本研究は、C型肝炎ウイルス(HCV)の感染増殖様式において重要な役割を演じていると考えられているHCVの複製機構を明らかにするため、T7 RNAポリメラーゼを発現する非増殖型アデノウイルス(AdexCAT7)を用いたHCVのミニジーンの系にて、細胞内でのHCVミニジーンRNAの複製条件の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.各種動物細胞に非増殖型の組換えアデノウイルス(AdexCAT7)を感染させ、細胞内のT7ポリメラーゼの活性を解析した結果、いずれの細胞でも活性が認められたが、特にHepG2,HeLa細胞で高い活性を示した。また、ウエスターンブロッティング法にて細胞内におけるT7ポリメラーゼの発現を経時的に解析したところ、感染後11日までT7ポリメラーゼが発現していることが示された。 2.AdexCAT7を用いて、各リポータープラスミドから細胞内で転写されるRNA量をノーザンブロット法にて解析した結果、modifyしたT7プロモーターを含むpT7HCVLucから転写されるRNAはpT7EMCVLucやpT7Lucから転写されるRNAなどと比較して著明に低下していることが示された。一方、pT7HCVLucから転写されるRNA量はpT7EMCVLucやpT7Lucから転写されるものと比較して10分の1から5分の1ではあるが、FLC4細胞内でのみpT7HCVLucからの転写効率が増強していることが示された。さらに、シークエンスにて細胞内で合成されたHCVのミニジーンRNAの5’末端の塩基配列が設計した通りに細胞内でも合成されていることが示された。 3.各種動物細胞にAdexCAT7を感染させ、予め細胞内でT7ポリメラーゼを発現させておいて、そこへ各リポータープラスミドをトランスフェクションし、ルシフェラーゼの活性を測定した。調べた殆どの細胞で、EMCVのIRESを持つpT7EMCLucで最も高い活性を示したが、唯一、FLC4細胞のみがHCVのIRESを持ったpT7HCVLucで最も高い活性を示した。一方、pT7Lucではどの細胞でも活性が認められなかった。 2.EMCVとHCVのIRESの翻訳効率の違いを検討するためにpT7EMCLucとpT7HCVLucを鋳型にしてin vitroでRNAを合成し、同じ量のRNAを細胞にトランスフクションしてルシフェラーゼの活性を測定した。 調べたほとんどの細胞ではHCVの5’UTRを持つミニジーンRNAとEMCVのIRESを持つRNAでルシフェラーゼ活性に有意な差は認められなかった。一方、FLC4細胞では、トランスフェクション後12時間以降48時間にわたり、HCVの5’UTRを持つミニジーンRNAの方が、EMCVのIRESを持つRNAよりも高い活性を示した。 したがって、FLC4細胞には、HCVの5’UTRを持つミニジーンRNAの翻訳効率を上昇させる、あるいはこのRNAを選択的に安定化させる何らかの因子が存在するものと考えられる。 3.FLC4細胞にAdexCAT7を感染後24時間後にルシフェラーゼ遺伝子の代わりにHCVのコア遺伝子を挿入したプラスミドpT7HCVLucをトランスフェクトし、コア蛋白の発現をウエスタンブロット法で解析した。トランスフェクト後2-4日目にかけてコア蛋白の発現が認められた。 以上、本論文はT7 RNAポリメラーゼを発現する非増殖型アデノウイルス(AdexCAT7)を用いた細胞内でのHCVミニジーンRNAの解析から、HCVのミニジーンRNAを安定化させかつ、HCVの5’UTRに特異的に翻訳効率を増強させる何らかの因子を含んだヒト肝癌由来細胞(FLC4細胞)の存在を明らかにした。本研究はこれまで未知に等しかった、HCVの複製に必須なウイルス及び宿主因子の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |