胚中心は胸腺依存性抗原に対して応答するB細胞の増殖、分化の場として2次リンパ器官に形成され、組織学的に暗半球と明半球に大別される。暗半球の胚中心B細胞は急速な分裂を繰り返すとともに、その免疫グロブリン遺伝子に体細胞突然変異が生じることが明らかにされている。明半球の胚中心B細胞は体細胞突然変異により、濾胞樹状細胞上に提示された抗原に対し高親和性の免疫グロブリンを発現した細胞のみが生存維持され、その多くはアポトーシスに陥ると推測されている。これまでヒト胚中心B細胞を用いた研究において、B細胞受容体、CD40、CD38を介した刺激などがそのアポトーシスを試験管内で抑制するという報告、さらにサイトカインおよびCD40を介した刺激によりヒト胚中心B細胞の増殖分化が誘導されうることが報告されている。 マウスにおける胚中心B細胞の研究においてはCD40およびCD40リガンド(CD40L)遺伝子欠損マウスに胚中心の形成が認められないことが報告され、マウスにおける胚中心の形成にCD40L-CD40を介した刺激が重要な役割を果たしていることが明らかになった。しかしながらマウス胚中心B細胞の増殖分化因子に関してはいまだ不明である。 X染色体連鎖免疫不全(XID)マウスはB細胞の分化障害および機能不全を呈する動物として1970年代に報告され、近年その原因がブルートンチロシンキナーゼ遺伝子の点変異によることが明らかにされた。XIDマウスは2型胸腺非依存性抗原のみならず胸腺依存性抗原に対しても低応答性を示すことが報告されている。しかし胸腺依存性抗原に対する低応答性が胚中心の形成不全に起因するのか、胚中心B細胞の機能不全によるものかは不明である。さらに胚中心B細胞の分化に重要な役割を果たすとされるCD40を介した刺激に対するXIDマウスB細胞の応答性に関しても相反する結果が報告されている。そこで私は野生型マウス胚中心B細胞の分化機構の解明、XIDマウスにおける胚中心形成不全の有無ならびに胚中心が形成された場合の胚中心B細胞の機能の解明を目的とし、以下の研究を行った。 第一に7週齢(雌)BALB/c及びBALB/c.xid(XID)マウスを胸腺依存性抗原であるDNPKLHで免疫し、一次免疫10日後及び二次免疫7日後の血清中抗DNPIgG1抗体価および脾臓における胚中心の形成頻度を比較検討するとともに、胚中心B細胞におけるCD38、CD40、IL-5受容体 鎖などの表面機能分子の発現を組織学的に調べた。 第二に二次免疫7日後の野生型およびXIDマウス脾臓よりB220陽性IgD陰性ピーナッツ凝集素強陽性細胞を胚中心B細胞として、B220陽性IgD陽性細胞を胚中心外B細胞として濃縮し、その細胞表面機能分子の発現をフローサイトメトリーを用いて調べた。さらに胚中心B細胞および胚中心外B細胞を抗CD38抗体、2種類の抗CD40抗体(1C10およびLB429)またはCD40L-CD8融合蛋白およびサイトカインで刺激培養し、その細胞生存率、増殖応答、抗原特異的抗体産生細胞への分化を調べた。 (1)野生型マウス胚中心B細胞の表面機能分子の発現に関して 胚中心B細胞および胚中心外B細胞の多くはCD40を発現していた。胚中心外B細胞はCD38を発現していたが、胚中心B細胞におけるCD38の発現は明半球のB細胞に弱く発現しているのみであった。IL-4受容体、IL-5受容体 鎖の発現は胚中心外B細胞にはほとんど認められなかったのに対し、胚中心B細胞の多くはIL-4受容体を発現していた。また胚中心B細胞の5〜10%はIL-5受容体 鎖を発現しており、それらは主に胚中心の明半球に局在していた。 (2)野生型マウス胚中心B細胞の機能的解析に関して CD40を介した刺激単独では野生型マウス胚中心および胚中心外B細胞の生存延長作用は認められるものの、抗原特異的抗体産生細胞への分化は認められなかった。またCD40を介した刺激により胚中心および胚中心外B細胞の増殖応答が誘導されたが、胚中心外B細胞がより強い増殖応答を示した。さらに両細胞集団ともにその増殖応答の程度は使用したCD40を介した刺激により異なり、1C10、LB429、CD40L-CD8融合蛋白の順であった。 IL-4はCD40を介した刺激の存在下に胚中心B細胞の一部を抗原特異的抗体産生細胞へ分化させ、さらに胚中心B細胞上のIL-5受容体 鎖の発現を増強させた。IL-5はIL-4およびCD40を介した刺激の存在下に胚中心B細胞の抗原特異的抗体産生細胞への分化を相加的に増強させた。また少なくとも私が用いた培養系においては胚中心外B細胞の抗原特異的抗体産生細胞への分化は認められず、さらに抗CD38抗体、IL-2、IL-6、IL-10の刺激による胚中心B細胞の抗体産生細胞への明らかな分化も認められなかった。 (3)XIDマウスにおける胚中心の形成およびその細胞表面機能分子の発現に関して XIDマウス血清中の抗原特異的IgG1は一次免疫後では野生型マウスの10%以下であり、二次免疫後においても野生型マウスの約60%であった。XIDマウスにおける胚中心の形成に関しては、一次免疫後の胚中心の形成頻度は野生型マウスの50%程度であったが、二次免疫後には野生型マウスと同程度の胚中心の形成が認められ、かつCD40、IL-4受容体、IL-5受容体 鎖の発現に関しても野生型マウスとの差は認められなかった。 (4)XIDマウス胚中心B細胞の機能的解析に関して CD40を介した刺激はXIDマウス胚中心および胚中心外B細胞の増殖応答を誘導したが、その程度は野生型マウスに比べ低下していた。さらにXIDマウスB細胞の増殖応答の程度も使用したCD40を介した刺激により異なり、野生型マウスB細胞の応答性と同様に1C10、LB429、CD40L-CD8融合蛋白の順であった。 IL-4およびCD40を介した刺激によりXIDマウス胚中心B細胞の一部も抗原特異的抗体産生細胞へ分化し得たが、その頻度は野生型マウスのそれに比べ低下していた。さらにIL-4およびCD40を介した刺激によるXIDマウス胚中心B細胞のIL-5受容体の発現の増強は野生型マウスのそれと同程度に認められるものの、野生型マウス胚中心B細胞において認められたようなIL-5の抗体産生細胞への分化増強効果はXIDマウス胚中心B細胞では認められなかった。 以上の結果よりCD40を介した刺激およびIL-4刺激はマウス胚中心B細胞の分化に重要な働きを担い、かつIL-5はその作用を増強させると結論した。また胸腺依存性抗原二次免疫後のXIDマウスの胚中心の形成は野生型マウスと差が認められないにもかかわらず、その胚中心B細胞はCD40を介した刺激、IL-4、IL-5に対し低応答性を示すことを明らかにした。このことはXIDマウスの胸腺依存性抗原に対する低応答性の少なくとも一部はIL-4、IL-5、CD40を介した刺激に対する胚中心B細胞の応答不全に起因する可能性を示唆した。 |