本研究は新たに発見された降圧ペプチドであるプロアドレノメデュリンN末端20ペプチド(PAMP)の降圧作用機序をin vivo,in vitroにおいてアドレノメデュリンと比較検討し、また、細胞内情報伝達系についても検討したものであり、以下の結果を得ている。 1無麻酔無拘束下の正常血圧ラットにおけるPAMPによる降圧時の反射性頻脈がアドレノメデュリンに比べ小さいことから本ペプチドが何らかの交感神経抑制作用を有する可能性が考えられた。 2機械的除脳ラットを用いた場合、アドレノメデュリンでは直接血管拡張作用があるために降圧するものの、PAMPでは降圧しない可能性が考えられ、実証された。そこで、除脳ラットの脊髄を外因性に電気刺激し、血圧及び心拍数を増加させた状態ではPAMPにより血圧が低下した。また、この際の血中カテコラミン濃度もに低下した。 3ラット腸間膜において、アドレノメデュリンはノルエピネフリンによる血管収縮を抑制するものの、PAMPは影響しなかった。また、交感神経終末を電気刺激した際のノルエピネフリンの放出を検討したところPAMPは濃度依存的にノルエピネフリンの放出を抑制し、この作用はコカインやデオキシコルチコステロンといったノルエピネフリン再吸収阻害薬によっても抑制されなかった。つまり、電気刺激によって交感神経終末より放出されたノルエピネフリンは交感神経終末やその他の組織に再吸収され、残りのノルエピネフリンを測定しているので、コカインなどの再吸収阻害剤を使うことで、PAMPは交感神経終末からのノルエピネフリン放出そのものを抑制することがわかる。 4PAMPのこれらの作用はアドレノメデュリンの拮抗剤であるCGRP8-37によって抑制されないことからPAMPはアドレノメデュリンとは異なった受容体を介することが考えられた。一方、ヨヒンビンやヘキサメソニウムではPAMPの作用が抑制されなかったことから、PAMPの作用は 2受容体やニコチン受容体を介さないと考えられた。 5NGFにより交感神経様に分化させたPC12細胞を用いPAMPによるtyrosine hydorxylase mRNA量の変化をRT-PCR法及びノザンブロットにて検討した。PAMPは時間依存的にtyrosine hydroxylase mRNA量を減少させたが、アドレノメデュリンではこのような作用は認められなかった。このことから、PAMPはノルエピネフリン放出を抑制するのみならず産生も抑制する可能性が考えられた。 6PAMPによる細胞内情報伝達系を検討する目的でラットを百日咳ワクチンで処理した。本処置により、カルバコールによる徐脈作用は有意に抑制されたことから、百日咳毒素感受性G蛋白を抑制した状態であることがわかった。PAMPによるノルエピネフリン放出抑制、血圧降下作用が腸間膜潅流実験、除脳ラット、正常血圧ラットにおいて抑制された。このことから、PAMPは百日咳毒素感受性Gタンパクを介して作用することが示唆された。 以上本論文はPAMPとアドレノメデュリンという同じ前駆物質からできる2つの降圧ペプチドの作用を比較検討することにより、新たに発見されたPAMPの降圧機序を初めて明らかにしたものであり、学位の授与に値するものと考えられる。 |