脂肪肉腫のうち粘液型および円形細胞型は病理組織学的に混在することが多く、明確に両者を病理組織診断することが困難であることが往々にして見られた。また、従来の分類では予後といった悪性度を反映していないことが少なくなかった。本研究は、粘液型と円形細胞型を一連の腫瘍性病変と考え、悪性度を判断するための客観的な指標の確立を目的とし、細胞密度や腫瘍細胞核面積に基づく、新たな粘液型および円形細胞型脂肪肉腫の分類を試みたものである。 粘液型および円形細胞型脂肪肉腫23症例29切除巣を対象とし、組織像の他、主として形態計測を用いて悪性度を反映すると考えられる指標を設け、その指標を基にした分類を行った。予後や局所再発あるいは転移の発生率といった臨床事項、細胞増殖能、核DNA量やプロイディーパターンの検索および比較を行い、実際にその分類が悪性度を反映しているか否かを検討し、指標の妥当性を考察した。また、血管内皮増殖因子(VEGF)の発現と組織型や悪性度との相関を免疫組織化学的手法を用いて検索し、以下の結論を得た。 1.粘液型脂肪肉腫と円形細胞型肉腫とは組織学的に明確に分けることは不可能であり、一連の組織亜型とするのが妥当であり、その悪性度を反映する客観的指標として細胞密度と腫瘍核面積が有用である。細胞密度および核面積は各々単独でも、ある程度悪性度を反映するが、両者を組み合わせて用ることにより、より正確に悪性度を反映する指標となり得ると考えられた。 2.細胞密度では、1視野(250×250m2)内に観察される腫瘍細胞が150個以上の高細胞密度領域の有無が悪性度の境界値となると考えられた。 3.核面積では、43.703m2以上の大型の核をもつ腫瘍細胞がの占める割合が20%以上であるか否かが重要であり、この値が境界値となると考えられた。 4.低細胞密度かつ小型核の症例群は有意に悪性度が低く、高細胞密度かつ大型核の症例群は有意に悪性度が高く、予後良好と推測される症例と予後不良と推測される症例に分けることが可能であると考えられた。 5.VEGFの発現と腫瘍の血管密度や悪性度との相関はみられず、粘液型および円形細胞型脂肪肉腫の腫瘍血管の形成には他のVEGFの関与は乏しことが示唆された。 6.新たな脂肪肉腫の分類として以下の分類を提案する。 1.well differentiated type 2.myxoid/round cell type 4.pleomorphic type 5.dedifferentiated type a.small cell and non-cellular subtype b.intermediate subtype c.large cell and cellular subtype 以上、本論文は粘液型および円形細胞型脂肪肉腫は、細胞密度と腫瘍細胞核面積を指標とした場合、悪性度を反映する新たな3群に再分類可能であることが明らかとなった。病理組織診断や治療、予後の判断といった臨床的側面において重要な貢献をはたすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |