本研究では、長管骨骨膜からの骨新生過程における骨形成マーカーの発現及びBMPの関与を、明らかにするために実験を行った。ラットの脛骨及び腓骨を摘出し、骨膜残存群及び骨膜除去群の2つのモデルを作製し、骨新生過程の形態学的観察、この過程における骨形成マーカーの発現及びBMP遺伝子の発現を調べ、下記の結果を得ている。 1.下腿の骨を摘出した後、血行を温存した骨膜からの骨新生を調べる骨膜残存モデルと、そのコントロールである骨膜除去モデルを作製し、形態学的な観察を行った。骨摘出術後、4日,1,2,3,4,6週目で組織を摘出した。その結果、骨膜残存モデルでは、良好な骨新生を示した。Soft-X線像の観察では、骨摘出術後1週目で新生骨を示す不透過像を認め、以後経時的に不透過像は増加した。組織学的観察では、術後4日目で軟骨組織を認め、術後1週目で軟骨組織及び骨組織の混在した状態を認めた。骨膜除去モデルでは全く骨新生は認められなかった。今回の観察では、長管骨骨膜からの骨新生過程は、軟骨組織の出現の後、骨組織が形成される過程が観察された。 2.骨膜からの骨新生過程における、骨形成マーカーの経時的発現を調べた。骨摘出術後0,3,5,7日目に新生された組織を採取し、アルカリホスファターゼ活性、Caの定量、オステオポンチン及びオステオカルシンのRT-PCR法による遺伝子発現を調べた。骨膜残存群では骨摘出術後3日目で骨形成に先立ちアルカリホスファターゼの活性が上昇し始め、新生骨の形成が認められた7日目でカルシウムの値が急上昇した。骨膜除去群ではアルカリホスファターゼ、カルシウム共に低く骨形成の生じていないことを裏づけていた。またオステオカルシン遺伝子の発現は骨膜残存群で認められ、骨新生が生じていることが確認され、骨膜除去群では全く認められず骨新生が生じていないことを示していた。オステオポンチンは、In situ hybridization法でそのmRNAの組織内分布検索を行い、幼若な骨組織に発現が認められた。本研究における骨形成マーカーの発現は、Chenらのラット脛骨の成長過程における報告とほぼ同じであった。 3.BMP遺伝子の発現は、RT-PCR法により調べた。骨膜残存群と骨膜除去群ともにBMP-2,BMP-4,BMP-6の遺伝子発現を認めた。骨膜にBMP遺伝子の発現があることは既に報告されているが、骨新生の認めない骨膜除去群の組織からも、BMP遺伝子が発現していることが、今回明らかになった。この結果から手術の侵襲によりBMPが発現し、骨膜細胞の骨新生がこの影響下で促進される可能性もある。骨膜は他の組織に比較してBMPに対する反応性が高いとの多くの報告があり、またBMPのType-1レセプターであるBMPR-1A、BMPR-1Bは骨形成時に骨膜の骨形成層に発現すると報告されている。BMPはこれらレセプターを介して骨膜細胞からの骨新生を促進している可能性が示唆された。 以上、本論文はラット長管骨骨膜からの骨新生過程において、形態学的変化を観察し、さらに同過程における骨形成マーカー及びBMPの発現について、検討を行ったものである。この結果、骨形成マーカーの発現は正常骨成長過程とほぼ同様であり、またBMP-2,BMP-4,BMP-6の遺伝子発現が認められた。BMP遺伝子の発現は、骨新生の生じない骨膜除去群の組織にも同様に発現することが明らかにされた。これらの結果は、骨膜からの骨新生過程におけるBMPの関与を解明することに多大な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |