(一)目的:脊髄局所低温による神経組織の影響(Denng-Brown.1945)、神経線維伝導のブロック(Albin.1963)、低温鎮痛は神経細胞活動の抑制、或は、AとC神経線維の抑制によるインパルスの伝導障害と指摘されている。一方、ストレス誘導鎮痛(SIA,stressinduced analgesia)現象も考えられる。今回、神経電気生理学的手法を用い、腰部脊髄局所冷却による脊髄後角細胞活動への影響に、内因性オピオイドが関与しているかを検討した。 (二)方法:成ネコを用い、中脳綱様体除脳後に腰部椎弓切除後、脊髄を横切断し、硬膜切開により第三腰椎から馬尾まで脊髄を露出した、微小電極を腰部膨大部の脊髄後角のL7後根の入る付近に刺入し、脊髄温度以外の条件を生理学的正常範囲内に保ちながら、冷却前(対照値)、冷却中、ナロキソン投与後の発射数を記録した、後角細胞の反応を細胞外微小電極誘導法にて自発発射数およびピンチ法による誘発発射数を記録した。冷却の範囲はL3から馬尾まで、生理食塩水(15℃)を5ml/分の速度で連続潅流し、脊髄表面温度は21℃-22℃に維持した、サーミスター電極により脊髄表面の温度を観察した。水素クリアランス法による脊髄局所血流量の変化を観察しました。 連続脊髄表面冷却1時間後にナロキソン0.1mg/kgを静注したのち、5分おきに発射数を測定した。ナロキソンの効果の消失は、発射数がナロキソンの投与する前と同じレベルとなった時点とした。統計処理にはANOVAを用い、P<0.05を有意とした。 (三)結果:冷却前の発射数を100%とした場合、冷却開始1時間後、ナロキソン投与5分後、25分後、自発発射数は:42.04±9.46%,133.08±36.7%,101.68±33.7%となった。誘発発射数は:59.22±13.35%,124.99±40.36%,74.49±13.34%となっ。冷却1時間後とナロキソン投与5分後との間に有意差があった。冷却前の血流量を100%として、冷却1時間後、復温後の血流量は各々76.27±10.24%,131.26±26.27%であった。 (四)考察:冷却によって抗侵害刺激作用が出現し、脳脊髄内だけでなく末梢組織でもオピオイドペプチドの急激な遊離、放出とともに生合成の亢進があり、脳脊髄液とか血清中のオピオイドペプチド含量増加が認められる。従って、今回の脊髄表面冷却の刺激による後角細胞の発射数減少傾向は脊髄内と血清中のオピオイドペプチド含量増加を一つの因子と考えられる。その根拠としては、ナロキソン投与によって、オピオイドの作用が拮抗され、冷却中でも脊髄後角細胞活動の発射数が活発化したからである。 (五)結語:脊髄表面冷却により脊髄後角細胞活動が抑制されるが、その機構には内因性オピオイドが関与していることが推測された。 |