学位論文要旨



No 112726
著者(漢字) マッシジャヤ ムハッマド ユスラム
著者(英字)
著者(カナ) マッシジャヤ ムハッマド ユスラム
標題(和) 使用済み新聞紙を原料とするボードの開発
標題(洋) Development of Boards Made from Waste Newspaper
報告番号 112726
報告番号 甲12726
学位授与日 1997.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第1789号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 生物材料科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大熊,幹章
 東京大学 教授 有馬,孝礼
 東京大学 助教授 小野,拡邦
 東京大学 助教授 太田,正光
 東京大学 助教授 磯貝,明
内容要旨

 この論文は使用済み新聞紙を原料とするボードの開発に関するものであり、第1章はボードの製造と基本的材質、第2章では木材パーティクル混合ボードを扱い、第3章においては新聞紙ボードと既存ボードの物性を比較している。

1.ボードの製造と基本的材質a.密度の影響

 本実験は新聞紙を原料とするボードの開発に関わるものである。省エネルギー的にボード製造を行うために新聞紙をパルプに戻すことなく、そのまま切断してパーティクルとし接着剤をスプレイ塗布してボードに製板した。接着剤としてはユリア(UF)とフェノール(PF)樹脂接着剤の2種類を用いた。新聞紙の密度は平均0.58g/cm3であったが、これを用いて密度0.50-0.90g/cm3のボードを製造した。

 ボードの密度が増加すると曲げ強さと曲げヤング率も増加した。密度0.8g/cm3のボードの曲げ強さはJIS A 5908の8タイプパーティクルボードの基準値をクリアーした。

 ボード密度が増加すると剥離強さも増加したが、値がかなり低く、JIS A 5908の基準値に及ばなかった。吸水厚さ膨張率も基準値をクリアーできなかった。

b.マット含水率の影響

 マットの含水率を10、15、20、25、30%に変化させた。実験の結果を以下に示す。

 パーティクルマット含水率の増加にともない曲げ性能、剥離強さはマキシマムカーブを示した。常態での曲げ強さ、曲げヤング率には、UFボードとPFボードで差が認められ、PFボードの方が大きかった。パーティクルマットの含水率18%-27%においてPFボードでは18タイプ、UFボードでは13タイプの基準値を上回った。剥離強さもマット含水率に対してマキシマムカーブをとるが、JIS A 5908基準値を満足しない。煮沸処理後の残存MOR、MOEもマット含水率に対してマキシマムカーブを示した。PFボードはJIS A 5908の13タイプの基準値をクリアした。PFボードではUFボードより吸水率と厚さ膨張率が小さかった。しかし、PFボードの厚さ膨張率はJIS A 5908の基準値12%をクリアしなかった。ボードの性能はプレス時のマット含水率に大きく影響をうける。したがって製造時のマット含水率の制御が重要である。

c.接着剤の影響

 本実験では3種類(UF,PF,イソシアネート(IC))の接着剤を用い、接着剤の添加率は2、4、6、8、10%でボードを製造した。

 接着剤添加率の増加にともない曲げ性能、剥離強さは向上した。常態での曲げ強さ、曲げヤング率には、ICボード、UFボードとPFボードで差が認められ、ICボードが最も大きかった。接着剤2%の添加率でICボードは18タイプ、PFでは13タイプの基準値を上回った。

 剥離強さも接着剤添加率の増加に伴い向上するが、UFボードとPFボードでは一般的に剥離強さは低く、JIS A 5908基準値を満足しない。しかしIC接着剤ボードでは6%で13タイプの基準値を上回った。8パーセントで18タイプを満足した。

 ICボードはPFボードとUFボードより吸水率と厚さ膨張率が小さかった。しかし、ICボードの厚さ膨張はJIS A 5908の基準値12%をクリアしなかった。

d.紙の種類の影響

 本実験では3種類の紙(新聞紙、使用済みオフィス用紙、広告用紙)、3種類の接着剤(IC、UF、PF)を用いボードを製造した。

 全体の傾向として、ICボードの方がPFボードとUFボードより曲げ性能、剥離強さが大きかった。PFボードとUFボードにおいては、PFボードの方がUFボードより上記に示した物性は大きかった。常態での曲げ強さ、曲げヤング率では、新聞紙ボード、使用済みオフィス用紙ボードと広告用紙ボード間に差が認められ、新聞紙ボードの方が大きかった。

 剥離強さは使用済みオフィス用紙の方が新聞紙と広告用紙より値が大きかった。IC-使用済みオフィス用紙のボードはJIS A 5908の18タイプを上回った。使用済みオフィス用紙ボードは新聞紙ボードと広告用紙ボードより吸水率と厚さ膨張率が小さかった。しかし、使用済みオフィス用紙ボードの厚さ膨張はJIS A 5908の基準値12%をクリアしなかった。

e.ボール紙をラミネーションした事による影響

 ボール紙で新聞紙ボードをラミネーションしたボードを製造した。

 全体の傾向として、ICボードの方がPFボードとUFボードより曲げ性能、剥離強さが大きかった。PFボードとUFボードに対して、PFボードの方がUFボードより物性が大きかった。

 ボール紙をラミネーションしたボードは全接着剤の種類とも曲げ強さ、曲げヤング率、剥離強さが増加した。ICボードとPFボードはJIS A 5908の18タイプをクリアーした。ラミネーションUFボードは18タイプ、普通のUFボードは13タイプをクリアーした。

 常態での曲げ強さ、曲げヤング率、剥離強さにはICボード、UFボードとPFボードで差が認められ、ICボードが最も大きかった。UFボードとPFボードでは、PFボードの方が大きかった。

2.木材パーティクルを混合したボードの製造と基本的材質

 本実験では新聞紙と木材を混合したボードの開発を目的とした。新聞紙はそのまま切断してパーティクルとし、木材パーティクルは東京ボード株式会社から提供されたものである。それぞれのパーティクルは全乾とし接着剤をスプレイ塗布してボードに製板した。接着剤はIC樹脂接着剤を用いた。製造したボードの密度は0.90g/cm3である。

a.木材パーティクルの混合率とボード構成の影響

 本実験では5種類のボード(100%新聞紙、100%木材パーティクル、ランダムタイプ、フェスタイプ、コアータイプ)構成で製造した。ここでランダムタイプとは木材パーティクルと新聞紙パーティクルを混合したものである。フェイスタイプでは木材パーティクルが表層にあり、コアタイプはコアが木材パーティクル層である。木材パーティクルの混合率は0、20、40、60、80、100%である。

 木材パーティクルを混ぜた新聞紙ボードにおいてはMORとMOEがマキシマムカーブを示した。またコアタイプの方がフェイスタイプ、ランダムタイプに比べて大きかった。フェイス層に新聞紙パーティクルを、コア層に木材パーティクルを重ねたためであると思われる。混合率40-60%のボードの性能が最も優れている。全ての試験体はJIS A 5908の18タイプをクリアした。

 煮沸処理後の曲げ性能の残存はコアタイプボードの方がフェイスタイプボードとランダムタイプボードに比べ大きかった。しかし、曲げ性能の残存率では、フェイスタイプボードとランダムタイプボードの方がコアタイプより大きかった。

 木材パーティクルの混合率が上がると剥離強さも増加した。ランダムタイプとコアタイプの20%木材混合率のボードはJIS A 5908の18タイプが示した。フェイスタイプでは40%で18タイプを示した。

 木材パーティクルの混合率が上がると吸水率と厚さ膨張率が小さくなった。しかし、全ての実験体の厚さ膨張はJIS A 5908の基準値12%をクリアしなかった。

b.接着剤添加率と接着剤勾配の影響b.1接着剤添加率の影響

 aの実験ではコアータイプボードが一番良い結果を示した。そこで今回の実験ではコアタイプボードのみを製造し、IC接着剤の添加率を2、4、6%としてボードを製造した。

 接着剤添加率の増加にともない曲げ性能、剥離強さ、厚さ膨張、吸水率も改善された。それぞれの性能は接着剤の添加率の増加に伴い向上した。しかし、曲げ性能残存率と接着剤添加率に対して、関係が見られなかった。

 接着剤添加率2%でも混合ボードの曲げ強さと曲げヤング率はJIS A 5908の18タイプを示した。

 接着剤添加率4%で混合ボードの剥離強さはJIS A 5908の13タイプを示した、6%では18タイプを示した。

b.2接着剤分布の影響

 本実験ではコアータイプボードについて。IC接着剤添加率を4、6%でボードを製造した。接着剤の配分は70、80、90%を表層にスプレイした。

 表層の接着剤添加率の増加にともない曲げ強さ、曲げヤング率も良くなった。接着剤添加量70%を表層にスプレイしたボードは(接着剤の添加率4%と6%)JIS A 5908の13タイプを示した。他は18タイプを示した。

 接着剤の分布の影響は厚さ膨張に影響が見られなかった。全ての試験体はJIS A 5908をクリア出来なかった。

3.新聞紙ボードと他のボードの比較。

 本実験では新聞紙ボードと合板、パーティクルボード、石膏ボード、OSB、セメントボード、インシュレーションボード、MDF、ハードボードを比較した。実験の結果を以下に示す。

 MORについては、ハードボードは他のボードと比べ一番強く、次は合板(長さ方面)であった。IC新聞紙混合ボードは合板(幅方面)、OSB(長さ方面)、MDFと同じ値を示した。IC、PF、UF新聞紙ボードの値はそれらより少し小さかった。

 MOEについては、IC新聞紙混合ボードはセメントボード、合板(長さ方面)、OSB(長さ方面)と同じ値を示した。このボードの値はハードボードの値より少し小さかった。

 合板、石膏ボード、OSB、セメントボード、インシュレーションボード、MDF、ハードボードの厚さ膨張率はJIS A 5908の基準値をクリアした。しかしパーティクルボード、新聞紙ボードの厚さ膨張率はJIS A 5908の基準値をクリア出来なかった。

 新聞紙ボードはパーティクルボードと同じ物性を示したため、用途も同じと考えて良い。

4.結論

 以上の結果より、以下の結論が得られた。

 a.UF、PF、IC接着剤を用いて、古紙(新聞紙、使用済みオフィス用紙、広告用紙)で内装用ボードが製造可能である。中でも、IC接着剤を用いたものは最も良い結果を示した。

 b.新聞紙ボードの曲げ性能は基準を十分満たしているが、剥離強さ、吸水率、厚さ膨張を改善しなければならない。

 c.木材パーティクルを新聞紙パーティクルに混合すると、混合率に対して曲げの物性値はマキシマムカーブを動く。混合率40〜60%のものが通常のパーティクルボードよりも曲げ性能が大きくなることは意義深いことである。

 d.しかし、水分に対する性能は不十分で、今後の検討が望まれる。

審査要旨

 資源枯渇時代を迎えて使用済み製品の再資源化の促進が強く求められている。多くの製品の中で新聞紙のリサイクル率は50%を越えているが、繊維の劣化を考慮するとこのリサイクル率は限度に達しているものと考える。使用済み新聞紙を付加価値の高い製品、より長期にわたって使用する製品に転換利用する技術開発が望まれる。

 このような状況を踏まえて、本論文は使用済み新聞紙を原料とする建築用ボードの製造を考究したものである。論文は全5章からなっている。第1章では研究の目的と背景が述べられ、続く第2章では使用済み新聞紙のリサイクル及びボード製造に関する既往の研究が概説されている。第3章以下第5章までが本論文の主要な部分であるが、以下にその内容の概略を示す。

1.ボードの製造と基本的材質

 省エネルギー的にボード製造を行うために新聞紙をパルプに戻すことなく、そのまま切断してパーティクルとし接着剤をスプレイ塗布してボードに製板した。接着剤としてはユリア(UF)とフェノール(PF)樹脂及び一部にイソシアネート(IC)樹脂接着剤を用いた。新聞紙の密度は平均0.58g/cm3であったが、これを用いて密度0.50-0.90g/cm3のボードを製造した。製造したボードについて基礎的材質を試験したが、ボード密度が増加すると曲げ強さと曲げヤング率も増加した。密度0.8g/cm3のボードの曲げ強さはJIS A5908に規定する8タイプパーティクルボードの基準値をクリアーした。ボード密度が増加すると剥離強さも増加したが、値がかなり低くJIS基準値に及ばなかった。吸水厚さ膨張率も基準値をクリアーできなかった。次にフォーミング時のマットの含水率を10、15、20、25、30%に変化させ、材質に与える影響を考察した。パーティクルマット含水率の増加にともない曲げ性能、剥離強さはマキシマムカーブを示した。パーティクルマットの適正含水率は18%-27%で、これより低い場合はパーティクルが接着剤の粘着力で固まってしまい均一なマットが出来ない。一方、含水率が高過ぎると熱圧締時にブリスターが生じるためと考える。

2.木材チップを混合したボードの製造と材質

 ボード材質を向上させるために新聞紙パーティクルと木材チップを混合したボードを製造し材質を検討した。接着剤はIC樹脂接着剤を用いた。ボード密度は0.90g/cm3である。本実験では3種類のボード、すなわち、ランダムタイプ(新聞紙と木材チップを均一に混合)、Fタイプ(新聞紙をコアーに、木材チップを表裏層にしたもの)、Cタイプ(新聞紙を表裏層に、木材チップをコアー層におくもの)ボードを製造した。木材チップの混合率を0、20、40、60、80、100%と変化させたが、0及び100%はそれぞれ新聞紙、木材チップのみで構成されるボードである。これらのボードについて曲げ試験を行なったが、MORとMOEがマキシマムカーブを示し、混合率40-60%で最大値を示した。特に表裏に新聞紙層を載せたCタイプボードは曲げ性能が大きく増大する。このことは単独のエレメントによるもの(即ち通常のパーティクルボード)より新聞紙層を表裏においたボードの方が性能が向上することを示す。

3.新聞紙ボードと市販各種ボードの性能の比較

 市販の各種建築用ボードと材質を比較したが、曲げ性能についてはこれに匹敵する性能を保持することが認められた。特にCタイプボードは優れた値を示す。しかし剥離強さ、水分による厚さ膨張率については合板、通常のパーティクルボードの性能にに及ばない。新聞紙自体の層間剥離が問題であり、何らかの処理が必要である。

 以上要するに、本論文は使用済み新聞紙の新しい用途として建築用ボードへの再利用の可能性を考察したものであり、基礎的実験を積み重ね、その結果をもとに新聞紙層を表裏層に、木材チップ層をコアー層に用いることによって通常のパーティクルボードよりも強度の大きなボード製造に成功したもので、学術上、応用上貢献するところが少なくない。よって審査員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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