本研究はショウジョウバエの視覚系組織を電子顕微鏡を用いて微細形態学的およびautoradiography的研究を行ったものである。更に、これらの組織で特異的な分子の局在を免疫組織化学的手法により検索した。 1)Studies on the structure of ocellar photoreceptor cells of Drosophila melanogaster with special reference to subrhabdomeric cisternae (ショウジョウバエ単眼視細胞の微細形態とrdgA,rdgB蛋白質のsubrhabdomeric cisternaeへの局在) はじめに:ショウジョウバエには2個の複眼の他に、3個の小さな単眼があり紫外線と青色光の受容を行っていると考えられているが、細胞生物学的研究は殆ど行われていない。そこで、単眼視細胞の微細形態を検討した。特に、複眼において光受容膜の代謝や光情報変換過程に関与することが知られている、subrhabdomeric cisternae(SRC)に注目して検討したところ、複眼と同様に単眼視細胞にもSRCが存在し、網膜変性を伴うrdgA,rdgB突然変異体において、SRCの崩壊にひき続き光受容膜変性が進行すること、さらにrdgA蛋白質(diacylglycerol kinase)、rdgB蛋白質(phosphatidylinositol transfer protein)が単眼視細胞のSRCに局在することがわかった。 材料と方法:Drosophila melanogaster野生種、白眼正常種(w),yw;rdgAPC47,rdgB2およびw;rdgB2を用いた。通常の電顕法により単眼の微細形態を観察した。rdgA,rdgB蛋白質の局在は免疫電顕法により解析した。頭部をPLP固定し、クリオスタット切片を免疫染色した後エポン包埋し、超薄切片を鉛染色した後鏡検した。一次抗体にはmouse anti-rdgB serum,rabbit anti-rdgA serumを用い、二次抗体はHRP-conjugated IgG Fab’を用いた。DAB反応、OsO4処理により発色した。 結果と考察:単眼には一個のレンズの下に一層のcorneagenous cells、その下に75-90個の視細胞が存在し、この視細胞全体をpigment cellsが囲んでいた。視細胞には複眼同様、微絨毛からなる光受容部(rhabdomere)が存在し、その近傍には複眼のSRCと同様の滑面小胞体の網工が認められた。また、突然変異体rdgA,rdgBでは、複眼と同様にSRCの崩壊と光受容膜の変性が観察され、単眼のSRCも光受容膜の形態維持に必須の構造であると思われた。更に、抗rdgAおよび抗rdgB抗体でSRCとこれに隣接する光受容膜(およびendocytic invaginataionとmultivesicular body)が強く染まり、単眼においても光受容膜の維持にSRCが関与していることが示唆された。 2)Corneal lens secretion in newly emerged Drosophola melanogaster examined by electron microscope autoradiography.(ショウジョウバエのレンズ物質分泌に関する電顕的オートラジオグラフィーによる研究) はじめに:視覚は動物行動にあって重要な器官の中のひとつである。視覚系のレンズは集光および屈折の調節をする。従って、レンズの構造は正確な形態形成をしているはずである。脊椎動物でレンズ形成の機序はよく研究されている。しかし、ショウジョウバエのレンズ形成とその維持についての詳細な報告はない。本研究では電顕オートラジオグラフィーによりレンズ物質の分泌機構を調べた。 材料と方法:羽化後数時間以内の野生種Drosophila meranogasterに3H-amino acids mixture(leucine,lysine,phenylalanine,proline and tyrosine)または3H-sugars mixture(mannose and glucosamine)を注入した。注入3時間後2.5%glutaraldehydeと2%formaldehydeで固定、包埋した。複眼と単眼の超薄片に乳剤を塗布し、露出を行い、写真処理後電子顕微鏡で観察した。 結果と考察:本研究によりショウジョウバエレンズにおける蛋白質と糖質の生産および蓄積のちがいが解明された。更に、単眼および個眼のレンズ形成の違いも示唆された。単眼ではレンズ下に多数の銀粒子が観察されたが、複眼のレンズでの銀粒子は少数であった。この事実はこの時期のショウジョウバエでは複眼のレンズは形成が終了していることを示す。そして単眼のレンズ形成は複眼のレンズより遅れて形成されることを示している。さらに、レンズ中の部位によってアミノ酸と糖質の分布の差が示された。すなわち、レンズ中央部の厚いところでは糖質による銀粒子は多数存在する特異な分布パターンを示すが、アミノ酸よるラベルにはこのようなパターンは認められなかった。これはレンズの主要な糖質成分はキチンであり、大部分の3H-glucosamineはキチンと結合された形で蓄積されることを示唆し、これがレンズの曲面の形態を形成するのに深く関係すると考えられる。 3)The immunolocalization of a Drosophila eye protein recognized by antisquid retinal-binding protein antibody. (anti-squid retinal binding protein antibodyにより認識されるショウジョウバエの眼蛋白質の免疫局在) はじめに:Retinoid-binding protein(RBP)は視覚系の機能維持に重要な役割を果たすことが知られている。数種類報告されているRBPのうちのひとつがinterphotoreceptor retinoid binding protein(IRBP)で、これは脊椎動物ではinterphotorecetor matrix(IPM)でretinoidを運ぶ役割をする。本研究はショウジョウバエにおいてこれと類似な機能をすると示唆される蛋白質が複眼の中心腔(central cavity)および単眼の視細胞間隙(interphotoreceptor space)に局在することをしめした。 材料と方法:野生種Drosophila melanogeterを材料として使用。抗イカRALBP抗体(分子量約100KDaのショウジョウバエ頭部蛋白質を認識する)を用いてその抗原の局在をpre-embedding NANOGOLD labellingとLR White Resinよるpost-embedding colloidal gold labelling免疫電子顕微鏡法で観察した。 結果と考察:ショウジョウバエの視覚系において、anti-squid RALBP antibodyが認識する蛋白質の局在を調べた結果、この抗原蛋白質は複眼の中心腔と単眼の視細胞間隙に局在することが示された。またこの蛋白質はcone cellおよびconeには局在しないが、視細胞の細胞質には存在する。しかし、感桿分体には存在しない。これらの結果から、この蛋白質が視細胞で生産された後中心腔および視細胞間隙に分泌され、そこでレチノイドの担送に関与すると考えられる。 |