本研究では異種動物間のよく保存された酵素でヒドロキシステロイド硫酸基転移酵素のイソ酵素と思われるコレステロール硫酸基転移酵素に関する機能と代謝を調べるため、ウサギ生体内の各組織におけるコレステロール硫酸及び関連酵素の比活性を測定し、更に、遺伝子工学的手法を利用してウサギ各組織における硫酸基転移酵素の遺伝子の発現及びヒドロキシステロイド硫酸基転移酵素との関連性について調べ、下記の結果を得ている。 1.コレステロール硫酸はスルファチドよりも広範囲な組織に分布し、上皮組織に主として分布していることが示された。食道、胃、十二指腸、空腸のコレステロール硫酸とスルファチドの濃度は逆相関の関係にあり、コレステロール硫酸の濃度はこの順に減少した。この変化は上皮構造の違いに由来することが示された。 2.コレステロール硫酸基転移酵素はコレステロール硫酸を含有する組織に検出されるが、比活性は組織間で大きな違いがあった。コレステロール硫酸の濃度に比例せず、酵素と基質が含有されていてもコレステロール硫酸を含まない組織があった。子宮内膜においては偽妊娠誘導後4日目に転移酵素活性の急激な増加とコレステロール硫酸の蓄積が観察された。 3.コレステロール硫酸脱硫酸酵素の比活性は肝が最も高く、その他のすべての組織にも検出された。肝以外の組織の比活性は硫酸基転移酵素のような違いを示さなかった。また、生細胞の存在しない毛髪にも活性が検出された。 4.ウサギ3-ヒドロキシステロイド硫酸基転移酵素の遺伝子の一部を初めてRT-PCR法で増幅した。得られたcDNA断片はラット肝の遺伝子(ST-20)と99%、ST-40と92%、マウス肝の3-ヒドロキシステロイドSTcDNAと86%、ヒト肝のヒドロキシステロイドSTcDNAと72%、ラットのSMP-2タンパク遺伝子と64%のホモロジーを持ち、ウサギ組織のみならず、ラット肝の酵素遺伝子とも反応した。このcDNA断片をプローブとして用いNorthern解析を行ったところ、コレステロール硫酸基転移酵素の比活性が低い肝、非妊娠子宮内膜と心に1000bpのRNAが検出されたが、酵素活性を持つ皮膚と偽妊娠子宮内膜には検出されず、3-ヒドロキシステロイドとコレステロールに対する硫酸基転移酵素は異なる配列を持つことが示唆された。 以上、本論文は生理活性分子としてのコレステロール硫酸と関連酵素の分布をウサギ各組織について調べ、ヒドロキシステロイド硫酸基転移酵素との関連性について検索しており、コレステロール硫酸は主として上皮組織に広範囲に分布し、その関連酵素の活性は組織間で大きな違いがあるという研究を中心にしてまとめたものである。また、ウサギの子宮内膜では偽妊娠によりコレステロール硫酸基転移酵素が特徴的に増加し、その結果、コレステロール硫酸を蓄積することが示されたことにより、硫酸基転移酵素はステロイドホルモンによる制御を受け、コレステロール硫酸の硫酸基は受精卵の着床現象に関与していることが明らかになった。これらの知見は生物的にも極めて重要な意義を持つことと考えられる。コレステロール硫酸と関連酵素哺乳類動物の上皮組織における分布と活性の発現調節に関する知見はコレステロール硫酸の生理的意義の解明に重要な貢献なすと考えられ、本研究は学位の授与に値するものと判断される。以上審査結果を報告する。 |