加している。その、主な生産地はアジアである。アジアで生産されている米の中で、大きな割合を占めている易脱粒性の米は、収穫時における損失が大きいと言われている。収穫機を用いて易脱粒性の米を収穫する際、刈り取りや結索の時に損失が生じる。この問題を解決するためには、易脱粒性米の力学的特性を知る必要がある。しかし、インディカタイプに代表される易脱粒性の米に関する基本的なデータが不足している。今日、様々な米収穫機が販売されているが、それらは非常に高価である。特に開発途上国においては、ほとんどの農家にとって、購入することが困難である。そこで、機構的、経済的に易脱粒性の米に適した収穫機が必要であると考えられる。フラットベルトを用いた機構はその選択肢の内の一つに考えられる。論文は6章からなっている

 第1章では易脱粒性の米を収穫するのに適した収穫機構を開発するという本研究の目的と背景について述べ、既往の研究をレビューした。

 第2章では籾の引っ張り強さと質量に関する研究について説明した。実験は、3種類の米の籾の引っ張り強さ(Ss)と曲げ強さ(Sp)の特性ならびに籾の質量の分布を調べるために行った。実験に用いた米の品種は、JavanicaのArborio、IndicaのBluebonnet50、Jhona349およびJaponicaのKoshihikariである。穂に付いた個々の籾について、力学特性を基にして、小枝梗の引っ張り強さと曲げ強さと籾の質量の関係を解析した。これには、籾の配列を基準にした穂の構造モデルを使用した。そして、確率長円を用いて小枝梗の引っ張り強さと曲げ強さの関係に基づいて、米の品種をグループ分けした。

 この実験で得られた最も重要な結果は、曲げ強さが、引っ張り強さに比べて非常に小さかったということである。この結果を用いて、収穫時の損失を減らし、より少ない力で脱穀をする事ができないかと考えた。

 第3章では、フラットベルトを用いた、籾の脱穀機構に必要なトルクの計算のための数学モデルについてのべた。米の穂を円筒形の粘弾性物体と仮定し、二つのフラットベルトの間を通過することを考える。二つのフラットベルトは、ローラによって駆動されており、異なった速度で移動している。また3組の支持ローラが、ベルトの内側に設置されている。ベルトの中に挿入された穂は応力を受ける。ベルトの速度差によって、穂は移動、回転し、摩擦力を受ける。応力および摩擦力が、小枝梗の曲げ強さを超えたとき、脱穀が行われると考えられる。

 穂にかかる力は、ローラーの間でかかる力と、ベルトの間でかかる力の2種類がある。ローラーと穂の間に生ずる力は次式で表すことができる。

 

 ここで

 PR:穂とベルトの間の応力

 C:二つの物体の接触表面形状係数

 :ラーメの定数

 :アプローチ

 :緩和時間

 ベルト単体による摩擦過程における穂から受ける荷重ベルト張力の変化によって定められる。張力は穂の直径の変化に伴って変わる。力は次式によって与えられる。

 

 ここで

 Pb:穂に作用するベルトの荷重

 E:ベルトのヤング率

 A:ベルトの断面積

 l1:穂とローラー中心の距離

 L:ローラー間距離

 籾とベルト表面の摩擦係数()、駆動ローラーの直径(R)を与えることによって脱穀するのに必要となるトルク(T)は次式で算出される。

 T=R(PR+PB)

 コンピューターシミュレーションはそのモデルを基に設計した。フラットベルト摩擦機構で四品種の米を脱穀するのに必要とされるトルクの予想を数学シミュレーションで行った。穂の直径の変化のため、穂が次のローラーに移動したとき少ないトルクですむ。

 第4章では籾とゴム表面の摩擦係数を求め、さらに穀物の水分量が摩擦係数に及ぼす影響を実験的に調べた。実験には四品種の米を使用した。その四品種とはJavaicaのArborio、IndicaのBluebonnet50、Jhona349およびJaponicaのKoshihikariである。三種のゴムとベルト素材を表面素材として用いた。それらはコンベヤゴムシート、ナチュラルゴムシート、シリコンゴムシートである。せん断力と相対移動距離の関係は各品種、ゴム表面毎にほぼ同じであった。摩擦力はせん断過程の一番初期で最大となった。相対移動距離がおよそ5ミリに達した後、せん断力は比較的一定の値になり、この値はせん断過程の終わりまで変化しなかった。四品種の米と三種類のゴムシート間の摩擦係数が得られた。摩擦係数は大きくゴムの種類によって異なった。そして穀物の水分量が増加すると、摩擦係数も増加した。このことは調査したすべての品種に認められた。

 第5章では実際にフラットベルト摩擦機構で籾を脱穀できるかどうかを実験した。この実験で使用した米の種類はJavanicaのArborio、IndicaのBluebonnet50、JaponicaのKoshihikariである。ベルトの中に挿入される穂が大きくなるにつれて脱穀するのに大きなトルクを必要とした。この現象はすべての品種、ベルト間隔、ベルトの速度に対して認められた。ベルト間隔が1ミリの場合のトルクは2ミリの場合に比べ大きかった。シミュレーションしたトルクと測定したトルクの比較を行った。穂とベルトの滑り現象は明確に説明できる。IndicaのBluebonnet50が実験で用いた他の品種に比べてよりよく脱穀された。このことは設定したすべての実験に関して言えた。それとは逆にJaponicaのKoshihikariは脱穀するのが困難であった。損傷を受けた籾の割合はBluebonnet50が実験した中では一番小さかった。ArborioとKoshihikariの脱穀された籾は全てベルトの後方に移動された。しかしながらBluebonnet50の籾の幾分かは脱穀過程の途中でベルトの下に落ちた。

 第6章ではこの研究の摘要を述べた。易脱粒性米の力学特性の研究の結果、フラットベルト摩擦機構を、従来の脱穀機に代わる機構として提案した。数学モデルを作成して、フラットベルト摩擦機構を用いて、米を脱穀する際に必要なトルクをシミュレーションにより予測した。そのモデルに必要な摩擦係数を求めるとともに、フラットベルト摩擦機構の脱穀性能を評価するための実験を行った。本研究のフラットベルト摩擦機構は、易脱粒性米の収穫機に応用できると考られる。

審査要旨

 米(Oryza sativa L.)は世界の国々できわめて重要な食料であり、その生産は年々増加している。その、主な生産地はアジアである。アジアで生産されている米の中で、大きな割合を占めている易脱粒性の米は、収穫時における損失が大きいと言われている。この問題を解決するためには、易脱粒性米の力学的特性を知る必要がある。しかし、インディカタイプに代表される易脱粒性の米に関する基本的なデータが不足している。今日、様々な米収穫機が販売されているが、それらは非常に高価であり、開発途上国の農家がこのような機械を購入することはきわめて困難である。そこで、機構的、経済的に易脱粒性の米に適した収穫機が必要であると考えられる。そのための脱穀機構の一つとして構造が簡単で所要動力も少ないと考えられるフラットベルトを用いた機構を提案し、特性予測のためのシミュレーションを行うとともに、フラットベルト式脱穀装置を試作し、脱穀試験を実施してその特性を明らかにした。論文は6章からなっている。

 第1章では易脱粒性米を収穫するのに適した収穫機構を開発するという本研究の目的と背景について述べ、既往の研究をレビューしている。

 第2章では籾枝梗の引っ張り強さと質量に関する研究結果について述べている。実験では、3種類の米の籾枝梗の引っ張り強さと曲げ強さの特性ならびに籾の質量の分布を調べている。実験に用いた米の品種は、JavanicaのArborio、IndicaのBluebonnet50、Jhona349およびJaponicaのKoshihikariである。穂に付いた個々の籾について、力学特性を基にして、小枝梗の引っ張り強さと曲げ強さと籾の質量の関係を解析している。これには、籾の配列を基準にした穂の構造モデルを使用している。さらに、確率長円を用いて小枝梗の引っ張り強さと曲げ強さの関係に基づいて、米の品種をグループ分けした。

 この実験で得られた最も重要な結果は、曲げ強さが、引っ張り強さに比べて非常に小さいということである。この結果を用いて、収穫時の損失を減らし、より少ない力で脱穀をすることができないかと考えた。

 第3章では、フラットベルトを用いた、籾の脱穀機構に必要なトルク計算のための数学モデルについて述べている。米の穂を円筒形の粘弾性物体と仮定し、それが速度の異なる二つのフラットベルトの間を通過すると考える。ベルトの中に挿入された穂の応力および摩擦力が、小枝梗の曲げ強さを超えたとき、脱穀が行われると考えられる。

 穂にかかる力は、ローラーの間でかかる力と、ベルトの間でかかる力の2種類があり、これらの力を求める数学モデルを作成して脱穀するのに必要とされるトルクのコンピュータシミュレーションを行った。その結果、穂がベルトにより移動搬送されるとき穂の直径が変化するため、穂がローラーを通過するときの所要トルクは前のローラーより後のローラーの方が少なくてすむことがわかった。

 第4章では籾とゴム表面の摩擦係数を求め、さらに穀物の水分量が摩擦係数に及ぼす影響を実験的に調べている。実験にはJavanicaのArborio、IndicaのBluebonnet50、Jhona349およびJaponicaのKoshihikariの四品種の米を使用した。ベルト素材としては三種類の異なった表面素材のものを用いている。それらはコンベヤゴムシート、ナチュラルゴムシートおよびシリコンゴムシートである。せん断力と相対移動距離の関係は各品種、ゴム表面毎にほぼ同じであった。摩擦力はせん断過程の一番初期で最大となった。実験により四品種の米と三種類のゴムシート間の摩擦係数を求めており、その結果、摩擦係数はゴムの種類によって大きく異なることを示している。また、穀物の水分量が増加すると、摩擦係数も増加する傾向を示している。このことは調査したすべての品種について認められた。

 第5章では試作したフラットベルト摩擦機構で籾の脱穀実験を行いその結果について述べている。ベルトの中に挿入される穂が大きくなるにつれて脱穀するのに大きなトルクを必要とした。この現象はすべての品種、ベルト間隔、ベルトの速度に対して認められた。ベルト間隔が1ミリの場合のトルクは2ミリの場合に比べ大きかった。また穂とベルトの間に滑り現象のあることが認められた。IndicaのBluebonnet50が実験で用いた他の品種に比べてよりよく脱穀された。それとは逆にJaponicaのKoshihikariは脱穀するのが困難であった。損傷を受けた籾の割合はBluebonnet50が実験した中では一番小さかった。ArborioとKoshihikariの脱穀された籾は全てベルトの後方に移動された。しかしながらBluebonnet50の籾の幾分かは脱穀過程の途中でベルトの下に落ちた。

 第6章ではこの研究の摘要を述べている。

 以上要するに本研究は、籾の脱穀における力学特性を明らかにするとともにフラットベルト式脱穀機構を試作して、その出力特性についてシミュレーションと実験を行い、諸特性を明らかにしたもので、この分野の学問及び技術に新しい知見を加え、発展に貢献するところが少なくない。よって審査員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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