本研究は、内軟骨骨化において軟骨が骨に置換される際に重要な役割を演じていると考えられる成長因子の作用を明らかにするため、破骨細胞の形成と活性化とを測定する系、および骨芽細胞の増殖と分化とを測定する系にて、ウシ骨端軟骨から精製された蛋白質の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.ウシ胎仔四肢の骨端軟骨にguanidum chlorideを作用させて得られた抽出物に対し、aceton分画、限外濾過、ゲル濾過を行い、ヘパリンアフィニティーカラムによりさらにその精製を行った。マウス破骨細胞形成促進作用の見られた0.5M NaClで溶出される画分を、C4逆相HPLCカラムにて19個の蛋白質ピークに分画した。活性の見られた5番目のピークを、さらにC8逆相HPLCカラムにより精製し、C8-4を得た。C8-4のN末端アミノ酸を分析したところ、bovine angiogeninのそれと一致することが示された。 2.C8-4は10ng/mlをピークとして用量依存的にマウス破骨細胞の形成と、ウサギ成熟破骨細胞による骨吸収とを促進した。化学合成human angiogeninを用いて同様に検定したところ、C8-4と同等の活性を検出した。したがって、ウシ骨端軟骨中には血管新生因子として知られているangiogeninが存在し、破骨細胞形成促進および骨吸収促進作用を持っていることが示された。この作用によって軟骨・骨基質は溶解し、新たな骨形成の場を作り出すと考えられた。 3.ウサギ成熟破骨細胞のみを単離して骨吸収促進作用を検定したところ、骨吸収促進活性は見られなかった。したがってangiogeninは、破骨細胞以外の細胞を介して間接的に破骨細胞を活性化して骨吸収を促進すると考えられた。 4.ヘパリンアフィニティーカラムから0.5M NaClで溶出される画分と、1.2M NaClで溶出される画分とは、株化骨芽細胞MC3T3-E1のDNA合成を促進し、アルカリホスファターゼ活性を抑制した。前者にはchondromodulin-IIが、後者にはchondromodulin-Iが含まれていることが報告されているので、これらのMC3T3-E1に対する作用を検討したところ、どちらもMC3T3-E1の細胞数とDNA合成とを増加させ、分化の指標であるアルカリホスファターゼ活性を抑制することが示された。したがって、chondromodulin-I,-IIは骨芽細胞の分化を抑制したまま増殖を促進し、骨形成に寄与するものと考えられた。 以上、本論文はangiogeninが骨端軟骨中に含まれ、破骨細胞の形成と骨吸収とを促進していることを明らかにした。また、骨端軟骨中に含まれるchondromodulin-I、-IIは骨芽細胞の増殖を促進することを明らかにした。本研究は内軟骨骨化のメカニズムの解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |